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2026.04

【江戸風鈴体験】ガラスを吹いて風鈴作り!篠原風鈴本舗で伝統の技に挑戦(東京都江戸川区)

2026年4月27日公開

「チリンチリンチリン」

どこからともなく聞こえてくる風鈴の音色は、日本の夏を感じさせる風物詩です。

そんな風鈴の中で、今もなお、江戸時代から続く伝統的な製法で作られている風鈴があります。その名も「江戸風鈴」。職人の手作業によって生み出されるため、ひとつひとつの音にも違いがあります。今回は、有限会社篠原風鈴本舗から、江戸風鈴作りの体験レポートをお届けします!

「江戸風鈴」とは?

篠原風鈴本舗は、東京都江戸川区、都営新宿線の瑞江(みずえ)駅から15分ほど歩いたところにあります。創業は大正4年(1915年)。111年という長い間、江戸時代から続く昔ながらの製法で風鈴を作り続けてきました。(取材時:2026年4月)

ガラス風鈴が江戸(現在の東京)に伝わったのは、江戸時代中期の1720年頃といわれています。きっかけは、長崎から来たガラス職人が江戸で行った「ビードロ風鈴」の実演でした。

「ビードロ」とは、江戸時代に西洋から伝わった吹きガラスによるガラス工芸のことで、ポルトガル語でガラスを意味する言葉です。ガラスは当時、大名や豪商のみが買うことのできる高級品だったため、とても珍しく、江戸の町でも大きな注目を集めました。

「江戸風鈴」は、それまでガラス風鈴と呼ばれていたものを、昭和40年頃、篠原風鈴本舗の2代目、篠原儀治(しのはら よしはる)さんが、「江戸時代から続く製法で、東京(江戸)で作られている」ことから「江戸風鈴」と名付けたものです。型を使わず、ガラスを宙で吹いて作る「宙吹き(ちゅうぶき)」という伝統技法によって作られています。

現在、この江戸風鈴の伝統技法を受け継ぐ工房は、全国でもわずか2軒のみ。篠原風鈴本舗では、職人に教わりながら、自分だけの風鈴を作る体験ができます。

店内には、体験の参考にと、様々な絵柄の見本が並んでいました。

江戸風鈴はどう作る?職人によるガラス吹きの実演

体験は2コース。絵付けのみの体験と、ガラス吹きと絵付けの両方を体験できるコースです(取材時:2026年4月)。私は両方体験できるコースを選びました。

早速、江戸風鈴の本体を作る体験がスタート!ガラス吹きを教えてくれたのは、大槻賢一(おおつき けんいち)さん。この道、30年以上というベテランの職人さんです。

大槻賢一(おおつき けんいち)さん。主にガラス吹きを担当。小学5年生のとき、社会科見学で篠原風鈴本舗を訪れたことが、この道を志すきっかけになったそうです。2代目の篠原儀治(よしはる)さんが、風鈴の内側に「寿」を逆に描く姿に「文字を逆さまに書いて褒められる世界がある」と衝撃を受けたのだとか。

大槻さん:「この炉は電気で動いていて、中の温度は1,320℃ぐらいあります。オレンジ色に見えるのはトロトロに溶けたガラスです。この中に吹き棹(さお)を入れてガラスを巻き取り、吹き棹から息を入れて膨らませて風鈴の本体を作ります。」

大槻さん:「最初に小さい球を作ります。口玉(くちだま)といって、それが風鈴の鳴るところになります。吹き棹を回しながら息を少し入れて膨らませます。」

大槻さん:「小さい球が出来たら、その上にもう一度ガラスを巻いて、さらに膨らませます。その後は、この吹き棹の中に針金を通して球に穴を空けます。この穴は、吊るすときに糸を通す穴になります。最後にもう一度膨らませますが、球に穴が空いているので、最後はちょっと強めに吹きます。膨らんだら、最後にもう一息、優しく吹いて固めます。」

大槻さん:「まだ熱いので、粉状にしたコークス(※)という黒い粉の上で冷まします。見た目では分からなくても、この時点でガラスの温度はまだ800℃ぐらいあるんです。今の時期(4月)だと、10分ほどで冷めます。」

※コークスは石炭を蒸して作った固形燃料のこと。昔はコークスで窯を稼働していたそうです。

大槻さん:「冷めたら、小さい球の方を割って切り落とします。この作業は危ないので私の方でやりますね。江戸風鈴は、この割った部分のギザギザをわざと残すのが特徴です。その部分がこすれることで音が出るんです。これを焼き戻してしまうと、音が鳴らなくなります。切り落とした部分は、このままだと危ないので、砥石(といし)を使って削ります。」

江戸風鈴は手作りなので、1つ1つ音が違います。実際に鳴らしてみたところ、音の高低や響きに違いがあって面白かったです。

1回で上手く出来た人はいない「宙吹き」に挑戦

ーー吹く時に、何かコツはありますか?

