触れてみる・体験
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2025.01
ものづくり体験!鋳物ぐい吞み作り~堀川鋳金所

2025年1月10日 公開

ものづくり新聞では、日本のものづくりの素晴らしい技術をより多くの方に知っていただきたいと、これまでも様々なものづくり体験をご紹介してきました。今回、編集部が注目したのは「鋳物(いもの)」。鋳物とは、高温で溶かした金属を型に流し込み、目的の形に冷やし固めた金属製品のことです。この技法は「鋳金(ちゅうきん)」と呼ばれ、金属工芸の伝統的な技術の一つです。この鋳金という技法を本格的に学びながら「ぐい呑み作り」が体験できる堀川鋳金所を訪ねました。
プロの作業場でプロに教わる本格的な鋳物作り体験!
JR西日暮里駅から徒歩6分。マンションが立ち並ぶ東京都荒川区の一角に堀川鋳金所はあります。創業して100年以上(取材時:2024年12月時点)。昔はこの辺りに多くの鋳物屋さんが軒を連ね、みんなで協力して大きな作品を作ったこともあったそうです。今では荒川区にある鋳物屋さんは、ここ堀川鋳金所だけとなりました。

実際の作業場で体験ができるとあって、工房の中には見たこともないような鋳物の道具があちこちに並んでいました。

ガスボンベの左隣にあるのは溶解炉。ブロンズ(青銅)の鋳物を作るときに使っています。扱う金属で使う火も変わってくるそうです。

天井にはこれまで使った原型がたくさんつるされていました。プロの職場でプロが扱う道具を実際に使いながら体験させていただけるなんて、それだけでワクワクします!
教えてくださったのは、堀川鋳金所の4代目 松本育祥(まつもと やすよし)さんです。育祥さんは何人もの人間国宝(重要無形文化財保持者)に技術を習ったことがあり、なんと、2024年の伝統工芸日本金工展にて、文部科学大臣賞を受賞された凄腕の持ち主なのです。まさにその道のプロから直接教わることが出来るなんて、感激です!

育祥さんは、2004年、東京工芸大学芸術学部メディアアート表現学科を卒業しました。大学卒業後に就職活動をしていた時、国会議事堂の金具を1,000個作ってくれという注文が入り、父1人では無理だろうと金具の制作を手伝うことにしました。半年間かけて親子2人でその仕事を終えた後、そのままの流れで鋳金の仕事を継ぐことになったそうです。
鋳型作り体験スタート!
育祥さん:「では、早速始めましょう!鋳物の仕事は、鋳型(いがた)がどれだけ綺麗に出来るかが大事な作業です。体験では、自分の手でしっかりと鋳型を作ってもらうところから始めていきます。私たちが数年間かけて覚えてきた作業をたった1日でやってもらうので、難易度は高いです。でも、失敗しても大丈夫!最初から作り直せばいいだけなので、もう1回できてラッキーぐらいな気持ちで挑戦してみてください。」
ーーはい、よろしくお願いします!

この日は、ご夫婦の参加もあり、3人で教えていただきました。全員、鋳物作りは初挑戦です。
①鋳型(いがた)を作る
鋳型とは溶かした金属を入れる型のこと。今回は、このぐい吞みの原型を使ってぐい吞みの鋳型を作ります。

ぐい吞みの原型につながる部分は、溶かした金属を入れる道筋になります。

押し台と呼ばれる台に、ぐい吞みの原型をセットし、その上に型枠を載せます。この型枠の中に鋳物砂(いものすな)と呼ばれる非常に細かい粒子の砂を入れます。鋳物砂には適度な水分が含まれているので、型枠に入れてしっかり押し固めると、かなり硬い鋳型になります。

ーーこの砂、サラサラだけど、しっとりしていますね!
育祥さん:「水分量を調整しているんです。目安としては、きゅっと握りこんで、お団子を作った時に、親指だけで押すと4、5個に砕けるくらいがちょうどいい目安です。これが2個くらいにしか分かれないと、水気が多すぎて仕事がしづらくなります。」
ーーえー!微細なさじ加減なんですね!水分調整が難しそう…。
育祥さん:「加減は、なんとなく…(笑)。」
ーーなんとなくの感覚でわかるようになるまで努力されたんですね。

