産地を訪ねて

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2025.01

100年先も祭りを支える職人技。石川県唯一の『獅子頭専門工房』知田工房が守る、現代に生きる伝統工芸。

2025年1月14日 公開

皆さんは獅子舞を見たことがありますか?お正月やお祭りなどに登場する獅子舞には、何となくめでたいイメージを抱く人も多いかもしれません。中には、獅子舞に頭を噛まれた経験がある人もいるでしょうか?

石川県加賀市は、日本でも有数の獅子舞文化が盛んな地域です。加賀市内には、なんと127もの獅子舞がいます。町ごとに顔つき、色、大きさが異なる獅子頭(ししがしら:獅子舞に使用する木製の獅子の頭部をかたどったもの)があります。(参考:一般社団法人加賀市観光交流機構, コトバンク

*提供:稲村 行真

祭りで口を開け頭を噛んだり、演舞の中で舞手(まいて)によって激しく動かされたりする獅子頭は、修理をしたり、場合によっては新調する必要があったりします。獅子頭の修理や制作をしている職人が加賀市内の127の町だけではなく、日本全国の獅子舞行事を支えています。

獅子頭の制作や修理には、様々な職人が関わります。木材伐採の事業者、木彫り職人、漆や金粉を扱う塗師、飾り職人、毛を編む職人、鉄補強職人、皮職人、音出し職人(鈴など音がなるものを作る職人)、桐箱職人などが分業によって工程を進めます。(参考:知田工房

そういった職人たちと依頼主の仲介だけではなく、獅子頭の点検、整備、制作、修理に関わる木彫り職人がいる獅子頭専門工房があります。それが、石川県白山市八幡町にある知田工房(ちだこうぼう)です。知田工房は石川県内唯一の獅子頭専門工房で、国内でも獅子頭のみを扱う工房は数箇所しかありません。(知田工房調べ)

丁寧に扱い、メンテナンスをしていけば100年先まで使えると言われている獅子頭。新調には数百万円がかかるということもあり、頻繁に新調をしている町はそれほど多くありません。ですが、知田工房に新しい獅子頭の制作を依頼し2024年9月に初披露した町があるのだそうです。それが、石川県加賀市田尻町です。

今回の取材では、新調した獅子頭と共に舞手として活躍する田尻町青年団と知田工房の職人にお話を伺いました。飾られるだけでなく、町の行事で活躍し、修理を繰り返すことで生き続ける獅子頭。地方独自の文化と深く関わる獅子舞の世界を、ものづくりの視点からのぞいてみましょう!


編集部が向かったのは、石川県白山市八幡町です。石川県内唯一の獅子頭専門工房である知田工房(ちだこうぼう)を訪ねました。

知田工房は、1950年ごろに箪笥(たんす)職人だった初代 知田清雲(ちだ せいうん)さんが創業した、獅子頭の制作・修理を行う工房です。

箪笥を作る際に素材として使われる桐は、獅子頭の材料としても使うことができます。そこで初代知田清雲さんは、本業の桐箱制作を続けながら獅子頭の木彫り技術を学び、技を習得されたのだそうです。その後、徐々に獅子頭専門工房として知田工房が知られていきました。

現在は、初代 知田清雲さんの長男である2代目知田清雲さんが当主であり、計3名の職人が在籍しています。(2024年12月取材時)

今回は、2代目知田清雲さんとその長男である知田大芽(ちだ たいが)さんにお話を伺いました。

知田清雲さん

*工房前に立つ知田清雲さん。取材時は雨が降っていましたが、にこやかに外の撮影にも応じてくださいました。

ーー獅子頭の制作や修理は2024年にどのくらい件数があったのですか?

清雲さん:「修理件数は30-40件くらいで、新規の制作は3件が完了しました。」

ーー修理の件数に比べると、新調の件数はとても少ないんですね!

清雲さん:「お獅子は適切な修理をして丁寧に扱えば、100年先にも残ると言われています。ですので、新調の注文は修理に比べてあまり多くありません。

獅子頭を新調するのには数年かかり、費用も数百万円かかるので、お獅子の所有者である町や町の青年団が資金を調達するのが難しいということもあるかもしれません。

ーー数百万円もかかるんですね!驚きました。ちなみに1年の中で注文が一気に増える時期はあるんですか?

