産地を訪ねて

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2025.09

副産物のヒノキ精油で地場産業に新たな活路を~交告製材株式会社

2025年9月5日 公開

皆さんは、どんな香りが好きですか?天然成分に人工的なアレンジを加えたアロマオイルや、植物から抽出された100%天然成分の精油など、お好みは色々あると思います。今回ご紹介するのは、100%天然のヒノキ精油。その名も「hapinene(ハピネン)」です。hapineneには、癒し効果が高いと言われる香りの成分「α-ピネン(アルファピネン)」が豊富に含まれていることと、これを手にした人がハッピーな気分になれるようにと願いを込めて「hapinene」と名付けられました。

原料に使われているのは、岐阜県の東濃(とうのう)ヒノキの原木です。なんと!東濃ヒノキは、20年に1度行われる伊勢神宮の式年遷宮(しきねんせんぐう)の御用材にも使用されているブランド木材なのです。製造元は、岐阜県にある製材メーカー。普段、当たり前に行っていた木材の加工工程に着目し、主力産業の副産物としてヒノキの精油を製造することに成功しました。といっても、ヒノキの精油自体、特に珍しいわけではないですよね?では、どんなところが画期的なのでしょうか?ものづくり新聞としては初!岐阜県へ、取材に行ってきました。

100%国産材!交告製材株式会社

東京から新幹線で名古屋へ。名鉄犬山線の名鉄名古屋駅から快速特急に乗って新鵜沼(しんうぬま)駅で下車。車で迎えにきていただき、東京を出発してから約4時間。 岐阜県の各務原市(かかみがはらし)岐阜木材団地内にある製材メーカー、交告(こうけつ)製材株式会社にやってきました。交告製材は、スギやヒノキといった国産の原木を仕入れ、住宅用の柱などを製造、販売しています。

岐阜木材団地は、1975年、岐阜県が中心となって操業を開始。当時は木材に関連する企業29社がいたそうですが、徐々に減少。現在は木材を扱う企業だけではなく、金属部品やレーザー加工などの他業種も加わり、合計18社で構成されています。(取材時:2025年8月)

交告製材、代表取締役の纐纈 正憲 (こうけつ まさのり)さんです。交告製材は、纐纈さんの祖父が1950年に創業した会社で、1963年に株式会社へ。岐阜木材団地の操業当初から、ここで製材業を営んできた会社です。纐纈さんは1975年生まれ。大学を卒業後、地元に戻り、3代目として跡を継ぎました。現在(取材時:2025年8月)、岐阜木材団地協同組合連合会、並びに岐阜木材工業団地協同組合の代表理事も務めていらっしゃいます。ヒノキの精油を作ることになったきっかけや、製材メーカーが精油製造に取り組む強みなどについて、纐纈さんにお話を伺いました。

ーー普段、製材メーカーのお仕事は、どんなことをしていらっしゃるんですか?

纐纈さん:「原木から住宅用の柱を作るのがメインの仕事です。直送といって、切った木材を山の置き場から直接運ぶこともありますし、山主(やまぬし)さんが木材を市場に持って行って、2m、3m、4mといった長さに揃えたものを、我々が買うこともあります。」

纐纈さん:「うちは、3mの柱で換算すると大体年間2万5,000本ぐらいを製造しています。住宅用の柱を作る会社としては、割と小さい方なんです。ただ、設備などは、サイズは違えど大型工場とほとんど同じものが入っているので、例えば、既製品とちょっと寸法が違う、お客様が欲しいサイズのものに対応するなどして、細々とやらせてもらっています。」

取材の日、木材を載せた大きなトラックが、ちょうど到着。その後、クレーンを使い、木材を運び入れていました。

纐纈さん:「これがヒノキです(写真下)。例えばヒノキが50年で柱になるとしたら、スギは25年で柱になるんですよ。だから、山の人は、自分が生きているうちに2回切れるからスギを植える人が多かったと祖父から聞いています。祖父は『ヒノキを植えておいたから、お前の代で切れるぞ』ってよく言っていました。ヒノキは値段も単純に2倍しそうなものですけど、そう単純でもないのが現状です。」

工場内では、スギの原木から住宅用の柱を切り取る製材作業が行われていました。

オペレーターが製材機を使って、緑色のLEDライトで木材を照らしながら、どこを柱にするか、あたりをつけています。

纐纈さん:「原木の皮をむいて、それを製材機にかけて四角い柱を取ります。その後、乾燥して、乾燥した柱をもう1回形を整え、綺麗にして出荷するというのが一連の流れです。」

