産地を訪ねて
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2025.01
靴下生産日本一の奈良で誕生「くつした女子部」~地方企業の女性活躍を考える/株式会社エコノレッグ、西垣靴下株式会社

2025年1月31日公開

国内の靴下生産量ナンバーワンは「奈良県」ってご存知ですか?
日本靴下協会によりますと、2023年度に国内で生産された靴下(ソックス)全体の生産量は8,769,245デカ(1デカ=10足)。そのうち、奈良県では5,297,594デカを生産しています。そう、日本国内の靴下の約6割が奈良県で生産されているんです。
雨量の少ない奈良県では、水がなくても綿花は育つということで、江戸時代から明治初期にかけて綿花栽培が発達しました。当時は奈良の伝統織物「大和絣」(やまとがすり)も盛んに作られていました。しかし、明治の末頃になると安価な綿の輸入や和装離れの影響を受け、大和絣は衰退。一方、同じ頃に奈良では「靴下の編み機」が導入され、着物の代わりに、綿の靴下が生産されるようになっていました。その流れが現在に至り、奈良県は靴下生産日本一になったと言われています。今回、編集部は、そんな奈良県の靴下に着目!奈良で靴下を生産している中小企業の取り組みをご紹介します。
■西垣靴下とエコノレッグから誕生した「くつした女子部」

西垣靴下株式会社は、1953年(昭和28年)創業。71年以上の歴史を持つ(取材時:2024年12月時点)靴下メーカーです。すべり止めやクッション編みなどの特許技術や意匠登録を数多く取得し、機能性に特化した靴下を製造しています。一方、株式会社エコノレッグは、西垣靴下のオリジナルファクトリーブランドとして1986年(平成2年)創業。西垣靴下が製造する高機能性靴下の企画・製造・販売を行っていて、社員の9割が女性です。
「くつした女子部」は、2023年8月に結成されました。メンバーは6人。目指したのは「働く女性の”足のコト”を考える靴下の新ブランドを立ち上げること」です。
結成から約1年後の2024年9月、新ブランド「アシゴト」を発表。西垣靴下が持つ特許技術や意匠登録された技術を使い、働く女性のためのおしゃれな機能性靴下の開発に成功しました。今回は、靴下に込めた女性ならではの視点や、地方の製造業だからこそできる女性の働き方についてお話しを伺います。
ーーくつした女子部を代表してお二人にお越しいただきました。まず、自己紹介からお願いします。
矢羽野さん:「はい、エコノレッグの矢羽野 緑(やはの みどり)と申します。入社して13年になりました(取材時点)。入社のきっかけは、子育て中に地元の企業で働きたいと思ったからです。エコノレッグは女性スタッフが中心で、靴下の企画からネット制作・カタログ制作・小売りの売り場づくりなども含め、企画・製造・販売をしている会社です。私はそこで広報をはじめ、企画・営業・販売などを担当しています。よろしくお願いします。」

矢羽野 緑さん。株式会社エコノレッグ 部長。販売責任者。靴下ソムリエ。千葉県出身。結婚後奈良県へ。最近ゴルフを始められたそうです。
中井さん:「西垣靴下の中井 好美(なかい よしみ)と申します。通勤時間のかからない地元企業で働きたいと思ったのがきっかけで、新卒で入社しました。今年(取材時点)で23年目になります。普段は商品のサンプル作成のためパソコンを使ってグラフ目に靴下の柄を描き、編立機(あみたてき)を作動させるためのデータ作成をしています。また、どの機械でどの商品を編立するかといった工場内の配台業務も担当しています。よろしくお願いします。」

