産地を訪ねて

25

2025.12

植物の顔料化!フランスのアーティストも学びたい日本の染色技法~奥京都/非営利団体「タンクトリア」 【前編】

2025年12月26日 公開

2025年11月11日~26日までの約2週間、草木染めに特化したプロ向けのワークショップが京都で行われました。内容は、植物が持つ色素を顔料(がんりょう)として抽出し、その顔料で型染めを行い、その染めた生地で羽織の片袖を縫い、和裁の技術まで学ぶというもの。参加者は全員フランス語圏からやってきた人たち。しかも、服飾系のデザイナーやアーティストなど、フランス政府公認で芸術を職業にしているプロフェッショナルな人たちばかりです。

提供:フランスの非営利団体「タンクトリア」

フランスでは、「アーティスト」に対する助成金制度が充実していて、その助成金を利用して参加している人が多いそうです。参加者の中には研修費の全てを国からの援助で参加している人もいるのだとか。今回は、その研修の中から、植物から顔料を作る2日間のワークショップに密着させていただきました!まずは初日の様子をご紹介します。

 

研修先は奥京都!「美し山の草木舎」

京都駅から電車とバスを乗り継いで約2時間。京都の北部、奥京都の中でも「森の京都」と呼ばれる京都府南丹市美山町(なんたんし みやまちょう)にやって来ました。初日は(取材時:2025年11月17日)澄み切った青空の下、色づき始めた紅葉が良く映える良い天気でした。

研修先となる野草専門の工房「美し山の草木舎(そうもくしゃ)」にやって来ました。草木舎は、畑で育てた薬草で野草茶を製造、販売している他、草木染めやつる籠編みのワークショップなども行っています。

出迎えてくださったのは、今回のワークショップで講師を務める草木舎のみなさんです。写真下の右から、代表の渡部 康子(わたべ やすこ)さん。スタッフの平岩 歩海(ひらいわ あゆみ)さん。小川 靖絵(おがわ やすえ)さんです。

2日間に渡って、植物の顔料化について教えていただきます。ここでいう「顔料」とは、植物を煮出して得る天然の固形色素のこと。植物の顔料化を学べるワークショップを行っているところは、日本でも珍しいそうです。草木舎では、赤、黄色、青の3原色の顔料作りを学ぶことができます。今回は、赤と黄色の2種類に挑戦!赤は日本茜から、黄色はコブナグサというイネ科の植物から抽出します。

主催はフランスの非営利団体「タンクトリア」

この研修を主催しているのは、フランスで活動している非営利団体「タンクトリア」です。タンクトリア(Tinctoria)とは、ラテン語で「染色用の」という意味。2018年、フランスの染色仲間と日本に旅行した際、「有松絞り」を体験し、その素晴らしさを実感。天然由来の染色技法にこだわった研修を企画・実施しようと思った矢先、2019年の末から世界はコロナ禍へ突入。タンクトリアの発足はちょうどその頃でした。4年間日本に行くことが出来なかったため、2023年から活動を再開したばかり。日本での研修は、今回で6回目になるそうです。

※「有松絞り」は、愛知県名古屋市の有松・鳴海地域で作られる伝統的な絞り染めの技法。江戸時代から続く美しい模様が特徴です。

渡部さんの隣でフランス語の通訳をしているのは、タンクトリアで研修の企画、通訳を担当している、杉浦晴美(すぎうら はるみ)さんです。杉浦さんは、日本で行う草木染め研修の代表も務めています。タンクトリアのこだわりは、単なる体験型のワークショップではなく、日本の草木染めの専門家による本格的な研修内容にすること。開催する場所も、その職人さんの仕事場で行えるよう交渉しています。その環境でしか学べないことあるからです。毎回異なるテーマを設定し、フランスから参加するプロたちがリピートしたくなるようなプログラムを心がけています。

ーー美し山の草木舎さんを知ったきっかけは何だったんですか?

杉浦さん:「偶然なんですよ。ここから10分くらいのところに『美山かやぶきの里』っていうところがあるんですけど、そこにある『ちいさな藍美術館』に行くことが目的で美山に来ていました。そのかやぶきの里の土産物ショップで、草木舎さんの野草茶を見つけたんです。草木舎って草木だし、草木染めもやっているのかな?と思って、すぐにインターネットで調べてみたら、『日本茜を育てています』と書いてあって…。今行くしかないと思って、急に全くのアポなしで訪ねました。それが出会いですね。2023年の12月でした。」

ーー研修には何人参加していらっしゃるんですか?

