ヒトを訪ねて

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2026.08

テクノロジーで伝統の“来迎図”を表現!仏師・三浦耀山さんが8年かけて挑む『ドローン仏』

2026年8月10日公開

京都を拠点とする仏師の三浦耀山(みうらようざん)さんは、伝統的な木彫仏像の制作や修復を営む一方で、ドローン制御の最新テクノロジーを融合させた“ドローン仏(ぶつ)”プロジェクトを手がけています。2018年の着想から8年の歳月をかけ、阿弥陀如来と25体の菩薩が宙に舞う「阿弥陀二十五菩薩来迎(あみだにじゅうごぼさつらいごう)※」がついに完成を迎えました。

※阿弥陀二十五菩薩来迎:浄土教における図像・信仰形式のひとつで、人が命を終えるとき、阿弥陀如来が25体の菩薩を従え、極楽浄土から音楽を奏で、舞いながら迎えに来るという場面を表したもの

「仏像を、いかに軽くするか」——。取材を通して見えてきたのは、この一点をめぐって、平安時代の仏師と現代のドローンエンジニアが、時代を超えて同じ課題に向き合ってきたという事実でした。

前職では通信会社に勤務していた経験を持ち、デジタル技術への造詣も深い三浦さん。3Dスキャナーや3Dプリンターを伝統工芸に融合させる先駆的な取り組みについて、プロジェクトの軌跡と込められた想いを伺いました。

伝統の「来迎図」を現代に。着想の原点

ーーまず、ドローン仏像の着想について教えていただけますか?

三浦さん:「もともと仏像を宙に浮かせるという考えは昔からあるんです。それが『来迎図(らいごうず)』というふうに言われている世界でして、浄土教の教えでは、人が亡くなったときにお念仏を唱えていると、極楽浄土から阿弥陀様がお供の仏様を連れて、音楽に合わせて踊りながら楽しげにお迎えに来て、極楽浄土に連れて行ってくれるというものです。

平安時代や鎌倉時代に一大ブームになりました。昔の人はこれを本当に信じていて、絵画だけでなく仏像でも表現しようとしていました。壁の高いところに雲に乗った仏像を貼り付けたり、平等院鳳凰堂の雲中供養菩薩(うんちゅうくようぼさつ)のように、高さで表現したりしていたんです。今の時代だったら、ドローンを使えば本当に宙に浮かせられるんじゃないかなという発想をしたのが2018年でした。」

ーー2018年の具体的なきっかけはあったのでしょうか?

三浦さん:「Amazonとかで1万円ぐらいでドローンが買えるようになったというのが大きかったです。電磁石で仏像を浮かせる実験をしていたときに、ドローンだったら飛ぶんじゃないかなと思いついて、とりあえずAmazonでポチったんです。」

「空洞」という、千年変わらない知恵

ーードローン仏は、最初からうまく飛んだのでしょうか?

三浦さん:「飛びましたが、最初から木彫りの仏像を載せるのは怖かったので、ちょうどその頃に出会った3Dプリンターを活用しました。京都にある3Dプリンター会社の株式会社キャステムさんとの出会いがタイミング良く重なったんです。中を空洞にして軽くした3Dプリンター製の仏像を作ってもらい、それを載せて飛ばしてみたら結構飛んだので、これはいけるんじゃないかと思いました。」

ーー最先端のデジタル技術と昔からの伝統技術が同じ空間にあるというのは、本当に面白い光景ですよね。

三浦さん:「そうですね。千年以上の技術的な開きがある分野が一つの工房で共存しているわけですから、非常に興味深い環境です。現在では美術館でも使用されているような高性能な機器を使用しており、操作も非常に使いやすくなっています。」

ーー3Dプリンターで出力した仏像も、伝統的な漆や金箔で仕上げているのですね?

三浦さん:「はい、漆職人さんに塗ってもらい、金箔職人さんに金箔を押してもらっています。3Dプリンターという新しい技術を挟んでいる以外は、すべて伝統的な作り方なんです。彩色工程では、日本画絵具を主に使用しております。」

ーー「軽くする」ための構造は最新技術が担い、「魂を込める」ための作業は職人の手技が担う。ドローン仏は、この役割分担によって初めて成立しているのですね。

↑ドローンに乗るちいさなサイズの仏像

↑色付けの様子

ーー仏像が空洞になっているのは、軽量化のためですか?

三浦さん:「実は、仏像は元々空洞なんです。『内刳り(うちぐり)』と言って、木の割れを防ぐために昔から行われている技法です。木は必ず芯材と辺材の収縮の違いで割れが起きるので、薄くすることで力を分散させて割れにくくしています。

また、この空洞部分には巻物や当時の記録、お経などを入れる場所でもありました。京都の嵯峨清凉寺(さがせいりょうじ)の釈迦如来像(しゃかにょらいぞう)では、中に絹で作った内臓を入れていたりもします。空洞化は仏像においてはごく自然なことなんです。

つまり、飛ばすために軽くしたのではなく、割れを防ぐために軽くつくられてきた仏像だったからこそ、そのまま空へ持ち上げることができた。千年以上前に確立された技法が、現代のドローンの要求と偶然にも一致していたのです。」

8年間の試行錯誤と、SNSがもたらした転機

ーードローン仏の初回のイベントはどのような経緯で実現したのですか?

