ヒトを訪ねて
2026年8月31日公開
2026年7月3日(金)から4日(土)の2日間、東京・有楽町にある東京交通会館で開催された「日本製の覚悟店」。日本製のものづくりにこだわる16社が全国から集まり、約3,000人もの来場者が訪れ、にぎわいました。ものづくり新聞では、16社の中から特に印象に残った企業をピックアップ!4回にわたり、取材を通して感じたそれぞれの「覚悟」をご紹介しています。
最後にご紹介するのは、近年、新ブランドを立ち上げた2社!東京都墨田区でTシャツの新ブランド「ICHORA+(イッチョウラ・プラス)」を手掛ける株式会社ズームと、岐阜県土岐市で美濃焼の新食器ブランド「each(イーチ)」シリーズを手掛ける有限会社カネ忠です。この2社は、どんな思いで新ブランドの開発に挑戦し、日本製の覚悟店に出店したのでしょうか?
Tシャツの新ブランド「ICHORA+」でリフレッシュを/株式会社ズーム(東京・墨田区)

たくさんのお客様でにぎわっていたこちらのブース。墨田区に本社があり、秋田県大館市に縫製工場がある株式会社ズームのブースです。創業は1980年。白衣姿で接客していたのは代表取締役社長の加々村 征(かがむら もと)さん。元薬剤師だそうです。その加々村さんにお話を伺いました。

加々村さんは株式会社ズームの2代目社長、45歳。高校・大学とアメフト部に所属するスポーツマン。大学卒業後は薬剤師として働きながら、総合格闘技へ挑戦。怪我による引退を経て、父が築いた家業を継ぐことを決意。趣味は筋トレ、ガーデニング、料理、コーヒー。筋トレはインストラクターの資格を取得するほど本格的に取り組んでいるそうです。
健やかな毎日に!着心地の良いTシャツ「ICHORA+」

ーー随分にぎわっていますね!
加々村さん:「来てくださるお客様の桁が違いましたね。XがきっかけでICHORA+を知ってくださったお客様が多いので、すでに商品のこともご存知の方が多いんです。お一人で5枚ぐらい買っていってくださった方もいらっしゃいました。ものづくりとSNS発信の親和性はめちゃくちゃ高いなと思いました。」
ーー今回は、どういう商品を持ってこられたのでしょうか?
加々村さん:「今回は、ICHORA+(イッチョウラ・プラス)というTシャツをご用意しました。植物由来のポリフェノールを糸に組み込んだ商品です。弊社の場合は、レーヨンにその成分を入れ込む方式なので、綿90%、レーヨン10%で作っています。私はこの縫製業に入って20年以上になるんですけど、このヌメ感としっとり感。『こんな生地触ったことない』っていうぐらいめちゃくちゃ気持ちいいです。」
ーー本当だ!触り心地が気持ちいいですね!
加々村さん:「 元薬剤師としては、糸に組み込まれた植物由来のポリフェノールという成分にも興味を持ちました。実は私自身、医療機関を受診した際に『ストレスが原因だね』と言われた経験があるんです。だからこそ、日頃からストレスとどう向き合うか、その大切さを実感してきました。元薬剤師であり、今は縫製業を営む私だからこそ、素材に含まれる成分にも興味を持ち、その特徴に着目することができる。それをTシャツという形にできるのは、私にしかできないことだと思って、商品化しました。」
「ICHORA+」のベースにあるのが、2012年にスタートした株式会社ズームのオリジナルブランド「ICHORA」です。ICHORAで培ってきた服づくりに、新たな機能や価値をプラスしたものがICHORA+。名前の「+」には、ICHORAのその先という意味と、これまでの服づくりに「機能をプラスする」という意味が込められているそうです。