原料は岐阜のブランド材「東濃ヒノキ」

ーー精油の原料である東濃ヒノキについて教えてください。

纐纈さん:「東濃地方は岐阜県の東側で、その隣は長野県なんです。別名『裏木曽(うらきそ)』とも言われます。木曽ヒノキってご存知ですか?長野県のヒノキなんですが、その木曽ヒノキが取れる山とつながっている裏側、岐阜側でも、すごく綺麗な木柄(きがら)のいい木が出るんです。それを岐阜のブランドにしようということで、1991年に、東濃桧品質管理センターを立ち上げて、東濃ヒノキのブランドを確立しました。みんなに加盟してもらって、東濃ヒノキブランドを売っていこうと活動しています。」

木柄とは、木材の表面の模様や成長過程でできる年輪や質感など、木材の美しさや特徴を表す言葉。長野県の「木曽ヒノキ」は、青森県の「青森ヒバ」、秋田県の「秋田スギ」と並び、日本三大美林の一つとも言われています。

ーー東濃ヒノキは、どんな特徴があるんですか?

纐纈さん:「気候が寒くて厳しいので、年輪も詰まっているし、白太(しらた)と言って、外側は白くて、赤身と言われる中心部分がピンク色っぽい優しい色をしています。とっても綺麗な木柄で人気があるんですよ。東濃ヒノキも伊勢神宮の式年遷宮(しきねんせんぐう)に一部使っていただいています。」

東濃ヒノキの柱を乾燥しているところ。割れ目が入っているのは「背割り」といって乾燥による木材のひび割れを防ぐための加工。

纐纈さん:「生の原木を製材して、そのままにしておくと、木は乾燥していくうちに変形するんです。使い物にならないことはないけれど、見栄えも悪くなるし、柱として、それでは駄目なんです。だけど、東濃の地域の人は、結構昔から几帳面で、1回挽いたものを乾かして、変形した木をもう1回挽き直して、まっすぐにしてから出荷することを昔からやっていました。『二度挽き(にどびき)』っていうんですけどね。今はもう皆さんやっていますけど、東濃は二度挽きを先んじてやっていた地域なんです。木柄もいいし、寸法も狂いが少ないってことで、その当時、全国的に人気があったんです。」

木材を蒸す時に出る油分に着目!

ーーどうしてヒノキの精油を作ろうと思ったんですか?

纐纈さん:「製材屋をやっていると、ヒノキからオイルが出ていることはわかっていたんです。木材を乾燥する過程の中に、『蒸煮(じょうしゃ)』って言って、蒸す工程があるんですけど、その工程で出てくる水に油分が浮いていたり、すごく香りがしていたりしたので。自宅にその水を持ち帰ってお風呂に入れることはしていたんですけれど、精油を取りたいなとは思っても、精油を取ろうという具体的なところまではできていませんでした。そんな時、お客さんが、岐阜県の高山にある『岐阜県生活技術研究所』っていうところを紹介してくれたんです。その研究所では、そのとき、たまたま『ヒノキを乾燥する過程でオイルを抽出できないか』という研究をしていて、一緒にやりませんかっていうお話をいただいたんですよ。それがきっかけです。」

ーータイミングが良かったんですね!

纐纈さん:「ご縁だなと思いましたね。岐阜県生活技術研究所との共同研究は2018年頃からスタートして、3年かかって2020年の10月に研究成果を発表するまでにこぎつけました。」

この研究は、2015年度から岐阜県が進めてきた「2020清流の国ブランド開発プロジェクト」の一環で、東京オリンピック(2020年)に向けて、岐阜県産品の需要拡大に向けて行われた研究の一つだったそうです。

奥に見えるのが「蒸煮」に使用される2台の乾燥窯。住宅の柱に使用する木材を入れて、蒸し、乾燥させます。その際に生まれる油分に着目したことが研究につながったわけです。

製材製造と精油の抽出が同時!最もSDGsな抽出方法

ーーそもそも、一般的なヒノキのオイルを抽出する方法と、どう違うんでしょうか?

纐纈さん:「基本的な原理は全く同じです。水蒸気蒸留と言って、木材を蒸気で蒸して、その水蒸気を冷やすことで、オイルと水に分かれるのでオイルが取れます。」

普段、どのようにオイルを採取しているのか、見せていただきました。

纐纈さん:「これが乾燥窯です(写真上)。僕らはこの中に木材を入れて、蒸気で蒸します。蒸した状態で温度を上げて、その蒸気を抜き始めるんです。その蒸気には、オイルが混ざっています。それを回収します。」

蒸気を回収する装置は、乾燥窯の裏側に設置されていました(写真下、左下側の四角い装置)。

纐纈さん:「乾燥窯から排気ダクトを通って、蒸気を冷却器(写真上、左手前)に入れます。水を循環させて冷却して、オイルを抽出します。」

纐纈さん:「オイルを取っても取らなくても、乾燥工程としては一緒なんです。ただ僕らの場合、木材製品を作る工程でオイルを取るので、オイルを取るために木材と熱源を用意していないという所が一番の強みですよね。非常に経済的で、効率的なところが最大の特徴だと思います。

ーー普段の作業からオイルが取れるなんて、一石二鳥じゃないですか!