清雲さん:「周辺地域の祭りが終わる9月から10月にかけて、修理の依頼が増えます。

ーーそうなのですね。町の祭りとともにあり、町の行事を支えるお仕事なのだなと感じました。次に、獅子頭が生まれるまでの過程や、加賀獅子頭の特徴を教えてください。

加賀獅子頭の特徴

この獅子頭は、石川県加賀市田尻町青年団が2024年9月に知田工房で新調したものです。口を開閉する激しい踊り方をすることを考慮して、歯の下にはクッション材と金属板が施されています。重さは約20kgで、ここまで重量のある大きな獅子頭は他にあまりないのだとか。

清雲さん:「お獅子の主な材料は、桐材です。本体部分(顔の部分)は一本の丸太から彫る『一木作り(いちぼくづくり)』で作っており、その本体部分に耳と、オスの場合はツノがついています。」

ーー獅子頭ってオス、メスがいるんですね!オスに角がついているのは、全国にある獅子頭の特徴なのですか?

清雲さん:「ツノがついているのは、加賀獅子頭の特徴の一つです。古いお獅子を見てみると、江戸時代の前にできた獅子頭にはツノがついていなくて、江戸時代以降にツノをつけるようになったのではないかな、と推察しています。」

ーー最初からずっとツノがあったわけではないんですね!*大切に手入れや保管がされているからこそ、現代に残る獅子頭自体からその歴史を遡ることができるんですね。*獅子頭には、桐材の他にどういった素材が使われているんですか?

清雲さん:「金属板や漆、金箔、革などが使われています。新調も修理も、知田工房だけでは全工程を行えないことがあるので、鉄工所や漆職人など、様々な方に依頼をしています。職人がいる他県へのお獅子の運搬も我々が行います。」

桐材の特徴と木材調達の厳しい現状

清雲さん:「桐材は祭りで舞うのに適した軽さで、獅子頭制作には欠かせない存在です。ですが、桐をセレクトし、伐採した後の木材を販売してくれる業者が今は近くに1社しかありません。今後は遠方からの木材の調達が増えて制作にかかる期間がさらに長くなるかもしれません。

大きいお獅子用の木材は、それだけ大きな丸太を探さなければいけないので、ピッタリな木材を探すのに1年ほどかかることもあります。サイズだけではなく、木材は生(なま)の木でないと彫れないので、探すのに苦労するんです。

ーー桐材は木材の中でも軽い方なんですね。「生の木」とはどういったものですか?

清雲さん:「伐採されてから5年以内くらいの水分を多く含む木材です。それ以上時間が経ってしまい乾いた桐材は彫ろうとすると割れてしまうので使うことができません。

桐は伐採されたばかりのものだと、彫りながら水しぶきがかかることもあります。触ってもらったらどういうものかわかるかな、ちょっと触ってみますか?中心のあたりを触るとちょっと湿っているのがわかりますか?」

ーー本当だ!真ん中のあたりがちょっと湿っていますね。これが生の木なんですね!苦労して木材を見つけても、彫っていく途中でこの木材は使えないとなってしまうこともあるんですか?

清雲さん:「彫っていく途中で見えていなかった節が出てきたり、大きな傷があったりすると、残念ながらその木材は使えないので廃棄するしかありません。」

獅子頭制作の取りかかり方に垣間見える、知田工房のこだわり

ーー新しい獅子頭を彫り始める時はどのように取りかかるのですか?

清雲さん:「木材の断面に縦に中心線を引いて、顔のパーツが左右対称になるように意識して、丸太を見つめて、丸太の中にお獅子の顔がイメージできたら彫り始めます。40年続けてきて、やっと最近それができるようになってきて、先代の父親が言っていたことってこういうことか、とわかるようになってきました。」

ーー図面や下書きはなくて、あるのは中心線だけなんですね!一番最初に彫るところはどこですか?

清雲さん:「鼻の部分から彫りはじめます。『逆目(さかめ)』と言って、どの方向から彫っても木の繊維方向に逆らって彫ることになってしまうので、表面が毛羽立たないように彫刻刀の角度や力加減を調整するのが難しいんです。また、鼻は顔の中心ということもあり、顔の怖さが重要なお獅子にとって、その表情が決まる大事な部分でもあります。そのため、他の箇所よりも最初に仕上げておきたいと思っています。」

修理の依頼が来て、壊れた獅子頭を見た時に思うこと

ーー修理の依頼が来るとき、壊れた獅子頭を見てどんなことを考えますか?