三浦さん:「龍岸寺のご住職とは1、2年前から知り合いでした。当時、ご住職はアイドルプロデュースをしていて、浄土系アイドルという女子大生たちがお寺で歌うというライブイベントを企画していました。そこにテクノ法要も加わった仏教イベントの打ち合わせに呼んでもらったときに、ドローン仏の話をしたんです。最初は怪訝な顔をされましたが、来迎図の説明をしたら理解していただけて、ライブのオープニングでやってみることになりました。考えついてから3ヶ月以内にイベントが決まったので、本当にタイミングが良かったです。」

ーー初回のイベントは成功したのでしょうか?

三浦さん:「実は初回は失敗してしまいました。3台同時に飛ばす予定でしたが、電波干渉が起きて1台しか飛ばず、2台は墜落してしまいました。そのときは、もうやめようかと思ったほどです。しかし、来ていたアイドルファンの方が動画を撮って当時のTwitterに投稿したところ、すごくバズったんです。1週間後にはテレビの情報番組に出演することになり、そこからメディアに注目されるようになりました。」

ーー8年間という長い期間がかかった理由は何でしょうか?

三浦さん:「ドローンについて何も知らない状態からのスタートでした。専門会社に見積もりを取ったら何百万円と言われて、お寺での小規模なイベントでは採算が合いませんでした。また、日本のドローン規制が厳しく、屋外での飛行は非常にハードルが高かったんです。さらに2020年にはコロナでイベント自体がなくなってしまいました。技術的にも、国内でのプログラミング制御による編隊飛行ができるドローンが登場したのが2022年頃で、25台同時飛行が可能になったのは最近のことです。ドローンの技術進歩とともに、私のプロジェクトも進化してきたという感じですね。」

文化財の修復・保護へのデジタル活用

ーードローン仏の技術が、普段の木彫り仏像制作にフィードバックされることはありますか?

三浦さん:「直接的にはあまりないですが、修復の分野では3Dスキャナーの技術が活用できるようになりました。修復を依頼されたときに、今までは写真と報告書で記録していましたが、そこに3Dデータを加えることができます。最近は修復したら必ずデータを取るようにしています。地方の無人寺では仏像など文化財の盗難が問題になっているので、和歌山県の博物館では無人寺の仏像を3Dスキャンして、学生たちが彩色したレプリカをお寺に置き、本物は博物館で保存するという試みも始まっています。」

ーー軽量化という切り口だけでなく、記録・保存という面でも、デジタル技術は三浦さんの本業である仏像修復に静かに入り込んでいるのですね。海外からの反響はいかがでしょうか?

三浦さん:「中国や台湾では結構話題になっています。台湾では何回かニュースに取り上げられ、おととしはCNNが取材に来て世界に配信されました。今年は台湾の100万人フォロワーのインスタグラマーが取材に来て、400万回ぐらい再生されたそうです。うちの彫刻教室にいる中国の方からも、上海の友達から『日本では仏像をドローンで飛ばしているらしい』という話を聞いたと言われました。仏教文化が近いということもあって、中華圏では理解されやすいようです。」

批判を越えて。「立体曼荼羅」と世界へ向かう未来

ーードローン仏に対して、なかには批判的な反応もあったのでしょうか?

三浦さん:「たくさんありました。『飛ばす必要があるのか』『昔の人は壁に貼り付けて表現していたのに、わざわざドローンに乗せる意味があるのか』『うるさい』『危ない』『遊んでいるように見える』といった批判です。でも、SNSはその瞬間の映像しか見ませんから。千年以上にわたって人々が願ってきた仏教的な世界観へのオマージュであり、文脈から見れば王道だと考えています。」

ーー2026年6月21日の「阿弥陀二十五菩薩来迎」完成イベントに向けた現在の心境はいかがですか?

三浦さん:「ようやく8年かかって、ここまで来たかという感じです。龍岸寺さんとは最初からずっと二人三脚で進めてきましたし、いろんな人が協力してくれた上でのことなので、非常に感慨深いですね。一区切りはつくのかなと思っています。」

ーー25体完成後の展開については、どのようにお考えですか?

三浦さん:「ドローン仏に関しては一区切りになりますが、25台で構成される本来のかたちで、いろんなお寺で飛ばすことが広がっていけばいいなと思っています。それこそ海外でもやってほしいという話が出てくることも期待しています。

また、来迎図以外にも立体曼荼羅という見せ方もあるかなと考えていて、そうすると上に乗る仏様も全然違いますし、動きも違いますし、訴える層も変わってきます。」

ーー今後のドローン技術の進歩に期待することはありますか?