杉浦さん:「今回はすごく申し込みが多くて、20人もいたので2グループに分けてきました。1回目のグループは、先月(取材時:2025年11月)終わったばかりで、今回が2回目で12人参加しています。専門的な染色家も多いですし、何かクリエイティブな仕事をして、それで生計を立てているプロフェッショナルな方が多い印象です。」

 タンクトリアのみなさん。左から大和田里佳(おおわだ りか)さん。代表のマリアンヌ・オブリーさん。杉浦晴美さん。鈴木将弘(すずき まさひろ)さん。

実は珍しい!日本茜の栽培

早速、畑に移動し、今回の材料の一つになる「日本茜」の生育について学ぶことからスタート!

平岩さん:「これは春に植えた日本茜です。西洋茜と日本茜の違いは、節から出ている葉っぱを見るとわかります。西洋茜は6枚、日本茜は4枚です。

日本茜は、万葉集でも「茜さす」と詠まれるくらい、古くから草木染めの原料や薬草として使われてきたつる性の植物です。その根を煮出すことで、染料になる茜色を抽出することが出来ます。

平岩さん:「日本茜は野草なんですが、繊細で、収穫するまでが本当に大変です。25度~30度の間じゃないと育たないんです。温度が低すぎても高すぎてもダメ。大切に育ててあげなくちゃいけないから、日本茜は『野草の中のお姫様だな』って思います。

現在、日本国内で流通している茜は、主に「インド茜」や「西洋茜」といった海外産です。日本茜自体は、東北から九州の山野に自生しているため、国内で生産しているところはあるものの、染物の原料として流通させているのは草木舎だけ。そんな草木舎も10年ほど前までは手探り状態でした。なぜなら、日本茜の生育に関する資料がなかったからです。

日本茜復活プロジェクト物語

研修の中、美し山の草木舎の代表、渡部さんから、日本茜の歴史や栽培に至った経緯についてのお話がありました。

渡部さん:「正倉院という7世紀頃の蔵が奈良に残っていますが、そこにも日本茜で染められたものは多く残っています。茜で染めたものを税金として納めることが義務付けられていたからです。そのことからも、日本茜は日本全国にあり、日本を代表する赤は、紅花ではなく、日本茜であったことがわかると思います。」

 古くから行われて来た日本の茜染めの技術は、室町時代に一度途絶えてしまったそうです。

渡部さん:「日本には非常に高度な染めの技術があったにも関わらず、そのほとんどを失ってしまいました。化学染料が入って来たり、もっと染めやすい西洋茜やインド茜、周防(すおう)が入って来たりしたため、一度、日本の茜染めは途絶えてしまったのです。一度失ってしまった技術を復活することはとても大変です。私たちはどうやって日本茜を育てたらいいのかもわからなかったし、どうやって染めたらいいのかもわかりませんでした。失敗しながら10年かけてようやく日本茜を育て、量産できるようになったんです。」

奈良の正倉院に残る日本茜で染めた着物。他の草木染めは色あせてしまったものが多い中、茜染めは、1000年以上の時を経てもなお、色鮮やかな姿で残っています。

渡部さん:「私たちが日本茜を栽培するようになったきっかけは、獣害でした。何も伝統工芸を助けようと思ってやったわけではありません。どんな野菜やフルーツを作っても、食べごろになると、猿や熊、アナグマ、狸とかが来て、みんな取られてしまいます。獣たちに強いものは何かと考えて生産を始めたのが野草茶であり、日本茜だったのです。」

日本茜の種を初めて植えたのは2014年。その後、試行錯誤を繰り返し、畑で量産できるようになったのは2017年のことでした。

渡部さん:「『日本茜の栽培に成功』というような新聞記事が出ると、その記事を見た伝統工芸の人が、私たちを訪ねてくるようになりました。お話を伺うと、私たちが直面している農業の現状とまったく同じであることがわかりました。どんどん人が辞めていくし、道具を作る人もいない。漆も布も糸も中国、みんな海外に頼っている現状です。」

日本茜を用いた京友禅の生地。オレンジ色に染まっている部分が日本茜で染めたところ。

渡部さん:「人間国宝と呼ばれている先生たちでさえ、技はそのままですが、復元する時には化学染料で復元しています。それが博物館や美術館に収められている現状です。先生方も本当は化学染料ではなくて、植物の染料や顔料で作品を作りたい。だけど、それをするには、その時期に大量に植物が必要です。私たちは農家ですから、植物はたくさんある。そこで、私たちは伝統工芸の方々と手を結び、『日本茜復活プロジェクト』を立ち上げました。草木染めの職人さんは努力をして、金色に近い黄色から赤までの色を出せるようになったり、それを織って作品を作るようになったりしました。2年前(取材時:2025年11月)からは『顔料化』という新しい取り組みに、若い顔料ガールズたちがトライしてくれています。彼女たちが頑張ってくれたおかげで、とてもできないと思っていた顔料も取れるようになりました。」

フランス語圏の参加者:「ヨーロッパでも日本と同じように化学染料が入って来て、草木の色が失われてきたという同じような歴史がありました。その現状と戦いながら、失われたけど頑張ろうということでやっているから、みなさんが頑張っていることが凄くわかって、心にグッときました。勇気づけられました。このお話だけでも、日本に来た意味、草木舎に来た意味があります。」

日本茜の顔料化ワークショップ初日!

