産地を訪ねて
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2026.03
【イベントレポ】工芸×玩具×福祉から考えるものづくり。不完全だから生まれる愛おしさ

2026年3月30日公開
2026年3月11日、京都。春の気配が漂う「ホテル カンラ 京都」を舞台に、ものづくりの未来について熱い対話が繰り広げられました。
テーマは「工芸×玩具×福祉から考えるものづくり」。
このトークイベントは、「Kyoto Crafts Exhibition DIALOGUE」の一環として開催されました。
今回のナビゲーターは、伝統工芸と福祉を繋ぐプロジェクト「NEW TRADITIONAL(通称:ニュートラ)」の中島香織さん(一般財団法人たんぽぽの家)。たんぽぽの家とは、「アート」と「ケア」の視点から、多彩なアートプロジェクトを実施している市民団体です。

今回の登壇者は、デザインの最前線から郷土玩具を見つめる株式会社torinoko、「玩具」と「工芸」の間を発掘・探究・創作するユニット玩具工芸社、そして障害のある人とともに社会に新しい仕事をつくりだすことをめざすGood Job! センター香芝の面々です。
「石で叩く」という身体性。たんぽぽの家が拓く新しい仕事
たんぽぽの家のプロジェクト、NEW TRADITIONALの活動事例のなかで、筆者の心が一番動いたのは「叩いて作る木工シリーズ」のお話でした。
福祉の現場において、木工は常に「刃物」という高い壁に直面してきました。精密なノミやカンナの扱いは習得に時間がかかり、安全性の確保も難しい。そこで中島さんたちは職人と共に、なんと「技法そのものを変える」という逆転の発想に至ります。
「川のそばにあった石を使って、木を叩いて形を作る。ただそれだけのことですが、そこには無心に叩く楽しさや、空間に響く音の盛り上がり、みんなでリズムを合わせる一体感が生まれました」
このお話を聞いて、私はハッとしました。単に「皿を作る」ことが目的ではなく、叩くという原始的で身体的な喜びを「仕事」として再定義した。その発想の転換が、なんてクリエイティブなんだろう、と。
春日大社の杉の端材を使い、完成した製品を神社に奉納報告に行くプロセスまで含めて、作り手が地域社会の一員として「誇り」を持てる仕組み。それは「支援」という言葉を超えた、ひとつの文化の誕生のように感じられました。
郷土玩具の「ウイルス的広がり」を読み解く。玩具工芸社の探究
続いて、デザインユニット「COCHAE(コチャエ)」から派生した玩具工芸社の軸原ヨウスケさんと長友真昭さん。お二人の視点は、まるで歴史家のような深みがありました。

興味深かったのは、伏見人形などの歴史に見る「型取り」の文化です。江戸時代、ある場所で買ってきた人形を各地で勝手に型取りし、それがさらに孫型へと広がっていく……。
「型取りを繰り返すと、形はどんどん歪み、細部は崩れていきます。でも、その『ズレ』こそが地域ごとの個性になり、郷土玩具に独自の生命力を与えてきた」というお話には、思わず膝を打ちました。

彼らが取り組む「コッパン人形」プロジェクトは、1919年に山本鼎が提唱した「農民美術運動」へのオマージュでもあります。
農閑期の副業として、美術教育を受けていない人々が自分の手で人形を作る。その力強さと素朴さに惹かれたという彼らは、春日大社の端材(木っ端)を用い、たんぽぽの家の障害を持つ方たちがハンコで顔を押すことで完成するプロダクトを開発しました。
少しとぼけた表情の人形たちを見ていると、現代が忘れかけている「真似して広がる」というダイナミズムが、福祉の手を借りて現代に蘇っている気がしてワクワクします。
「福缶」が繋いだ作家の思い。torinokoのデザイン哲学

毎年お正月に発売される無印良品の「福缶」。そのプロジェクトを15年にわたり牽引してきた株式会社torinokoの小山裕介さんと白鳥裕之さんは、デザインを通じた社会資源の繋ぎ方について語ってくださいました。
2011年の東日本大震災直後、東北の郷土玩具を詰め込んだ「福缶」を立ち上げる際、お二人はタウンページを片手に、インターネットに情報の載っていない作家の元を訪ね歩いたと言います。
「カップルのふりをして各地の工房を回ったこともありました」と笑いを交えつつ語られるエピソード。けれどその裏側には、情報の海に埋もれかけた「つくり手の顔」を一つひとつ丁寧に見つけ出してきた、デザイナーとしての意地と愛情が感じられました。
また、白鳥さんが共有してくださった「視覚障害者との協働」のお話も深く刺さりました。
点字の技術を活かしたペーパーアイテムや、視覚障害者の優れた聴覚を活かした「音の鳴る楽器」作り。視覚以外の感覚を主軸に置くことで、全く新しいデザインの地平が見えてくる。それは「欠けているものを補う」のではなく、「異なる才能を活かす」という、とても前向きな発見でした。
デジタルと手仕事の共生。Good Job! センター香芝の挑戦

福祉施設として今年10年目を迎えたGood Job! センター香芝。こちらもたんぽぽの家の関連施設です。安部剛さんは、最新の3Dプリンターやレーザーカッターを「障害のある人の能力を拡張する道具」として使いこなす日々を報告してくださいました。
特に驚いたのが、伝統的な「張り子」制作のアップデートです。
通常は木型を抜く作業が必要ですが、ここでは3Dプリンターで出力した「型」を、あえて中に埋め込んだまま仕上げる技法を採用しています。

