ヒトを訪ねて

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2023.06

ネジ好き新人が順送金型パーツ製造に挑む新人研修:株式会社キョーワハーツ

2023年06月15日 公開

 

一般的に、中小製造業に新卒で入社した場合、どのような研修があるのでしょうか? 今回は、神奈川県横浜市にある順送金型設計・製造・部品加工メーカーの株式会社キョーワハーツで、新卒研修の内容に迫っていきたいと思います。 キョーワハーツは小型微細な「板バネ」の加工を得意としており、これは私たちの身の回りでもよく使われている、パソコンやコネクターなどのスイッチ・ボタン・ガタ防止・抜け止めと いった用途で使われています。身近にあるオモチャ類を分解するといくつか出てくるのでは ないかというくらい、使用頻度の高いパーツです。

 板バネは「順送金型」と呼ばれる機械で製造します。キョーワハーツはこの「順送金型」を設計製造し、さらにその金型を使って板バネなどの部品も作っています。主な業務内容は「金型設計製造」と「部品製造」の2つに分かれるということになります。

どうしても機械に触りたかった新卒1年目の女性社員にインタビュー!

 今回、新卒でキョーワハーツさんに入社してちょうど1年になる、菊地ゆずさんに新人研修についてお聞きしました。

ーー自己紹介をお願いします。

菊地さん:音楽が大好きで、つい最近まではオリジナル楽曲を作ってガールズバンドでライブをしていました。小学生の時にギターを始め、中学生ごろから本格的に音楽活動を始めました。バンドではドラムを担当しています。

*提供:菊地ゆずさん 

ーー好きなアーティストがいれば教えてください。

 菊地さん:Hamp Back(ハンプバック)さんです。

ーー 存じ上げずすみません……。実は私も社会人になってからバンドでドラムをやっていました。ちなみに、私はビートルズやエリック・クラプトンのコピーでした。

*世代は違えど同じ「ドラマー」という菊地さんと編集長 

ーー学校から入社までの経緯を教えてください。

菊地さん:工業高校で化学を学んでいました。もともと機械がやりたいなと思っていたのですが、図面を書いたりとかそういう作業があまり得意ではなかったので、化学のほうが向いてるんじゃないかと思って3年間化学を学びました。

ーーでも結局、機械関係の会社に入社したのですね。

菊地さん:そうですね。どうしても機械に触りたいというのがありまして、就職活動の時期に求人票を見た会社が今の会社(キョーワハーツ)でした。家からもそんなに遠くない、勤務時間もいい、そういったいろいろな条件全部がピッタリあっていて、「ココいいな!」と思いました。

 ーーそれで応募したのですか?

菊地さん:まずは会社見学に伺いました。工場を見せていただいて、「最高だな!」と思いました。そしてこちらに決めました。

ーー工場見学含めて何が一番いいと感じた点でしたか?

菊地さん:アットホームな雰囲気です。見学のときもすごく緊張していて、本当にちゃんと質問できるかな、メモちゃんと取れるかな、など不安がいっぱいだったのですが、みなさんフレンドリーに話しかけてくださって、一気に緊張が解けました。

ーーしかし、どうして機械なんですか?小さい頃からお好きだったのですか?

菊地さん:ネジとかそういうのが好きなんです。あちこちによくネジとかボルトとか落ちているじゃないですか?

ーーいえ、あまり落ちていない気もしますが……。

*冷静な編集長の返しに爆笑する菊地さん 

菊地さん:(笑)家には落ちていないんですけど、道路の脇とか工事してる脇とかに結構いろいろなものが落ちていたんです。それをちょっと家に持ち帰っていじってみたりとか、そういうのが好きでした。

ーー面白いご趣味ですね(笑)

入社直後、いきなりの現場研修:前半3ヶ月

 ーー入社後、どのような研修を受けたのか教えてください。

菊地さん:OJTの研修を6ヶ月受けました。研修は「製造グループ」と「技術グループ」に分かれており、それぞれ3ヶ月ずつ受けることになっていました。

ーー2つのグループの違いを教えてください。

菊地さん:順送金型を使ってプレス製品を製造するのが「製造グループ」、順送金型自体の設計製造が「技術グループ」です。

ーー最初は「製造グループ」だったのですか?

菊地さん:はい、入社してすぐ4月2日か3日には製造グループの研修を開始していました。

ーー座学などはなく、いきなり現場ですか?

菊地さん:いきなり現場でした。もちろんマニュアルもあるので、それを読みながらの作業です。現場で教えてもらいながら一生懸命メモを取っていたのですが、最初は情報量に頭が追いつかなくて大変でした。

 ーー研修とはいえ、力仕事もありますよね?