三浦さん:「音が全く出ないドローンが欲しいですね!今回は30台近くになるので、どれぐらいの音になるかわからなくて。雅楽と合わせることで気にならないようにしていますが、本当は音が全くしないドローンが理想です。最近、バルーンドローンという風船状のものが出ていて、コンサートの撮影などで使われ始めています。それがもっと小さくなって手に入りやすくなると、ドローン仏がもうワンランク良い感じになるのになあと思っています。」

ーー完成イベントでは、どのような演出を予定されているのですか?

三浦さん:「まず手前にお坊さんがいて、そこに阿弥陀如来を中心として二十五菩薩が迎えに降りてきます。それで亡くなった人も一緒に浮いて、楽しげに舞いながら、最後に極楽浄土に帰っていくというストーリーです。飛ぶ仏像も初めてですが、動く仏像、自分の方に寄ってくる仏像というのも今まではなかったと思うので、ドローンならではの臨場感を表現したいと思っています。」

8年の集大成、ついに宙へ。完成イベント当日

そして迎えた2026年6月21日、龍岸寺にて「阿弥陀二十五菩薩来迎」が披露されました。屋外でのドローンショーとは一線を画す、本堂という限られた屋内空間での25機同時飛行という前例のない挑戦は、多くの人々の協力のもとで実現に至りました。

↓飛行の様子の動画 

今回のプロジェクトを三浦さんとともに8年間牽引してきた龍岸寺のご住職は、当初思い描いていた25体という編隊の形をようやく披露できたことについて、「長い学生生活がようやく終わったような感覚だ」と振り返ります。構想から実現までの道のりでは、その都度多くの人に相談を重ね、新しいドローンの開発を含めて協力者を得ながら進めてきたのです。

編隊飛行のプログラム開発を担ったのは、ドローンショーを専門に手がける会社「レッドクリフ」の技術者です。屋外でのドローンショーはすでに広く知られていますが、屋内でのショーはほぼ前例がない領域であり、限られた空間内で25機を安全かつ精密に制御することが最大の技術的課題になったといいます。当初は会場の広さを見て「この空間では難しいのではないか」と判断するほどだったそうですが、検討を重ねる中で実現の糸口を見つけていったとのことです。本番前日の夜、編隊飛行のプログラム修正は翌朝5時まで及んだといいます。

三浦さんが語っていた通り、25体という完成したボリュームになったことで、今後は様々な寺院でドローン仏を飛ばす展開や、海外での開催が期待されます。この前例のない挑戦が成功したことは、今後の屋内イベントや、精密な位置制御・安全性確保の技術を応用したさまざまな分野への展開にもつながる可能性を示すものとなりました。

8年前、電磁石で仏像を浮かせる実験から始まった着想は、Amazonで購入した1万円のドローンを経て、屋内25機編隊という形で一つの到達点を迎えました。伝統技法と最新技術が同じ空間で共存してきたこのプロジェクトは、次はどのような舞台で「来迎」を描いていくのか、今後の展開にも注目です。

編集後記

取材を終えて印象に残ったのは、「軽くする」という、一見地味な点でした。三浦さんが空洞の仏像に3Dプリンターを組み合わせたとき、それは新しい発明というより、平安時代の仏師が木の割れを防ぐために編み出した「内刳り」という知恵の、正当な延長線上にあったのだと気づかされます。

千年前の職人は、仏像が長く朽ちないように空洞をつくった。現代の三浦さんは、仏像が宙を舞えるように空洞をつくった。目的は違っても、行き着いた答えは同じ「軽さ」だった——この符合にこそ、ドローン仏というプロジェクトの、技術的な達成以上の面白さがあると感じます。

伝統技法が持っていた合理性は、時代が変わっても失われることなく、次の技術の土台になり得る。三浦さんの8年間は、そのことを静かに証明してくれた歳月だったのではないでしょうか。

正直なところ、最初にこの企画の話を聞いたときは、「仏像とドローン」という組み合わせに、少し戸惑いがありました。神聖なものを工業製品に載せて飛ばすというのは、どこか興行的というか、話題づくりが先に立っているのではないか。そんな先入観があったことを認めます。

けれど、三浦さんに内刳りの話を伺ったとき、その戸惑いはほどけていきました。仏像を軽くするという発想自体は、三浦さんが発明したものではなく、千年前からそこにあったものだと知ったからです。ドローンはあくまで、すでに仏像の中にあった「軽さ」を、外側から引き出す装置にすぎなかった。そう捉え直すと、この取り組みは奇をてらったものではなく、むしろ職人の系譜のなかに素直に位置づけられるものだと感じました。

お寺の本堂でドローンが飛ぶ光景は、慣れていなければ違和感があって当然だと思いますし、賛否が分かれるのは自然なことでしょう。それでも今回、三浦さんの言葉から一貫して伝わってきたのは、奇抜さで注目を集めたいという動機ではなく、来迎図という信仰の形を、今の時代の技術でもう一度、実感を持てるものとして届けたいという、ごく素朴な願いでした。その姿勢に、最終的には素直に心を動かされました。

(ものづくり新聞/オギユカ)

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