清雲さん:「壊れているお獅子を見るのは正直心が痛みますが、同時にお獅子を見ると、その修理履歴や舞い方もわかります。『清雲』という彫刻が入っているお獅子がやってくると、それが先代の父親が制作したお獅子ということがわかり、その出来栄えに驚くこともあります。

日本全国からやってくるお獅子を修理のために分解して見ると、自分が知らない構造や技法に出会うこともあり、勉強になるんです。

舞っているときではなく、誤って落として欠けてしまったのかな、ということも修理に持ってくる人の表情を見ると、何となく想像がつきます。

応急処置のような感じで、ご自分で修理をされてから、それでもダメだったときに『これって直せますか?』と持ってくる人もいます。

間違った方法や適さない素材で修理をされると後戻りできないこともあるので、出来るだけそのままの状態で持ってきて欲しかったなと思うこともあります。ですが、どんな依頼内容であっても、できる限りのことはしたいと思っています。」

ーー知田工房は町のお祭りに関わる人にとって、まさに駆け込み寺のような場所なのですね。

清雲さん:「修理の依頼の頻度は減るかもしれないけれど、長く大切に使って欲しいという思いで自力でできる修理方法をレクチャーすることもあります。

釘を使って修理をすると釘を刺したところの穴が修理をする度にどんどん大きくなってしまうので、家にある爪楊枝を穴に差し込んで打ち込んだら釘を使わなくても十分直せるんだよ、ということも伝えています。」

ーーだから工房の中にたくさん爪楊枝があるんですね!レクチャーすることのほかに、長く大切に使ってもらうために修理の際に意識された部分はありますか?

清雲さん:「口を開閉し激しく舞うタイプのお獅子の口にクッション材と金属板を入れて、衝撃が木材に伝わりにくくしたことです。そうすることにより、木材が割れたり、欠けたりするのを防ぐことができます。」

これからやってみたいこと

ーーお仕事の中で、どんなときにやりがいを感じますか?

清雲さん:「修理や新調をしたお獅子が実際に祭りで舞手によって演舞で使用されているのをこっそり見に行くんです。そこで、周りにいる人が「かっこいいね」と言っていたり、子どもが怖がっていたりするのを見るとちょっと嬉しくなります(笑)。

やっぱり、目つきが怖く見えるように黒目を小さくしたり、鼻や目のあたりの彫りの深さや角度を意識して作っているので、それが見ている人に伝わるのは嬉しいです。」

*日本一大きな木彫りの獅子。獅子ワールド館にて。

ーー今後、どんなことに挑戦したいですか?

清雲さん:「先代をはじめとして4名の職人が10年かけて作った木彫りのお獅子としては日本一大きい作品があるのですが、それよりもさらに大きなお獅子を作りたいですね。

日本一大きな木彫りのお獅子は、石川県白山市八幡町の獅子ワールド館で見ることができます。

獅子ワールド館には世界各国の様々な獅子が展示されていますが、重さ1.5トンの日本一大きな獅子頭が一際存在感を放っていました。

獅子ワールド館

【獅子ワールド館】パーク獅子吼 THE MUSEUM OF SHISHI WORLD - 金沢・能登おすすめ観光スポット


次にお話を伺ったのは、知田清雲さんの長男である知田大芽さんです。

知田大芽さん

ーー大芽さんは知田工房に2021年に入社されたとのことでしたが、その前にはどういったことをされていたんですか?

大芽さん:「大学卒業後、『知田工房以外のところの親方に教わった方がいい』という父親の助言で知田工房に入る前に大阪の仏師のもとで3年間修業していました。修行先は大学の教授の知り合い経由で紹介してもらいました。」

清雲さん:「親子だとやはり甘えが生じてしまうというか、教える、教わるという環境としては最適ではないと思ったんです。」

ーーなるほど。修行という言葉からは過酷な3年間だったのかなとも推測していたのですが、実際はどうでしたか?