型枠にこんもり砂をかけたら、型枠の周囲をしっかり強めに固めることがポイントです。特に型枠の四隅はしっかり押し固めます。ここがゆるいと鋳型がすっぽり抜け落ちてしまうためです。

次に、スタンプという道具を使い、上からもしっかり固めます。

最後は板を使い、摺り切りをしながら平らにしていきます。まるでケーキ作りのようです。

型枠の上部分が完成しました。

今度はこれを180度ひっくり返し、同様に下にも鋳物砂を入れていきます。上下ぴったり合わせたまま180度反転させることがポイントです。

今まで下にあった押し台が上になりました。

下の型枠をセッティングするため、この押し台を外します。その後、上下の鋳型を分離させるためのポーター(通称:別れ砂)という白い粉を振りかけます。

下の型枠を置いて、鋳物砂を入れ、同様に鋳型を作っていきます。

上下の型枠に鋳物砂が入ったら、次に内部の原型を取り出し、金属を流し込む空洞を作っていきます。竜頭(りゅうず)と呼ばれる輪の持ち手部分を金属の棒でコンコンと優しく叩きます。これによって、原型と鋳型の間にわずかな隙間ができ、原型を取り出すことが出来ます。
育祥さん:「金属の棒で竜頭を叩くことで、竜頭の先端に繋がっている原型に、鋳型の中で振動を起こさせて、その振動で原型と鋳型の間に空気を入れてわずかな隙間を作っていきます。位置がずれないようにしっかり竜頭の根元を押さえながら、前後にコンコン叩きます。続いて同じように外側から左右に10回叩いてください。前後左右均等に揺らすのがコツです。」

上の鋳型を開けていきます。ここが一番難しい作業です。
育祥さん:「鋳型の真上に覆いかぶさるように立ち、身体全体で型枠を垂直に持ち上げます。このとき、途中で止まると手の震えなどで鋳型と原型がぶつかり失敗しやすいので、動きを止めずにゆっくりと高い位置まで上げてみてください。」
とても緊張しましたが、育祥さんにサポートしていただきながら、無事に外すことが出来ました。

次にぐい吞みの原型を外します。同様に竜頭を叩いてゆるみを作ります。空気が入ると、ぐい吞みの原型と砂の鋳型の間に黒い筋が入るらしいのですが、私にはわかりませんでした…。それだけ微細な線なのです。

ゆるみが出来たら、ぐい飲みの原型を上に持ち上げると下の鋳型は完成です。上の鋳型には金属を流し込む部分を作っていきます。筒状の棒をぐりぐり回転させながら下まで貫通させます。なかなか力のいる難しい作業でした。

最後に上下の鋳型を合体させます。そうすることで、鋳型の中にぐい吞みの形をした空洞が出来上がります。

ここで失敗すると大変!最初からやり直しになってしまいます。希望者には、育祥さんがサポートしてくださるとのことで、3人ともサポートをお願いしました。
②鋳込み(いこみ)
いよいよ、金属を溶かし、鋳型に流し込む作業です。これを「鋳込み(いこみ)」と言います。
材料となる金属は、こちらの錫(すず)です。「99.99」と書いてあるのは、ほとんど不純物が入っていない「純正」であることの証。「99」だと純度はあまり高くないのだそうです。重さはこれで1.2kg。見た目よりも重く感じました。金だと同じ大きさでもこの倍以上の重さがあるそうです。

錫の融点(ゆうてん)は231度。融点とは、個体が液体になるときの温度のことです。ガスバーナーの火で錫を溶かしていきます。鋳込みの際に圧力で型が空いてしまわないように、鋳型には大きな重しが載せられます。
希望者には、安全を確認の上で鋳込みも体験させていただけることもあるそうで、もちろん、挑戦させていただきました!1秒以内に素早く鋳込むことがコツとのことですが…。
育祥さんのお父様である三代目 松本隆一(りゅういち)さんもサポートに入ってくださり、貴重な鋳込み作業を体験させていただきました。