中井 好美(なかい よしみ)さん。西垣靴下株式会社 総合企画開発部 課長。靴下ソムリエ。奈良県出身。趣味はカメラで季節の花などの写真撮影。
👠気になる!「靴下ソムリエ」
「靴下を語れる伝道師を育成しよう」と、2017年、奈良県靴下工業協同組合が作った認定資格制度。靴下についての歴史や生産・技術、製品などについて豊富な知識を持ち、消費者に靴下の魅力や価値を正しく伝えることを目的としています。矢羽野さんと中井さんは、その1回目の試験に見事合格した靴下ソムリエなのです。
ーー早速ですが、「くつした女子部」を発足したきっかけを教えてください。
矢羽野さん:「はい。奈良県の広陵町と大和高田市が共同で運営するKoCo-Biz(ココビズ)というビジネスサポートセンターがあるんですが、そこで色々話をしていたときに、うちの若いスタッフから『エコノレッグの靴下は、仕事の時は履くんだけど、普段は「すべり止めやテーピング部分が目立つ」から履かない』という話が出たんです。当時のセンター長に『それなら自分たちが履きたい靴下を作ってみたらどう?』とお声がけいただいたのがきっかけでした。その後『ブランド化したら?』という社長の一言からスタートして、エコノレッグと西垣靴下の女性社員に声をかけて、希望者を募り「くつした女子部」を作りました。
ーーメンバーは6名と伺っていますが、どんな方がいらっしゃいますか?
矢羽野さん:「西垣靴下から3名、エコノレッグから3名、全部で6名の女性たちです。私は千葉の出身で、結婚して奈良に来たんですが、他のメンバーは奈良出身で地元の人たちばかりです。年齢は20代~50代。自分たちでプロジェックトを企画するなどやったことがないメンバーばかりでしたが、イチからやってみるのは視野も広がるし、新しい発想が出てくるのではないかと思ったんですよね。」
ーーなるほど。メンバーの新しい発想に期待したんですね。
矢羽野さん:「私は経理で入社しましたが、前職に秘書の経験もあったので入社当初からいろいろなことに携わらせていただきました。だから、若い人や長年勤めている人たちも、他の仕事を経験する機会があってもいいんじゃないかと思ったんです。みんななかなか自分の意見って求められないし、言う機会もなかったですからね。今回のようにストーリーやコンセプトから自分たちで決めてプレゼンして、会社に認められたら、自分自身にも自信が持てるようになると思うんです。だから自分たちの履きたい靴下をイチから作るのは、面白いことになるんじゃないかと思いました。」

くつした女子部のみなさん(写真提供:株式会社エコノレッグ) 左から矢羽野 緑さん、中井 好美さん、大樽 瑞葉(おおたる みずは)さん、山村 千絵(やまもと ちえ)さん、清水 玲那(しみず れいな)さん、森野 沙祐里(もりの さゆり)さん
■新ブランド「アシゴト」~働く女性の”足のコト”を考える

*「PLUG IN | Editorial」2024年10月展に出展 渋谷 ヒカリエホール ホールAにて
ーーブランド名の「アシゴト」はどうやって決めましたか?
矢羽野さん:「みんなで案を出し合いました。最初はカタカナの可愛い名前が多かったんですけど、ブランディングの先生に監修に入っていただき、ネーミングのつけ方から再度ご指摘をいただいて、もう一度考え直しました。日本のものづくり、奈良のものづくりだから、日本らしい和のものも考えました。最終的に『ものづくりを広く若い人に伝えたい』という原点に戻り、『アシゴト』に決めました。『足のことを考える』で『アシゴト』です。」
ーーブランディングの先生にも相談しながら決めたんですね!
矢羽野さん:「自分たちの好みだけでは物は売れません。企業がブランドを立ち上げるということがどういうことなのか、くつした女子部のみんなにも知ってもらいたかったし、ブランディングの先生はもともとエコノレッグのブランディングにも関わっていただいている先生なので、何回も勉強会を開きました。課題も多くて結構大変でした。期限を決めて課題を考えて、それについて一人一人プレゼンもしました。コンセプトを考えたり、ブランドの骨組みを決めたり、商品の売り方についてマーケティングもしましたね。」

*写真提供:エコノレッグ株式会社
👠新ブランド「アシゴト」のコンセプト
『働く女性の”足のコト”を考えるソックスブランドです。靴との関係性を機能とスタイルの両面から追及します。』
ーーこのコンセプトにはどんな思いが込められているのでしょうか?
矢羽野さん:「私たち働く女性が考える、働く女性のための靴下にしたいと思ったんです。動きやすさや健康にも気を使いながら、おしゃれにも妥協したくないといった 30代、40代のミレニアル世代に向けて共感を得られるような商品とブランド創りを目指しました。」
ーーその「アシゴト」の新商品は5種類ですが、これはどうやって決めたんですか?
矢羽野さん:「日々の暮らしと仕事を両立する中で気づいた女性ならではの視点で考えました。『女子に必要な基本のもの』ということで、最終的にこの5つのアイテムに決まりました。」