大芽さん:「作業をするのが楽しくて、仕事終わりにも作業を続けて、一日に12時間も木を彫っていたことがありました。」

*仏師のもとでの修行時代の大芽さんの作品。清雲さんが、「これだけ彫り込んでいるのをみて、相当のめり込んで作り込んだんだろうなというのが伝わってきて、よく彫ったなーと思う」と仏像を見せてくださいました。

ーー12時間も!それだけ楽しくてのめり込んでいたんですね。仏像を作るのと獅子頭を作るのとではどういった技法の違いがあるんでしょうか。

大芽さん:「仏像は初めに図面があって、その中に書いてある寸法通りに作るという手順で工程が進んでいくんですが、お獅子の方は図面はなく、『同じ顔つきで新調したい』『歯の部分が壊れにくいように丈夫に作ってほしい』など抽象的な依頼のもとで制作や修理を行うんです。

出たところ勝負という感じで、調達する丸太や修理前のお獅子のコンディションがベースにあって、それを踏まえて少しでも良い方向に作り上げていくイメージですね。

それから、仕上げの部分にも大きな違いがありますね。仏像は細かく彫り込んで表面を彫刻刀で細かく削りこんで角をなくすのに対して、お獅子は迫力を出すために粗いタッチで仕上げるんです。」

知田工房でのお仕事内容

ーー大芽さんの知田工房での現在のお仕事内容について教えてください。

大芽さん:「父親のように中心線を引いた状態で荒彫り1) を自力で進めるのはまだ難しいので、荒彫りが終わった後の仕上げ彫り2) を担当したり、小型のお獅子の制作を担当することが多いです。

若手は小さいお獅子を初めに担当して、徐々に大きなお獅子を担当するのが一般的です。祭り用のお獅子の他に、根付や置き物も作っています。」

荒彫り、仕上げ彫りの他にも、このような工程で加賀獅子頭が作られます。

*参考:獅子ワールド館 館内展示物より編集部作成。

大芽さん:「他には、石川県伝統産業青年会議の一員としてイベントでお獅子の絵付け体験のワークショップを子ども向けに行ったり、3月からは『界・加賀』の宿泊客向けの工房ツアーも行う予定です。」

ーー初めは小さいものから、そしてだんだん大きなものを手がけるようになるんですね!この右側にある、三脚が付いたカメラで何か撮影もされているんですか?

大芽さん:「YouTubeで作業風景を撮影して、動画編集も独学で学んで、動画を投稿しています。今朝も5時に起きて編集作業をしていました(笑)。

作業をしながら作業風景を撮るので必然的に作業も捗りますし、海外の方にも観てもらいたくて英語字幕を入れたり、自分なりにこだわって編集するのが楽しいです。」

ーー動画拝見しました!木を彫るときの音も綺麗に収録されていて、『ザクッザクッ』という音が心地良い動画だなと思いました。

これから挑戦していきたいこと

ーーこれまで獅子頭のアクセサリーの販売など様々なことに挑戦されてきたと思いますが、今度はどんなことに挑戦していきたいですか?

大芽さん:「YouTubeをもっとたくさんの人に観てもらって知田工房のことを知ってもらえるように頑張りたいです。動画をきっかけに海外の人にも知ってほしいし、ゆくゆくは修理などの依頼にも繋がれば良いなと思います。

あとは抽象的な言い方にはなってしまいますが、お獅子のことをもっと多くの人に知ってもらうきっかけになる面白いものを作りたいですね。

それから、父親と被りますが、私も今までにないくらい大きなお獅子を作りたいです。」

知田工房公式サイト
獅子舞の制作・修繕

知田工房チャンネル(YouTube)
知田工房チャンネル

✍️加賀獅子舞の演舞が見れる祭り(一部抜粋)

📍 こいこい祭り
♨️ 山中温泉(会場:山中座周辺/他温泉街各所)
📅 例年9月下旬の2日間に開催(参考:加賀温泉郷)

📍八朔(はっさく)まつり
♨️ 山代温泉(会場:服部神社)
📅 2025年9月1日(月)※毎年同日開催(参考:加賀温泉郷)

📍 加賀市獅子舞春祭り
♨️ 加賀市美術館
📅 2025年3月16日開催予定 (参考:加賀市獅子舞を応援する会)

(2025年1月現在)

最新情報は、「加賀温泉郷」や、加賀市獅子舞を応援する会のnoteにてチェックしてください。

編集後記

「伝統工芸品は丁寧に飾られるだけで、日用品としてあまり使ってもらえない。売り場でも手に取ってもらえない。」ということを嘆いている職人が過去の取材で何人かいらっしゃいました。一方で、獅子頭は演舞でたくさん使われて、壊れたらそれを修理して、世代を超えて何年も愛用されていきます。石川県加賀市をはじめ、多くの町の行事や、その関係者の大切な思い出の1ピースとなっている、現代に生きる伝統工芸を見せていただきました。(ものづくり新聞記者 佐藤日向子)

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