ICHORA+の白いTシャツは、9,900円(税込)。ICHORAの青、黒、グレーのTシャツは、綿65%、和紙糸35%で作った日本製の覚悟店限定品、8,800円(税込)。和紙糸は軽量性と消臭性に優れ、涼しくサラッと着られるそうです。なんと、初日で完売でした!(価格はすべて取材時2026年7月のもの)
Tシャツ「ICHORA+」は墨田区内3社の技術を結集した逸品
ーーこの糸にはどうやって出会ったんですか?
加々村さん:「知り合いから『こういう糸を作ったんですよ』と教えてもらって、すごくいいと思いました。まだ糸の状態だったので、『誰か早くこの糸で生地を作ってくれないかな』と思っていたら、別の知り合いの生地屋さんが『この糸で生地を作りました』というので、すぐ購入しました。実は、糸を作っている会社も、それを編んでいる会社も、墨田区に本社がある企業なんです。このTシャツは、2025年にすみだモダン(墨田区の地域ブランディング事業)の認証も受けました。」
ーーICHORA+をお披露目するのは今回が初めてですか?
加々村さん:「いえ、2024年にブランドを立ち上げてから、都内の百貨店などでポップアップはやっていました。でも、これだけのお客さんが来てくださったのは、Xの影響が大きいです。日本製の覚悟店を企画した笏本さんがおっしゃっている通り、『知られてないのは存在してないのと同じ』『知ってもらうことでちゃんと伝わるんだな』ということを実感しました。」
ICHORA+は、古くからメリヤス産業が盛んな墨田区内にある企業3社(株式会社ズーム、丸安毛糸株式会社、フジサキテキスタイル株式会社)の共創で誕生したそうです。ICHORA+に使用されている糸は、墨田区の丸安毛糸株式会社が開発した「curefilo(キュアフィーロ)®」という機能性繊維。レーヨンにイタドリ、ヨモギ、柿の葉といった国産の野草から抽出した植物由来のポリフェノールが組み込まれた糸。詳しくはICHORA+のHP内にある開発ストーリーをご覧ください。

縫製面では立体裁断で心地よいフィット感を、首まわりがよれにくい仕立てで長く快適な着心地を実現。地域の連携により、環境にも人にもやさしい機能性ウェアを生み出している。(引用:すみだモダン活動レポート2025より)
洗っても縮まない「製品洗い」で、ひと手間かけたものづくり
ーー改めて株式会社ズームの事業内容について教えてください。
加々村さん:「主にアパレルブランドから依頼を受け、洋服を生産するOEM事業が中心です。生地や附属の手配から、パターン制作、裁断、縫製、検品、仕上げ、納品まで、国内で一貫してものづくりを行っています。また、さきほどご紹介した自社ブランド『ICHORA+』と、その前身である『ICHORA』を展開し、日本製Tシャツの企画・生産・販売にも取り組んでいます。」
ーーズームの商品の良さはどんなところですか?
加々村さん:「弊社のTシャツには46年培ってきた技術が詰まっています。パターンはもちろんですが、特にこだわっているのが『製品洗い』です。Tシャツは、洗うと必ず縮みますが、縦や横に均等に縮むとは限りません。そこで、生地の段階で洗濯やタンブラー乾燥による「縮率(しゅくりつ)」を測定し、その数値を型紙に反映しています。Tシャツを縫製後に洗ってタンブラー乾燥させ、狙いのサイズに仕上げています。だから、購入後に洗濯やタンブラー乾燥をしても、そこから大きく縮むことはありません。お客様にとっては当たり前のことかもしれませんが、これは技術の上に成り立っていることなんです。こうした手間のかかるものづくりは、大量生産には向きません。規模が小さいからこそ、ひとつひとつに手をかけられる。これも、弊社だからこそできる、日本らしいものづくりかなと思っています。」