 菊地さん:金型は結構重いですね。ネジの締結もきつく締める必要があり、その力加減や体の使い方が慣れていないので筋肉痛になったりしました。たまに手をぶつけたりすることもありました。

 ーー大変でしたね。

 菊地さん:でも、少しずつ、あまり力を使わなくていい作業から順番に教えてもらいました。センサーをつける作業や、棚から部品を持ってくるなど、だんだんとひと通りの「段取り」をやっていけるようになりました。

 ーー「段取り」というのはどういった作業なんですか?

 菊地さん:金型を棚から持ってきて、プレス機に上と下の型を固定して、調整した上で実際に製造してみて検査をして、製品として打てる状態にするという作業です。

 ーーこの「段取り」が一人でできるようになるまで研修するのですね。

 菊地さん:はい、そうです。3ヶ月後には先輩に見ていてもらえれば、一人でできるくらいになりました。

 ーーこの研修は実際のお仕事の製品を担当するんですか?

 菊地さん:そうです。お客様にお納めするものを担当しています。 

繊細な研磨作業などを研修: 後半3ヶ月

 ーー「製造グループ」での3ヶ月の研修が終了したら、続いて「技術グループ」の研修に入るのですか?

 菊地さん:はい、3ヶ月後に「技術グループ」に移り、研修が続きました。「製造グループ」とは全く違う作業でした。最初は研磨機で部品を磨く練習をするのですが、見た感じでは意外にできそうと思っていました。でも、すごく繊細な加工なので、さすがに最初は練習用の部品で練習しました。研修の終盤には、生産が終了した金型を持ってきて、自分でメンテナンスするところまでやらせてもらえるようになりました。

 ーーメンテナンスというのは金型を修理するということですか? 

菊地さん:生産が終了した金型は表面がカサカサしていたり、一部欠けていたりしているので、その部品を交換したり、平らに綺麗に研磨したりして、元通り順調に製品を打てるようにする作業です。

ーー部品加工や設計なども研修するのですか?

菊地さん:ワイヤーカットや3次元CADも触らせてもらいました。そういった研修のうちにあっという間に3ヶ月が経過しました。

ーーこれで6ヶ月の研修が終了したということですね。

菊地さん:6ヶ月の間、先輩の作業を見ながらずっとメモを取っていたので、あっという間に時間が過ぎていきましたね。

ーーOJT以外に外部研修にも参加されたとお聞きしました。

菊地さん:製造業に限らずいろいろな会社の新入社員が集まる研修に参加しました。100人くらいが神奈川周辺から集まっていたように思います。社会人マナーやチーム研修など、1年間を通して1ヶ月1回程度のペースで参加しました。

ーー他の会社の新人の皆さんと一緒になるのも楽しそうです。

菊地さん:同学年の人が多かったので、なんだか高校生に戻った感じでした。ファシリテーターという先輩の方がまとめてくださるのですが、みんなで笑い合って楽しかったです!

次は自分が先輩に

 ーー1年が経過しました。これからはどういうふうになっていきたいと思いますか?

 菊地さん:4月に後輩が入社しました。今度は自分が教える立場になります。自分が一番新人の気持ちが分かるところにいると思います。自分が学んでいて分かりづらかったところを教えてあげられるようになりたいと思っています。

 ーー目指していることはありますか?

 菊地さん:特にちゃんとは考えられていませんが、着実にスキルアップしていって、綺麗な製品が作れるようになったり、何かトラブルがあったときにすぐ対処ができるようになりたいと思っています。

 ーーバンドは、復活しないのですか?

 菊地さん:また復活させたいです!バンドを組んでライブをやりたいと思います。

「絶妙だった」 初めての新人研修を終えて

今回、菊地さんの新人研修を検討したのは、取締役の坂本留実さん(写真右)と製造グループの山野井友輝さん(写真左)です。

ーー今回、新人教育のメニューを初めて検討されたとお聞きしました。

坂本さん:弊社はここ最近中途入社が中心でやってきていました。新卒を採用するのは初めてでした。

ーーそこで新人研修を検討されたのですね。

坂本さん:ビジネスマナーなどは社内でも教えられますが、しっかりはできないと思いました。そこで外部の研修には行ってもらいたいと考えて申し込みをしました。

ーー3ヶ月+3ヶ月の合計6ヶ月のOJTというのはどういう経緯で決めたのですか?