「3Dデータの作成から、プリンターの操作、絵付けまで、すべて障害のあるメンバーが担当しています」
伝統的な職人技をそのまま再現しようとするのではなく、デジタル技術という「新しい道具」を介入させる。それによって、多様な特性を持つ人々が製造工程の主役になれる。これこそが「工芸×福祉」が提示する、自由なものづくりの形なのだと強く実感しました。
クロストーク:なぜ私たちは「不完全なもの」に惹かれるのか

イベント終盤のクロストークでは、議論は「郷土玩具の未来」へと及びました。
「郷土玩具の魅力とは何か?」という問いに対し、小山さんは「スピリチュアルな側面」に触れられました。役に立つ道具ではないけれど、地震の時にだるまが落ちてこなかった、といったエピソードが真剣に語り継がれるような、誰かの心の拠り所としての存在。
一方で安部さんは、購入者の心理を「一つひとつ顔も体型も少しずつ違う中から、『この子だ!』という1体を一生懸命に選び出す体験そのものが愛着を生んでいる」と分析します。
最近は、大量生産を好まない若いつくり手も増えているそうです。それはものづくりが「効率」の時代を通り過ぎ、再び「質」や「物語」の時代へと戻っている証拠なのかもしれません。
これからの「ものづくり」のありかた
1時間半に及ぶトークイベントを締めくくったのは、工芸と福祉の接点に共通する「寛容さ」でした。
かつての郷土玩具が、不完全さを魅力として許容していたように、福祉現場から生まれる製品もまた、画一化された製品にはない「ゆらぎ」を感じさせます。
「NEW TRADITIONAL」が目指しているもの。それは、伝統工芸が長年培ってきた「手しごとの喜び」を、最新のテクノロジーや多様な視点で解きほぐし、誰もが参加できる「ひらかれた文化」として再構築する試みです。
「正解」や「完璧」を求めすぎて息苦しくなりがちな私たちの日常に、この「不完全な愛着」は、とても大切なことを教えてくれている気がしました。
株式会社torinoko
小山裕介と白鳥裕之のデザインユニットから始まり、2019年に設立。無印良品で商品開発に携わった経歴を背景に「見つめて、見つける、モノづくり」をテーマに活動。暮らしや行動、技術などを観察し、使う人と作る人のそれぞれに寄りそうデザインを心掛けている。点図ポチ袋の開発や「福缶」による復興支援、国産材を活用したプロダクトなど、デザインを通じて社会や地域資源、地域産業をつなぐ活動を行っている。
玩具工芸社
COCHAE内に発足した「玩具」と「工芸」の間を探求する活動ユニット。メンバーは軸原ヨウスケと長友真昭。玩具工芸社では日本の郷土玩具をスプリングボードに、1930年代の工芸を再検証し、現代に通じる「玩具工芸」の開発を行う。また、そのリサーチを通じて学術的、文化的な玩具文化全般の地位向上を目指す。
安部剛
Good Job! センター香芝企画営業ディレクター。2017年よりGJ!センター香芝のスタッフとなり、全国の福祉施設などから生まれる商品を販売するGOOD JOBS TOREの運営と、メンバーの表現を生かした商品開発などに取り組む。
中島香織(一般財団法人たんぽぽの家事務局長)
たんぽぽの家にて障害とアートに関するセミナーや出版事業、伝統工芸と福祉のものづくりをつなぐ「ニュートラ(NEW TRADITIONAL)事務局。人材育成プログラム「ニュートラ(NEW TRADITIONAL)の学校」や舞台公演の企画等を行う。
「Kyoto Crafts Exhibition DIALOGUE」
2018年よりスタートした「DIALOGUE」は、ホテル カンラ 京都を会場とする工芸や手仕事の作り手を紹介する展示販売会。
今年度は2026年3月11日(水)〜14日(土)の4日間の会期で開催。京都を中心に全国各地から過去最多の88ブランドの多様な背景を持った作り手たちが集い、ホテルの客室やレストラン内にて各ブランド趣向を凝らした展示や装飾を行い、来場者を迎えました。
https://www.instagram.com/dialogue_kyoto/
編集後記
個人的に「伝統工芸」と聞くと、どこか背筋が伸びるような、寸分の狂いも許されない職人技をイメージしがちでした。しかし、今回のトークイベントで語られたのは、その対極にある「ゆらぎ」や「ズレ」の豊かさです。
特に印象的だったのは、たんぽぽの家の中島さんが仰った「石で叩く」という木工のエピソードです。効率や精度を追い求める現代社会において、「ただ無心に叩く楽しさ」を仕事の核に据える。それは、福祉の現場が伝統工芸に「教わっている」だけではなく、むしろ工芸が本来持っていたはずの「身体的な衝動」を呼び覚ましているようにも見えました。
玩具工芸社さんが語る「型取りによる形の崩れ」も同様です。劣化して歪んでいくことを「個性」と捉える視点は、デジタルコピーで劣化のない複製が可能な今だからこそ、かえって新鮮に響きます。
「不完全なもの」を愛おしいと感じる心。それは、自分自身の弱さや未熟さを「それでいいんだよ」と肯定してもらえるような、社会の寛容さそのものなのかもしれません。
(ものづくり新聞 記者 オギユカ)