秋田県大館市にある縫製工場の様子。株式会社ズームの本社は東京都墨田区にありますが、縫製工場は、秋田県大館市にあります。自然豊かな環境の中で、一着一着丁寧に作られています。(提供写真:株式会社ズーム)
ーー加々村さんは、どうして薬剤師をやめて、家業に入ったんでしょうか?
加々村さん:「転機になったのは怪我です。それをきっかけに格闘技をやめました。改めて、これからどう生きていくのかを考えたときに、格闘家として自分の夢を叶えることができなかった自分と、好きな服づくりを仕事にして、自分の会社まで立ち上げた父。『父はすごいな』と、その時に初めて強く感じたんです。『父が築いてきたもの、父の夢を自分が継ぎたい』そう思ったことが、薬剤師から家業に入り、現在の会社で働くことになった大きなきっかけです。父が築いてきた会社やものづくりの仕事を、自分の代でも続けていきたいと思ったんです。」
ーーお父さんの夢について詳しく教えていただけますか?
加々村さん:「父は子どもの頃から人形の服を作るほど、とにかく服が好きな人です。服飾デザイナーになり、自分の手で会社を築きながら、長年にわたってたくさんの服を世の中に送り出してきました。父自身が『これが夢だった』と語ったわけではありません。でも、私にとっては、好きな服づくりを生涯の仕事にし、自ら会社を築いて多くの服を生み出してきたことそのものが、父が叶えてきた夢なのだと思っています。」
ーー家業を継いだ時は、どんな気持ちでしたか?
加々村さん:「『自分で未来をつくることができる』という期待が大きかったです。薬剤師という仕事とはまったく違う世界でしたが、決められた道を進むのではなく、自分たちの仕事や会社の未来を自分たちの手で作っていけることに魅力を感じました。もちろん簡単なことではありませんが、だからこそ挑戦する価値があると思っていました。」
ーー今回は、どんな覚悟で参加されましたか?
加々村さん:「洋服の業界は本当に厳しいです。物価も賃金も上がっていく中、経済状況も悪く、経営も苦しいので、続けていくためには、ここで絶対に何かをやらなくちゃいけない。そんな思いで、ICHORA+を作って販売してきましたが、思ったより売り上げは伸びず、苦戦していました。この覚悟店がラストチャンスなんじゃないかという思いで必死になってやって来ました。今回、挑戦したことによって、本当に道が見えたので、やって良かったです!」

コーヒー染めのTシャツは、大のコーヒー好きという加々村さんが考案したもの。コーヒーの出がらしで何かできないかと考え、そこから染料を抽出し染めました。大好きなブラックコーヒー色に仕上げています。襟ぐりにデザインされた「ー」は「カンヌキ」印。ブランド名の「ICHORA=一張羅」と数量限定という意味の「一期一会」が込められた目印です。
日本製を着たい人に届きやすいTシャツを作り続けたい
ーー課題に感じていることは何かありますか?
加々村さん:「私たちは、ICHORA+が誕生した背景を含め、ブランディングがまだまだできていません。もちろん、いいものを作ることは大切ですが、『いいものを作って終わり』ではなく、その洋服が持つ価値や、そこに込められた技術や背景までを伝えていきたい。ハイブランドが、商品そのものだけでなく、その背景や世界観まで含めて価値を伝えているように、私たちも、ものづくりの魅力をきちんと発信していくことを、これからの目標にしたいと思っています。」
ーー今後の展開で何か新たに考えていらっしゃることはありますか?
加々村さん:「弊社ではパンツからコートまで幅広く展開していますが、これから特に力を入れていきたいのが、日本製のTシャツです。日本製はどうしても価格が高くなってしまいます。例えばシャツで3万円となると、なかなか手を出しにくいですよね。その点、Tシャツなら、日本製を着てみたいという方にも手に取っていただきやすい価格帯になると思っています。『日本製のTシャツといえばICHORA+、株式会社ズームだよね』と言っていただけるようなブランドを目指していきたいと思います。」

加々村さん:「また、墨田区は、すごく産業が盛んな地域なので、いろんな企業とコラボができたらいいなと思っています。弊社はまだお店を持っていないんですが、墨田区にある知人のカフェがお休みの時にその店舗をお借りして、ICHORAやICHORA+の販売をしようと計画しています。お互いの相乗効果を狙っていけたらいいなと思っています。」
株式会社ズーム
ICHORA+(イッチョウラ・プラス)
イマドキの食事スタイルへの提案。美濃焼の新ブランド「each」/有限会社カネ忠(岐阜県土岐市)
美濃焼のブースに展示されていたのは、お鍋のような器。同じ形の食器ですが、大きさはMとLの2種類があります。初日のお昼過ぎには、すでに「完売」したものもありました。