草木舎が日本茜を育て始めたのは2014年。春に種を植えても発芽しない年が続きました。そこで、冬に育苗箱に種を撒いてみたところ、春に発芽!種を植えてから、一度雪に覆われることが発芽する条件だと気づきます。また、雪解け後は、土の中の温度を25度に温めることで8割発芽することもわかりました。発芽させた苗を小さなポットに植え替え、十分に成長してから畑に植え替える方法で量産できるようになったのは2017年のこと。その後、染料が良く出る根っこに育つまでは、2年かかることもわかりました。

いよいよ、2年かけて育てた日本茜を掘り起こします。収穫用フォークを使って日本茜の周りの土をほぐし、根っこを丁寧に採取します。

掘り起こすときは手作業です。日本茜の株が取れました!

丁寧に土を落とすと、赤い根っこが顔を出しました。少し細めだそうです。いつもは12月に掘り起こしているので、今回は時期が早いからだろうとおっしゃっていました。太ければ太いほど、色がよく出るのだそうです。

平岩さん:「天然の日本茜は、お茶の木の下に生えます。茜はつる性の植物だから、お茶の木に絡まりながら育つのが好きみたいです。そのお茶の木を守るために、この地域では柿の木を植えるんです。生活に必要なものって、不思議と昔からそういう風になっているんですよね。」

参加者の皆さんは、少しでも多くの染料を得るため、貴重な日本茜の根を1本も残さぬよう、丁寧に採取していらっしゃいました。

フランス語圏の参加者:「私たちの地域(フランス)には西洋茜がありますが、雨はあまり降りません。水やりをまったくしないです。」

平岩さん:「強いですね!自生の場合はそうかもしれないけれど、畑に植えた場合、水を上げないと枯れちゃうから、扱いが非常に難しいんです。」

平岩さん:「ここの裏山の奥に滝跡があるんですけど、普段、滝の姿はなく、雨の日だけ現れるんです。それだけ、ここは水が豊かな風土なんです。そういう場所、茜ちゃんは大好きです!染色をする際は、水が大事です。水で色が変わります。この美山という地域は、水が凄く綺麗です。『ここで染めると鮮やかな色になる。ここでしか出せない色だ。』って、染めの先生がおっしゃっていました。

 根を掘り起こした後は、煮る前の下準備です。根を洗い、5mm幅に短く切ります。

根に勢いよく水をかけ、土を落とします。洗い終わったものから、根っこと茎を選別します。なぜなら、茎はピンク色に染まるため、赤が薄くなってしまうからです。より濃い赤を抽出したいので、根っこのみを使用します。

選別した根を、剪定ハサミを使い、約5mm幅にカットします。

フランス語圏の参加者:「なぜ機械を使わず手作業なんですか?」

平岩さん:「本当は面倒だから、ブレンダーなどを使って細かくする方が楽ですけど、細かすぎると、色が濁るんですよ。京都の赤は透明感が大事だから、この方法が一番いいんです。

5mm幅にカットすることは、「透明感のある赤」を抽出するための秘訣だったんですね。カットした根っこは、3回ほど水を変えながら、一晩水に漬けておきます。これは、より赤い顔料を抽出するための工夫です。

日本茜の根っこには、「プルプリン」という水に溶けにくい赤い色素と、「ムンジスチン」という水に溶けやすい黄色い色素が含まれています。ムンジスチンは水に溶けやすい性質があるため、一晩水に漬けることで、水に溶け出します。そうすると、根っこには赤いプルプリンの成分だけが残るため、より赤い顔料に仕上がるのだそうです。

 初日終了!みなさんいい笑顔!お疲れ様でした。

タンクトリア https://tinctoriavoyage.com

タンクトリアInstagram https://www.instagram.com/tinctoria.voyage/

美し山の草木舎 https://soumokutya.jimdofree.com/

日本茜伝承プロジェクト https://project.nippon-akane.com/

植物の顔料化は一体どうなるのか。そして、フランスの参加者たちの感想は?タンクトリアが行う草木染めに特化した日本での研修について、その思いを【後編】でご紹介します。

<この記事を読んだ方におススメの記事>

植物の顔料化!日本でしか味わえない経験は投資になる~奥京都/非営利団体タンクトリア 【後編】

藍が宿る。循環型の染色技法/藍染工房「壺草苑」

五日市に伝わる幻の絹織物「黒八丈」復活物語/糸工房「森」

心を突き動かす藍の美しさ。徳島県に移住し、藍の栽培から藍染めまで一貫して手がけるWatanabe’sの藍師・染師の物語。

日本の生糸 最後の砦「碓氷製糸株式会社」

記事をシェア