纐纈さん:「はい、新たに材料や熱源を用意する必要もないから、SDGsだって言ってくださる方がいました。それを木材業界のみんなに話をしたんですが、蒸気から取るなんて、さも当たり前のような言われ方だったので、それを売りにしていいのかどうか、私の中には迷いがあったんです。だけど、木材業界の中ではそういう感覚なだけで、外部からみたら違うんだと思えるようになったので、今は、SDGsも強みにすればいいと思うようになりました。排出するだけだった水蒸気を精油として活用できるようになっただけでも夢のようです。」

ーー原料は住宅用の柱になるわけですから、新たなゴミも出ませんし、私もまさにSDGsだと思いました。1回の乾燥で、だいたいどのぐらいの精油が取れますか?

纐纈さん:「18~20ℓくらいは取れます。夏と冬で冷却効率は変わってくるので、多少の差はありますがね。」

画期的なのは『製材の製造と、精油の抽出が同時にできること』でした。蒸気乾燥器がある製材メーカーであれば、冷却装置と、油分と水分の分離器を付け加えることで、普段の製材を製造する工程の中で精油も採れるのですから、まさに一石二鳥です。これは価格を抑えられることにもつながっています。

品質の安定と販路開拓に四苦八苦

ーー木材業界では当たり前の工程とはいえ、共同研究するくらいですから、決して簡単なことではなかったと思います。どんなところが難しかったですか?

纐纈さん:「一番は収量が安定しないところですね。精油は、乾燥工程全てで取れるわけではなくて、一番取れる時間帯や熱効率の問題があることがわかりました。安定した収量を確保しようとすると、ものすごく大きな冷却装置が必要になってしまうんです。研究サイズのものでは上手くいっても、実用的な寸法の回収機を作るというところが苦労しました。」

研究用の実験機では木材1㎥当たり、1.46ℓの回収に成功。実証実験での実験機では、その収量が2割以下に落ちてしまったそうですが、冷却方法などを見直したところ、安定して取れるようになったそうです。

ーー他にはどんな苦労がありましたか?

纐纈さん:「あとは精油の品質ですね。一般の方に精油として売るのであれば何ら問題はないんですけど、私は、香料メーカーさんが欲しがる品質にしたかったので、研究発表後に、化粧品メーカーのOBさんからご指南を受けるなどして、今は品質的にも安定したものになって来ました。」

ーー香料メーカーさんが欲しがる品質の安定というのは、どういう所ですか?

纐纈さん:「いろいろあるんですが、例えば、オイルの色です。日に当たると、色が抜けることがあるんです。品質的に問題はないのですが、見た目が安定しないのは良くないじゃないですか。そういう色の変化を、抽出したオイルの時点でどうやって解決するか、試行錯誤しながらクリアしてきました。今はこのぐらいの色(写真下)で安定してきたところです。」

纐纈さん:「あとは、業界が全然違うので、オイル業界に、どうやって入っていったらいいか、その販路を開拓するのに苦労しています。」

ーー普段の取引先とは全然違いますものね。どういうところに営業していらっしゃるんですか?

纐纈さん:「今は、インスタグラムと連携させて、ECサイトで販売をしています。あとは、生協さんが気に入ってくださって、東海地方のカタログ販売に定期的に掲載していただけるようになりました。もう一つは各務原市のふるさと納税です。ふるさと納税は去年から初めたんですが、納税額的にも手ごろだと好評なんですよ。」

ヒノキには癒しと眠気スッキリ効果も!

纐纈さんは、工場内の一室に精油を管理する所を設け、瓶詰めから梱包、出荷までを一貫して行っています。

抽出した精油を貯めておく装置。ここで品質の安定を保っています。

ーー一般的には、間伐材やチップにしたヒノキから精油を抽出する場合が多いと思うのですが、ヒノキの原木そのものから精油を抽出するメリットはどんなことが考えられますか?