早速、有限会社カネ忠の代表取締役、須藤真一郎(すどう しんいちろう)さんにお話を伺いました。カネ忠は、美濃焼の産地、陶磁器生産量日本一(※)を誇る岐阜県土岐市に1967年創業。楽天市場の中で「暮らしのうつわやさん」を運営しています。
※土岐市「第七次土岐市総合計画」では、土岐市について「美濃焼の産地の中でも、生産量が最も多く、陶磁器生産量日本一のまち」と記載されています。

須藤さんは64歳(取材時:2026年7月)。大学卒業後、パソコンショップの店員や塾講師として約2年間働いた後、父親が心筋梗塞で倒れたことをきっかけに家業を継ぐことを決意。1986年から約40年近く、5,000点以上の器づくりに携わってきました。2012年にはライフオーガナイザー1級を取得。楽天市場で「暮らしのうつわやさん」を運営しています。
直火、オーブン、電子レンジにも使える陶磁器
ーーこれはどういう商品なんですか?
須藤さん:「each(イーチ)というシリーズの陶磁器で、直火にもオーブンにも電子レンジにも使える器です。 三重県に土鍋を作っている産地があるんですけど、そこの土と、私たちの地元、岐阜県土岐市の美濃焼の土をうまく配合して、陶器と磁器のいいとこ取りをしました。どんぶりみたいな形なので、鍋よりもスリムですごく軽いです。従来品と比べて、約40%の軽量化に成功しました。持ってみてください。」
ーーあ、本当だ!軽いですね!どれぐらいの重さなんですか?
須藤さん:「Mサイズが355g、Lサイズが465gです。もともと、他社が直火対応のラーメン鉢という発想で作った商品ですが、それをうちが改良させてもらって、より直火にかけやすくしました。今の時代、家族の夕飯の時間がバラバラじゃないですか。これは、器に一人分の材料を入れておけば、帰ってきた時、直接火にかけて調理をするだけでそのまま食べられるので便利なんです。」

キャッチフレーズは「直火でぐつぐつ、レンジでチン、オーブンでじっくり」。一人分にちょうど良く、一人鍋も可能。重ねて収納できるのも便利です。色は黒、グレー、アイボリーの3色。Mサイズは1個3,300円(税込)、Lサイズは1個4,400円(税込)です。(価格はすべて取材時2026年7月のもの)
ーー電子レンジもオーブンも使えて直火もOK!無敵ですね!どの部分を改良したんですか?
須藤さん:「以前は器の底に『高台(こうだい)』が付いていたため、コンロの五徳(ごとく)に置きにくかったんです。そこで底を平らにして、さらに接地面を広げることで、五徳に置きやすく、調理中も安定する形に改良しました。直接五徳に置いて、箸で料理をかき混ぜてもガタガタしにくいんです。そこが今回の大きな改良点ですね!」
ーーより使いやすくなるように工夫したんですね。
須藤さん:「前のバージョンでは、ネットの口コミに『大きい鍋で4人分作ると、後から食べる人が煮え過ぎてしまう。でも、これなら一人鍋ができる』と書いてくださった方や、『おかゆが作れる器が欲しい』という声もありました。そうしたお客様の声に応える形で開発したんです。」
お客様の声から生まれた「蓋」
ーー蓋は秋に発売予定なんですか?
須藤さん:「はい。実は、もともと蓋はついていない商品だったんです。昔ヒットした商品を今年2月に開催された『東京インターナショナル・ギフト・ショー』に向けて、もう一度作り直して、新シリーズとして展開したばかりのものです。一般のお客様が『これいいよね。でも蓋が欲しいよね』と言っているのを聞いて、それをきっかけに蓋を作ることにしました。今回のイベントに持ってくるタイミングとしても、ちょうど良かったんです。」

eachシリーズは、料理が冷めにくく、しばらく温かい状態で食べ続けられるのが特徴です。また、薄く作られているので、直火にかける際は、中火以下で使用することがおすすめ。直火は器も熱くなるので、鍋つかみや鍋敷きは必要だそうです。
ーー蓋はどうやって作るんですか?
須藤さん:「まず、試作用の型を作るんですが、今回は3Dプリンターで作りました。普段は、最初に樹脂で型を作って、それから石膏を使って試作用の型を作るんです。失敗したらまた作り直すので、試作のたびにコストは上がるわけです。なので、試作はすり減ってもいいように緩い石膏で作り、本番用は、すり減らないように硬い石膏で作ります。蓋を作ると言っても、案外お金がかかるものなんです。でも、今回は3Dプリンターで試作したので、石膏の型も1発でOKが出ました。3Dプリンターを使うようになったのは10年くらい前ですが、ここ5年ほど、特に活躍しています。」