冷めてきたら鋳型からぐい吞みを取り出します。

水で洗い流した後、余分な金属の部分をカットします。

ここまでの体験時間は約2時間。完成までもう一息です。
③研磨作業
最後は研磨作業。ヤスリ掛けをして飲み口を綺麗にしていきます。

育祥さん:「ヤスリは押したり引いたりしますが、削れるのは押した時なので、それを意識して削ってみてください。飲み口の感触がざらざらがいい人は、わざとヤスリでゴリゴリ傷をつけてもいいですし、ツルツルにしたいときは、竹の棒でこするとツルツルになります。」
こだわり出すときりがない研磨作業。不思議と男性はこの磨きに夢中になる人が多いそうで、自宅に持ち帰ってからも磨く人が多いのだとか。私もなんだかんだと30分くらい磨いていました。
唯一無二のぐい吞み完成!
約2時間半。「ぐい吞みの鋳物」が完成しました!
ーーこの波打つような模様が気に入ったんですけど、これはどうしてできたんですか?
育祥さん:「模様は錫を流し込んだ時の温度差や鋳型の込め方で出来るんですよ。熱い錫が入ると、砂肌の粒子の中まで食い込むので白っぽく艶消しにみたいになります。ちょっとでも冷めた錫が入るとツルツルになります。艶消しに見えるところも光を当てると金属の結晶がキラキラして見えるんですよ。」
ーー「ほんとだ!綺麗ですね~」
育祥さん:「同じ模様に見えてちょっとずつ違うところが、手作りの味わいですよね。」

希望者にはアルファベットと数字で刻印を入れることもできます。私は作った年を記念して「2024」と刻みました。
ーーこの鋳物体験はいつ頃から始めたのでしょうか?
育祥さん:「体験を始めたのは僕が28歳の時だったので、14年間やっています。*いろんなものづくりの体験があると思うんですけど、うちは『本気で鋳金やってきた!』って自慢できるような体験を心掛けています。*効率を考えると、手を添えてもらうだけ…とかになりがちなんですけど、ものづくりが好きで体験に来てくださっているので、それだとモヤモヤが残っちゃうのでね。」
中には何回も体験に来てくださる方もいて、体験メニューにはない大型の片口とか、タンブラー作りに挑戦する方もいらっしゃるそうです。日帰りで持ち帰れる保証はないほど難しいそうですが、果敢に挑戦してみたくなるその気持ち、わかります!
左のぐい飲みは、まだ磨く前のものだそうですが、丸よりも角をつける方が難しいそうです。右のタンブラーの色合いは、10年ほど経年変化したもの。元の色に戻したいときは、重曹を使えば良いそうです。

💡鋳物作り体験は「ぐい吞み」と「箸置き」の2種類から選べます。今回のぐい吞み作り体験費用は7,700円でした。詳しくは堀川鋳金所のHPをご覧ください。また、その他のサイトからも体験のお申込をすることが可能です。
堀川鋳金所
アソビュー! じゃらん ソウエクスペリエンス ふるさとチョイス
編集後記

学生時代、写真にはまっていたという育祥さんが撮影してくださった1枚。完成した喜びが伝わってくる写真をありがとうございました!231度に熱した錫を使って、鋳込みの作業まで体験させていただけるとは思っていなかったので貴重な経験になりました。その日に持ち帰ってすぐに使えるのも良いですね!錫のぐい吞みは日本酒をまろやかな味わいにしてくれると伺ったので、早速、辛口の日本酒で試してみました。まず驚いたのが錫は熱伝導率が高いということ。冷たく冷やした日本酒だったため、ぐい呑み自体が一気に冷たくなりました。飲んでみると、確かにまろやかな、それでいて上品な味わいに感じたのが不思議です!育祥さんは、これまでに結婚指輪の制作も依頼されたことがあるそうです。鋳金という日本の伝統的な技法で作られた世界に一つしかない結婚指輪!素敵ですね。今回一緒に体験したご夫婦も、体験の思い出と共に、お揃いのぐい吞みが完成。お2人の良き日にご一緒出来て光栄でした。本格的な鋳物のぐい吞みづくり、ぜひみなさんも体験してみてください。(ものづくり新聞 小柴寿美子)