坂本さん:おおよそ半年くらい経てばキャラクターなども見えてくるだろうと考えて、研修期間はまずは半年程度だと考えていました。各担当を1ヶ月ごとにという選択肢もあったかもしれないのですが、あまり短くても表面しか教えられないだろうということで、弊社の大きなグループ2つを3ヶ月ごとに研修してもらうスタイルにしました。

 ーー現場でのOJTではありますが、「研修」として実施された背景には何かありましたか?

坂本さん:「研修期間」とはっきり言うことで、新人に意識的に学んでほしいという考えもありました。逆に教える側の社員も「この人は研修期間だから」という理解もすると思いました。また、この時点で配属は決めていませんでした。配属してしまうとその業務だけをずっと覚えることになりますが、研修期間ということにすれば、特定業務だけではなく、他の業務も広く学ぶことができます。

 ーー研修のために準備されたことはありますか?

 山野井さん:日報という形で、朝礼のときに使っている冊子があります。今日の振り返りとか目標を書く冊子です。社内で既に使っているものなのですが、今回の研修にあたっては、この日報を活用して毎日先輩にチェックしてもらい、週に1回私たちのもとに届けてもらうようにしました。

 ーー初めての新人研修ということで迷われたり困ったことはありませんでしたか?

山野井さん:社会人経験のない人に教えるということで、どういうふうに指導したり接すればいいのか、というのはありました。実際に入社するまで考えましたが、何かできることもあまりなく、そのまま突入した感じです。ただ、以前に大学生のインターンを受け入れたことはありましたのでなんとなくイメージはありました。

ーーそして実際現場に新人が来てみてどうでしたか?

山野井さん:たとえば、「センサーをつけてみて」というように、一つずつ説明して一つずつ教えていきました。実際に本番の金型を段取りしますので本当に目が離せません。金型を壊すなどの品質問題を出すわけにはいきませんからね。

 ーー時間はかかってしまいますよね?

 山野井さん:はい、研修しながら進めると時間はかかります。事前にその点は織り込んでいました。時間をとって研修しながらも、大きく遅延しないように進めていました。

 ーー山野井さんの目から見て、新人は段取りできるようになりましたか?

 山野井さん:2ヶ月くらいのところで、段取りの作業はある程度任せられるようになりました。私の想定よりは早かったです。

 ーーマニュアルも役に立ったのでしょうか?

 山野井さん:マニュアルはあるのですが、新人向けではないといいますか、言葉が難しい部分があり、それをベースに教えつつも、現場ではメモを取ってもらっていました。そのメモを見れば一人でできるようになることを目標にしていました。

 ーー段取り作業はさまざまな作業から成り立っているのですよね?

 山野井さん:そうです。いきなり1から10まで順を追って覚える事も難しいため、それぞれの作業を少しずつ覚えてもらうことで、2ヶ月後には点が線につながる、みたいな感覚だと思います。

 ーー3ヶ月という期間はどうでしたか?

 坂本さん:結果として3ヶ月は絶妙だったのかなと思っています。それ以上長いと現場が戦力にしたくなってしまうので、その前に研修が終わるのが良かった気がします。

 ーー研修が終わった後、配属はどのように決められたのですか?

 坂本さん:本人と面談をし、意向を聞きました。先輩の意見も聞きました。結果、会社の方針もあり、製造グループに配属しました。会社としては製造の方を充実させることが優先という判断もありました。

 ーー本人はどのような意向だったのですか?

 坂本さん:どっちもやってみたいと話していました。

 ーー配属された後の様子はいかがですか?

 山野井さん:研修期間中はまだ学生気分もあったかもしれないのですが、本配属になってからは、与えられた業務をどうすれば思い通りに進められるのかを考えて行動してくれるようになりました。自分たちの意見もこちらに伝えてくれるようになりました。

 ーー今回の研修をやってみていかがでしたか?

 山野井さん:私はよかったと思います。

坂本さん:私もよかったと思います。現場のみなさんは大変だったと思いますが(笑)

 

編集後記

新人研修を企画し、そして実際にその研修を1年間経験したみなさんのお話を両方の立場からお聞きすることができました。取締役の坂本さんは、今後も研修をブラッシュアップしながら、次の新人にバトンタッチしていくと語っておられました。

 これを読んでいる読者の皆さんも、中小製造業の新人研修の中身を細かく聞く機会はなかなかないのではないでしょうか?もっとこのような内容を共有し、製造業の扉を叩く新しい若い人たちにどのように研修していったらいいのか、皆さんで考えたいなと思いました。

(ものづくり新聞 編集長 伊藤)

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