蓋の裏側には1ミリのくぼみがあります。取っ手を正確につけるための目印なのだそうです。実際には蓋に穴を開ける予定なので、電子レンジで加熱するときは、蓋をしたまま電子レンジにかけられるそうです。
知ってもらうために1種類でシンプルに

ーーお客さんの反応はいかがですか?
須藤さん:「『持ってみると軽い』『こんな便利な器があるなんて知らなかった』という反応が圧倒的ですね。改めて、こうやって知ってもらう機会を、もっとたくさん作っていかなきゃいけないなって感じました。」
ーー今回は、どうしてこの商品だけを持ってこられたんですか?
須藤さん:「他に安い商品をたくさん持ってくれば、売り上げはもっと上がると思います。でも、それよりも、今回は『これを見てもらいたい、これを知ってもらいたい』という一心で来ました。」

ーーみなさんに、どんなことを知ってほしいですか?
須藤さん:「僕たちの商品は、土の原材料の一部を除き、製造工程はすべて日本国内で行っています。つまり、日本の職人さんの知恵と技術が詰まった商品なんです。特に「each」は、どんぶりにしてはかなり薄く作られているため、サイズを小さくする際も単純に縮小するだけでは強度が落ちてしまいます。そこで、陶磁器試験場に蓄積されたデータをもとに、形はほぼ変えず、必要な部分だけ厚みを調整して強度を確保しているんです。こうした細やかな調整ができるのも、日本の職人さんたちが積み重ねてきた技術とデータがあるからこそです。」
ーー陶磁器の試験場はどんなことをするところなんですか?
須藤さん:「陶磁器試験場は、主に陶磁器づくりの技術的な相談に乗ってくれますし、いろんな検査を支えてくれる存在です。うちの場合、鉛が含まれているかどうかといった有鉛検査をしてもらったり、民間にお願いしたら何十万円もかかる検査を、安価で受けられたり、助成を受けられたりすることもあります。また、長年のノウハウが蓄積されているので、『こういうものを作りたい』と相談すれば、いろいろ教えてくれるんです。メーカーだけでなく、商社の僕らにとっても、気軽に相談できるデータバンクのような、すごく大きな存在ですね。」
美濃焼の高単価を実現し、業界の光に

ーー日本製の覚悟店に参加されたきっかけは何だったんですか?
須藤さん:「以前、笏本さんがクラウドファンディングをやられた時に、ネットの勉強会みたいなものがあって、そこで笏本さんを知ったんです。その後、Xでバズったのも知っていました。最初のクラファンは、彼に協力したくて、僕もお客さん側だったんですけど、今回はおんぶにだっこみたいな感じではありますが、少しでも盛り上げられればと思って参加しました。同業者が一人もいなかったので、手を挙げれば参加させていただけるかなという思いもありました。」
ーー今回、どんな覚悟で参加されましたか?
須藤さん:「日本製のものづくりを知ってもらうきっかけになればと思って参加しました。陶磁器って、実はすごく分業制なんですよ。型を作る人がいて、焼く人がいて、僕らのように企画する人がいて……。その間にも、本当にたくさんの職人さんが関わっています。誰か一人欠けても成り立ちません。だから、こうした商品を知ってもらい、買っていただくことが、分業で成り立っている職人さんたちの仕事や生活を守ることにもつながるんです。Xでの発信も、その一つです。普段はなかなか表に出ない、ものづくりの裏側や、そこに関わる職人さんたちの苦労も含めて、少しでも知ってもらえたらと思っています。」
ーーちなみに、この商品を1つ作るために、何人くらい関わっていらっしゃるんでしょうか?
須藤さん:「そうですね。デザイナーさん、陶磁器の試験場の方、試験場に出すためのデータを作ってくれる方、型屋さん、型屋さんにデータを送ってくれる方、窯元さん。窯元さんも担当者と社長がいますからね……。ざっくり言っても、この形になるまでに8~9人は関わっていると思いますよ。」