👠女性に必要な基本のアイテム5つ
(左上から・金額は2025年1月現在)
毎日履きたい「ゆるめの着圧」(税込 2,750円)
パンプスでも滑らない「クールソックス」(税込 1,980円)
年中温活!「レーヨンシルク2WAYウォーマー」(税込1,980円)
左下から 外反母趾(ぼし)対策にもなる「クリーション足袋」(税込 2,200円)
足首を温める「ウール混シャギー温活ソックス」(税込 2,420円)
■こだわりは「おしゃれ感」と「機能性」の融合
ーーアシゴトの靴下は全て機能性靴下ということですが、詳しく教えてください。
矢羽野さん:「わかりやすく、エコノレッグの主力商品で説明しますね。これは『疲れしらずのくつした』というシリーズもので、かかとにはテーピングを入れる機能(写真:下 青線部分)が入っているんですが、パンプスを履いたときにこの『かかとのテーピング』が見えちゃうんですよ。私たちが履きたくない理由はそこだったので、最初はこの『かかとのテーピング』を取り除くことを考えました。でも『靴下はかかとがずれると歩きにくいから、これは絶対に必要』というのが社長の持論なんです。今回のアシゴトシリーズは、そこにもこだわろうと考え直し、再度みんなで意見を出し合いました。」

矢羽野さん:「その結果、こちらの『パンプスでも滑らないクールソックス』(写真:下)は、足裏全体にゴムを入れることにしました。そうすることで靴下がずれなくなり、フィット感が出ます。パンプスを履いてもたるみません。」

矢羽野さん:「また、足袋タイプの靴下(写真:下)は、足の指が開きやすくなるクッションも入れました。これは外反母趾(がいはんぼし)を予防する機能なんですが、これを柄に見えるように工夫しました。この機能の部分は社長にも相談した上で、中井さんと清水さんが考えてくれたアイデアです。今回は、そういうことをひとつひとつやっていきました。」

ーー機能性の部分が目立たないように、おしゃれな柄に見えるように工夫したんですね!
矢羽野さん:「エコノレッグの強みはやはり機能性靴下ですからね!今回は機能性靴下の部分はぶれずに新しいブランドを立ち上げることにつながったので良かったと思います。」
■試作品の感想を元に試行錯誤

ーー完成するまで何度も試作品を作ったそうですが、どんな風に行ったんですか?
矢羽野さん:「他社の営業の女性スタッフさんなど約70人に協力してもらい、試作品を3カ月間履いてもらいました。『仕事で履くから色が派手なのは履けない』とか『もっとフィット感が欲しい』とか、割と辛口の意見も多かったですが、そのおかげで良い商品が作れたと思います。」
ーー1年間に5つも新商品を作るのは大変じゃないですか?
矢羽野さん:「大変でしたね!短期間で何回も修正をいれましたし、普通の靴下よりも修正は多かったと思うので、工場にも迷惑をかけたと思います。でも、それは工場に指示を出す中井さんがメンバーにいるのでスピーディに出来ました。」
中井さん:「スピーディと言っても…大変でしたよ(笑)。」
矢羽野さん:「1個ずつプログラミングをして、機械に読み込ませるんだもんね。中井さんがいてくれて本当に良かった(笑)。中井さんは営業と工場の架け橋ですからね!」
続いて、営業と工場の架け橋である中井さんのデスクで、普段の仕事ぶりを見せていただきました。

中井さん:「パソコンの画面は土踏まず部分のデザインを表しています。土踏まず部分には滑り止めの機能があるのでゴムが入りますが、ゴムはとても編みづらいんです。この図はグラフ目に1目ずつ柄が描かれていて、機能性の部分もここに落とし込んであります。今回のアシゴトでしたら、滑り止めやテーピングなどの機能も、ひとつひとつグラフ目に指示を入れる必要があるので、柄を描くよりもその指示を入れる方が結構大変です。指示を間違えてしまうと、違う靴下が出来るというより、編み機の針が折れます…。編み機が壊れる場合もあります。」
矢羽野さん:「えー!編み機が壊れちゃうの?それは責任重大!」
ーー矢羽野さんも知らなかったんですね!確かに、同じ職場で働いていても、その仕事内容までは細かく知らないですよね。
中井さん:「編み機の針数も色々あって、太い糸の時は56本、細い糸の時は140本や200本、針を使います。折れたら全部入れ替えなきゃいけないので、複雑な柄にプログラムを組みあわせたときに針が折れなかった場合は、心の中でガッツポーズしていますね(笑)。」
■一体感が増し仕事の視野が広がる経験に