纐纈さん:「僕らの場合は、柱になる木材そのものから取るので『香りは違う』んじゃないかと思います。この香りを嗅いでみてください。違いませんか?」

ーーヒノキのいい香り…!纐纈さんの方が、ちょっと甘い感じがします。

纐纈さん:「香りの好みは人それぞれあると思いますが、私たちの方は、最初に嗅いだ時にスッと入ってくる割と軽い香りで、『トップノート』といいます。もう一方は、『ベースノート』と言って、香りが長く持ち続けるタイプです。ちょっと重たい感じというか、ヒノキの骨の髄まで搾り取ったようなイメージの香りです。私たちの製品の特徴は『トップノート』なので、最初に嗅いだ時に入ってくる軽い香りが、皆さんに『いい香り』って言っていただけるんだと思います。」

ーーヒノキの精油は癒し効果も高いんですよね?

纐纈さん:「はい、私たちの精油には、『α-ピネン(アルファピネン)』という癒し効果の成分がたくさん入っていることもわかっています。また、α-ピネンには、眠気がなくなる覚醒作用もあるみたいなんです。α-ピネンは、ヒノキだけではなく、松など針葉樹系に入っている成分ですが、少量のα-ピネンで、かなりの覚醒効果があるそうです。これについては、トヨタが特許を取得しているんですが、開放特許なので、その技術を使って、眠くならない香りのするピンバッジを作った会社もあります。」

目指せ!ヒノキ精油で地場産業の活性化!

ーー今後の展開や夢などはいかがですか?

纐纈さん:「量を売りたいので、一番は香料メーカーさんに卸せるようになりたいです。建築も値段が上がってきて、家を建てる人も減ってきているし、製材屋はあまり景気が良くないので、うちで安定して売れるようになってきたら、ぜひ、東濃桧品質管理センターの仲間たちと一緒にやりたいですね。このヒノキの精油が、岐阜県の新しい地場産品になればいいなって思います。」

ーー海外への展開などは考えていますか?

纐纈さん:「はい、最終的には海外を視野に入れたい気持ちはあります。今お世話になっている香料メーカーさんが、アメリカに売り込むつもりだって言ってくださっているんです。でも、オイルは可燃物扱いになるようで、航空便では出せない、普通の小包でも送れないなど、いろいろノウハウが必要らしいです。」

ーーどうしてアメリカなんですか?

纐纈さん:「アメリカにアテがあるみたいです。好まれる香りというのが、国によってもいろいろあるみたいで、ヒノキは中国にもすごく好かれる香りだと聞いています。実際に、中国のバイヤーさんを連れて行きたいと言われたこともありました。結局いらっしゃらなかったんですけどね。」

ーー他にはどんな展開を期待していらっしゃいますか?

纐纈さん:「以前、塗料メーカーさんから床に塗る自然塗料にしたいというお話をいただいたり、地元の繊維メーカーさんから、靴下に練り込みたいっていうお話をいただいたりしたこともありました。他には、ヒノキの香り玉やシリカゲル、シャンプーとかですね。でも、みんな試作品止まりなんです。だからその広がり方を、私がもっと研究しないとね。まだ趣味の域を超えないところはありますけど、ポテンシャルとしては、かなり可能性を秘めていると思います。今年(取材時:2025年)は、販売を始めて3年目なので、もうワンステップ、新たな展開ができるように頑張りたいです。」

ヒノキオイルハピネン 公式ショップ https://hinokioil.theshop.jp/

幸せヒノキオイル~ハピネン https://hinoki-oil.com/

和精油 幸せヒノキオイル~ハピネン Instagram
https://www.instagram.com/hinokioil_hapinene 

【編集後記】

纐纈さんの最近の趣味は、ヒノキ以外の植物から精油を抽出すること。少し前、シロモジという木から精油を抽出してみたそうですが、ほんのわずかしか採取できなかったそうで、精油が高い理由がわかったとおっしゃっていました。また、今年(取材時:2025年)5月、纐纈さんは、表参道で行われた「セラピーフェスティバル」に、Locogne(ロコン)というアロマ&ハーブ教室を主宰している友人と共同で、初めてブースを出店しました。普段の取引先は、建築の卸や問屋さんが多く、値段や納期の話ばかり。どんなに良い柱を使っても、お客様と触れ合う機会がなかったという纐纈さんにとって、お客様から直接「本当にいい香り!とっても素敵!1個いただくわ」と言われたことが、ものすごく嬉しかったそうです。私はhapineneの香りの中に、品と甘さを感じます。もし食べ物に利用できるとしたら、ヒノキアイスとか、リキュールにしてカクテルに利用しても面白いのでは?と思いました。ものづくりをしている皆さんも、普段当たり前に行っている作業を違った角度から見てみると、もしかしたら、新しい何かが生れるかもしれません。

ものづくり新聞 小柴寿美子

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