ーーこれから目指していることや、将来に向けて何か考えていることがあれば教えてください。
須藤さん:「美濃焼は、安価なものから人間国宝の陶芸家まで、幅広いものづくりを担う人たちが1つの産地に集まる、多様性を持った特殊な産地だと思っています。だから、うちのような小さな会社でも、こうした取り組みを定期的に続けていくことが、美濃焼ならではのものづくりの多様性を支えることにつながると思うんです。一方で今、美濃焼は、後継者不足が非常に大きな問題になっています。僕と同世代の人の中には『自分の代で辞める』と考えている人も多いんです。」
ーーそれはどうしてでしょうか?
須藤さん:「利益を確保できていなかったことが問題です。利益を確保しようという会社は残って、そうでない会社は後継者不在になっています。だからこそ、『これだけのものを作れば、これだけの人が買ってくれる』という実績を作って、窯元さんに報告することによって、『弱気にならず、もっと値付けをしてもいいんだ』と思ってもらいたいんです。低単価から高単価へスライドしていくためには、言われた通りの値段で作っているようでは後を継いでくれる人もいなくなっちゃうんでね。僕たちの取り組みが、少しでも業界の光になって、そんな状況を打破できればいいなと思っています。」
有限会社カネ忠
暮らしのうつわやさん(楽天)
https://www.rakuten.co.jp/auc-utsuwayasan/
編集後記
今回ご紹介した株式会社ズームと有限会社カネ忠は、立ち上げた新ブランドを、より多くの人に知ってもらいたいと挑戦する企業でした。ズームの加々村さんは、日本製のTシャツに「機能性」という付加価値を加え、新ブランド「ICHORA+」を立ち上げました。SNSの発信にも力を入れ、500人ほどだったXのフォロワー数は、イベント終了後、一気に約22,000人に増え、現在は約26,000人(2026年8月現在)もいます。一方、カネ忠の須藤さんは、直火、電子レンジ、オーブンもOKという美濃焼の陶磁器「each」シリーズを開発。バラバラな時間帯で食事をすることになっても、簡単に出来立てを食べられる器を届けました。その背景には、製造に関わる職人さんたちが適正な価格で仕事を続けられるようにしたいという思いもありました。知る人が増え、ファンが増え、購入して使ってもらう。そして、使った人がまた誰かに伝える。その循環が生まれることで、作り手の仕事は未来へつながっていくのだと思いました。
「日本製の覚悟店」で出会った16社。それぞれの「覚悟」の先には、作り続けたい、伝え続けたい、そして次の世代へつなげたいという思いがありました。記事を書くことは、その思いを知ってもらうために、ものづくり新聞ができる応援の一つ。今回の記事が、日本のものづくりを知るきっかけとなり、その未来を応援する一助になればうれしく思います。
ものづくり新聞 記者 小柴寿美子
作っただけでは、届かない。知ってもらって未来が動く/笏本縫製・TOSCOM-日本製の覚悟店①


ICHORA+の白いTシャツは、9,900円(税込)。ICHORAの青、黒、グレーのTシャツは、綿65%、和紙糸35%で作った日本製の覚悟店限定品、8,800円(税込)。和紙糸は軽量性と消臭性に優れ、涼しくサラッと着られるそうです。なんと、初日で完売でした!(価格はすべて取材時2026年7月のもの)
コーヒー染めのTシャツは、大のコーヒー好きという加々村さんが考案したもの。コーヒーの出がらしで何かできないかと考え、そこから染料を抽出し染めました。大好きなブラックコーヒー色に仕上げています。襟ぐりにデザインされた「ー」は「カンヌキ」印。ブランド名の「ICHORA=一張羅」と数量限定という意味の「一期一会」が込められた目印です。
eachシリーズは、料理が冷めにくく、しばらく温かい状態で食べ続けられるのが特徴です。また、薄く作られているので、直火にかける際は、中火以下で使用することがおすすめ。直火は器も熱くなるので、鍋つかみや鍋敷きは必要だそうです。