大槻さん:「一番のコツは毎日やることですね(笑)。強く吹くとパンクするし、弱く吹くと膨らみません。強いと思ったら弱く、弱いと思ったら強く。息の強さは人それぞれなので、まずやってみてください。」

いよいよ実践です。吹き棹を回しながら息を吹き入れてみると…。

大槻さん:「いきなり強く吹き過ぎましたね。これは、もう処分です。でも、大丈夫ですよ。今まで1回で出来た人を見たことがありませんから。小さい球(口玉)で3年。 大きい球で10年。 13年くらいやって、やっと自分が風鈴を作れる人なのか、作れない人なのかがわかるんです。」

大槻さんに手伝ってもらいなら再チャレンジ!すると…。

あら不思議!上手く膨らますことができました!

大槻さん:「実は、ガラスの厚みが4層になるように作っています。吹きながら、球を上に向けたり下に向けたりして、厚いところ、薄いところと、厚みを変えているんです。だから10年やってようやくスタートライン。ガラスの厚みを変えることで、いろんな角度に音がぶつかるようになり、いい音が出るようになるんです。」

ーー凄い!職人技ですね~!多いときで1日何個くらい作れるものなんですか?

大槻さん:「今は時間を決めて作業をしているので、多いときで1日300個ぐらいですね。風鈴は夏のイメージを持っている方が多いと思いますが、結構、年間を通して忙しいですよ。体験や見学の方は、やはり夏に向けて増えていく傾向がありますね。」

内側に描く絵付けならではの注意事項

風鈴の本体が完成した後は、絵付け体験です。代表取締役の篠原惠美(しのはら えみ)さんに絵付けをする際の注意事項を教えていただきました。

篠原惠美さんは、3代目の裕(ゆたか)さんとの結婚を機にこの道へ。2014年、裕さんが亡くなってからは、篠原風鈴本舗の代表取締役として工房を率いています。主に絵付けを担当。得意な柄、好きな柄は金魚。新潟県出身。

ーー見本がたくさんありますね。どんな絵が書きやすいですか?

篠原さん:「点と線が描きやすいので、水玉や花火、トンボがおススメです。意外と富士山も描きやすいんですよ。山頂部分を白く塗って、そこから縦方向に裾が開くように線を引きながら塗ると簡単です。絵は風鈴の内側に描きます。外側だと雨や風で落ちやすくなりますからね。」

篠原さん:「気を付けることは、風鈴の絵柄は内側に描くので文字と数字は左右が逆になるということです。例えば数字で「12」と描きたかったら、数字は左右反転に書きつつ、2が左側、1が右側と位置も逆に描きます。また、絵の具を重ねる順番にも気を付けてください。例えば、パンダを描く場合、普通だと全体を白に塗り、その上に黒を重ねて目を描くこともできますが、内側に描くので、色を重ねても重ねた部分は表面に出ません。この場合、黒い目を先に描いて、その周りを白く塗ります。」

篠原さん:「実は、おススメしないのが、このように風鈴の内側を全部塗るタイプです(写真上・下)。音が悪くなるからです。私たちはプロですから、薄く塗れますけど、普通の人は絵の具をどっさりつけてしまうので、ガラスが重たくなり、音の響きが鈍くなるんです。」

篠原風鈴本舗、新作の「メリーゴーランド」。ぼかすような塗り方もプロですね!

自分だけの江戸風鈴を作る!絵付けの時間

篠原さん:「私たちが普段使っているのは油性の絵の具なんですけど、手や洋服につくと落ちないので、皆さんには水彩絵の具を6色用意しています。紙と違って、ガラスは水を吸わないので、絵の具が緩いと流れてしまいます。水の量は少なめに、あるいは水を付けずにそのままの絵の具で描く方がいいと思います」

注意事項を頭に入れながら、絵付けスタート!文字は左右反転に描くという教えを守り、ものづくり新聞の「も」の文字を書いてみました。風鈴が丸い上に、文字を逆に描くこと自体が難しいー!

点の模様で紫陽花を描くつもりが、文字をオレンジ色にしてしまったため、色合い的に合わないような…。気を取り直して、花火を描くことにしました!

入り口近くに付着してしまったオレンジ色を隠すため、口の部分を黄色く塗ることに。「音が鳴る口の部分は、音が悪くなるから塗らない方が良い」というアドバイスをすっかり忘れて塗ってしまいました…。このくらいなら何とかなるかな(苦笑)。

水をつけ過ぎて、色が垂れてしまうという失敗もありましたが、唯一無二の江戸風鈴、完成です!

昔の風鈴は赤かった?江戸風鈴の歴史と変化

江戸風鈴のことについてもっと知りたいと思い、篠崎さんにお話を伺いました。

篠原さん:「この仕事は、私の義理の父の父親が始めたんです。田舎から出てきて、東京で一旗あげようと思って、いろんな仕事を転々としたあと、修行をして独立しました。その時代、風鈴職人というのは結構、花形だったみたいですよ。」

篠原さん:「私が嫁いできた頃は、卸先が決まっていました。毎年7月9日、10日に浅草でほおずき市が行われるんですけど、その頃はほおずき市が主な卸先でしたね。他には、ほおずきを扱っている農家さんや、しのぶを扱っている農家さん。『つりしのぶ』ってご存じですか?」

ーーいえ、つりしのぶって何ですか?