ーー自分たちの履きたい靴下をイチから作る体験をしてみていかがでしたか?
中井さん:「全然わからないことばかりだったので、これをするにはどうしたらいいんだろう?というのを、商品づくりにしても、ブランド名にしても、ひとつひとつみんなで考えて何回もやり直しました。みんなで話し合うことで一体感も出たし『自分の欲しいものが作れる、他の仕事がわかる』という意味で良い経験となりました。」
矢羽野さん:「中井さんは、お客さまの立場に寄り添ったサンプルを一緒に考えてくれるので頼りになります。他にも、百貨店の販売も全員経験したんです。製造の社員たちは販売をやったことがないですし、接客が苦手な人もしっかり商品説明をしながら販売していました。」
ーーみなさんの成長を感じますね。お客様の反応はいかがでしたか? 矢羽野さん:「リピーターの方も多いので『今までと違って、ちょっと若い感じね』とか、『いつもガッツリ機能が見えているけど、これだったらパンプスでも履けるね』と言ってくださる方もいました。結構若い人が立ち止まって見てくれましたね。」
■地方の中小企業だからこそ女性が活躍する場を

ーーお二人は、奈良県の地場産業である靴下を作る会社で働いていらっしゃいますが、
地方の中小企業だからこそできる女性の働き方についてどう思いますか?
矢羽野さん:「私は人事も担当しているんですが、奈良の男性は、大阪に働きに行く人が多いです。大阪は近いし、土日が休みの会社も多いのでね。でも、女性は子育てもありますから、地元で働きたいという人が多いように思います。私はもともと経理で入社して、そこからエコノレッグの販売の責任者になるようになったので、女性も戦力になるというのが認められてきたのかなと強く感じています。」
中井さん:「私が入社したときは、男性の方が多くて、女性はほとんどパートだったんですけど、今は正社員で活躍する女性が多くなったと思います。」
矢羽野さん:「エコノレッグの社員の9割は女性ですしね。女性市場は近年急速に成長していて、その影響力は無視できないものとなっています。社内に女性の新たな活躍の場を作ることで、モチベーションが上がり、今回のようにまた新しいものが生まれるかもしれません。女性市場に合わせたブランディング戦略を展開することが、もしかしたら中小企業にとって今後の重要な課題なのではないかと思います。」
ーー最後に2025年の抱負を教えてください。
中井さん:「今、ちょうど夏物の靴下を開発中で、サンプルが上がってきたところです。2アイテム作る予定ですが、1つはつま先のない、サンダルでも履ける靴下です。足の爪を素敵にネイルしている女性も多いから足の爪も見えるように考えました。もうひとつは、はじめて、シースルー系の靴下にも機能を持たせました。シースルー系の靴下って靴の中で滑りますから。これから色決めに入りますので、良い商品になるように頑張ります。」
矢羽野さん:「2025年は、結果にもこだわる圧倒的な執着心を持って、新しい商品を作っていきたいと思います。」
■編集後記

*写真提供:エコノレッグ株式会社
アシゴトの中から、「白い足袋タイプの靴下(上写真:左下)」と「黄色い温活ソックス(上写真:右下)」を使ってみました。機能性のある靴下を履いたのは初めてだったので、最初に床を歩いたとき、キュッと止まるすべり止めの機能に驚きましたが、それが靴の中で良い働きをしてくれることに気づきました。靴と靴下がずれにくいと歩きやすいんですね。温活ソックスは黄色が差し色になってお洒落ですし、足首にあるモコモコが暖かくて足元から幸せを感じます。夏に向けたシースルーの新商品も楽しみです。
インタビューの中で「地方の製造業は、まだまだ女性が活躍できる部分がいっぱいある」という矢羽野さんのお話が印象的でした。また、普段と違う仕事を経験することは、広い視野を育てる良い機会になり、若手社員の育成にもつながります。上司と社員が本音で意見を言い合える環境も、改めて大事だと思いました。奈良の靴下産業をますます盛り上げていってくださいね!(ものづくり新聞 小柴寿美子)
アシゴト - ECONOLEG エコノレッグ本店 ー 靴下の専門店 ー
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