篠原さん:「つりしのぶは植物なんです。植物で井桁とか屋形船の形など、いろんな形の骨組みを作って、そこに『しのぶ』というシダ植物の根っこをはわせて作るんです。水をあげていると、夏に芽が出てくるんですが、その下に風鈴を下げるのが一般的でした。今は『つりしのぶ』を知っている人も少なくなりましたね。」

こちらが「つりしのぶ」。写真上の奥は「井戸」を模したつりしのぶに、赤と青の金魚を描いた江戸風鈴。写真上・手前は、「屋形船」を模したつりしのぶに宝船と松を描いた江戸風鈴。とても涼し気です。(写真提供:篠原風鈴本舗)

ーー全然知らなかったです!今は、風鈴はどんな所に卸しているんですか?

篠原さん:「今は、ほおずき市には卸していません。ほおずき市の風鈴は、ほぼ輸入品になってしまいました。今の卸先は、百貨店や小売店、卸問屋さんですね。最近、増えてきたのがOEM(※)です。 私たちが作るものではなく、その企業のオリジナルのデザインを手がけることが以前より多くなりました。」

※「Original Equipment Manufacturer」の略で、他社ブランド向けに製品を製造する仕組み

ーー風鈴は、今と昔で何か違いはありますか?

篠原さん:「膨らませ方は変わっていないんですけど、絵柄は大きく変わりました。昔は、全体を赤く塗ったものが多くて、『風鈴といえば赤』でした。なぜかというと、風鈴は、もともと音で魔をよける『魔よけの道具』だったからです。赤も魔よけの色なので、昔の人は赤い風鈴が普通だったんですよ。」

ーーえ?風鈴を全部赤く塗るんですか?

篠原さん:「はい。もちろん絵は書いてあります。 例えば赤い風鈴に宝船と松が書いてあると、それは『宝船を待つ』という意味でした。赤は魔除けだし、宝船はお金が入ってくる。そうやって、風鈴は縁起のいいものを描くことが多かったですね。でも、赤は見た目が暑苦しいので、だんだん涼し気なものを求めるようになってきて、今は、赤い風鈴が締める割合は、1割もないくらいです。」

つりしのぶ「井戸」と江戸風鈴小丸「宝船を松」(写真提供:篠原風鈴本舗)

篠原さん:「でも、百歳ぐらいのおばあちゃんの中には『風鈴は赤じゃなくちゃね』と言う人もいます。昔は赤は赤でも何種類もありましたし、透明な風鈴は『水物(みずもの)』と呼ばれ、水物にも何種類もありました。当時は絵柄にそれほどこだわりはありませんでしたが、今は絵柄で選ばれることが多く、注文も『どの柄が何個』という形で受けるようになり、絵が大きなポイントになっています。」

一番売れ筋の絵柄は金魚。外国の方というより、日本人に好まれる絵柄だそうです。

江戸風鈴体験に訪れる外国人 SNSで広がる人気

ーー今回、一緒に体験した方が5人いらっしゃったんですが、私以外、全員外国からの方々でした。体験に来る外国の方は多いですか?

篠原さん:「多いですね。この頃、欧米系が多くて、特に最近はフランスの人が多いです。フランスは、伝統を大事にする人が多いみたいですよ。今はスマホがあるので、フランス語も日本語に変換できて、なんとかやっています。通じない時のために、英語で書いた注意事項や英語のパンフレットなども用意しています。」

ーー外国客のみなさんは何を見てこちらにいらっしゃるんでしょうか?

篠原さん:「だいたいネットで見たという方が多いですね。インフルエンサーが『風鈴の体験に行ってきました』って投稿すると、それを見て『僕も行きたい』と思って来てくださる方が多いようです。」

南アフリカから来たという女性3人の作品。カラフルで細かい絵柄がとても素敵だったので撮影させていただきました。売り物になりそうな出来栄えです!

ーー今後、何か目指していらっしゃることはありますか?

篠原さん:「外国の方が描く絵を見ていると、割とカラフルなんです。日本人は夏に飾るものだからと涼し気な絵にしますけど、そういう意味で、外国の方は『風鈴らしさ』を求めていないんですよね。いま、世の中が本当に変わってきていて、買うか買わないかは絵で決まるようなところがあるので、私たちもいろんな絵を考えていきたいと思っています。」

江戸風鈴体験は要予約です。詳細はHPをご確認ください。

篠原風鈴本舗HP
https://www.edofurin.com/

編集後記

江戸風鈴の体験を通して、職人技の奥深さを実感しました。「宙吹き」では、ガラスの厚みを変えながら膨らませていることや、それによって風鈴の音色が変わることにも驚かされました。絵付けの体験は一見簡単そうに見えますが、絵を内側に描く難しさなどは、体験してみないとわからないことでした。また、かつては風鈴といえば赤が主流だったという話も意外でしたし、「つりしのぶ」を知ることができたことも貴重でした。ものづくりの体験は楽しいですね。今年の夏は、自分で作った風鈴の音色を聞きながら涼みたいと思います。皆さんも、ぜひ体験してみてはいかがでしょうか?

ものづくり新聞 小柴寿美子

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