産地を訪ねて

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2025.12

植物の顔料化!日本でしか味わえない経験は投資になる~奥京都/非営利団体「タンクトリア」 【後編】

2025年12月26日 公開

フランスには「アーティスト」と呼ばれ、政府公認で芸術を職業にしているプロフェッショナルな人たちがいます。その「アーティスト」の活動を支援するため、フランスでは、独自の法律や助成金制度が充実していて、アーティストたちの芸術活動を支えています。今回は、そんなフランスで、染色に関するプロ向けのワークショップを企画・実施しているフランスの非営利団体「タンクトリア」の活動についてご紹介しています。

【前編】では、2025年11月17日と18日の2日間、京都で行われた植物色素の顔料(がんりょう)化ワークショップ、初日の様子をご紹介しました。【後編】はその2日目の様子をご紹介します。

植物の顔料化ワークショップ2日目!

いよいよ、日本茜から抽出した色素を顔料化します。この日は、昨日の晴天とはうってかわり、どんよりした曇り空。時折雨も降る寒い冬の一日となりました。研修先は、京都府南丹市美山町(なんたんし みやまちょう)にある野草専門の工房「美し山の草木舎(そうもくしゃ)」。講師は草木舎のスタッフ、平岩 歩海(ひらいわ あゆみ)さん(写真下:左)と小川 靖絵(おがわ やすえ)さん(写真下:右)です。

ワークショップに参加している人たちは、服飾系のデザイナーやアーティストなど、フランスで芸術を職業にしている人たちばかり。草木舎では、イタリアやニュージーランド、アメリカなど、個人的に草木舎を訪ねてきた外国人はいたそうですが、フランスからの団体を受け入れるのは初めてだそうです。通訳は、フランスの非営利団体タンクトリアの企画メンバーで、主に杉浦晴美(すぎうら はるみ)さん(写真下:左)が担当しています。

短く切って一晩水に浸しておいた日本茜の根をザルや網杓子で救い上げ、寸胴鍋に入れます。

平岩さん:「日本では『お米一粒』に神様が宿っていると言われています。同じように『茜ひとかけら』ももったいない。残さないようにしてくださいね。」

参加者の皆さんは、平岩さんの声掛けに応え、茜の根っこ、ひとかけらも残さないよう、丁寧に拾い上げ、寸胴鍋に入れていました。

寸胴鍋に入れた後は、日本茜がひたひたになるまで新たに水を入れて煮ます。計量せず、目分量で作業することについて、フランスの皆さんは驚いていました。

煮る時は、温度が70度を超えないよう温度計でチェック。グツグツ煮てしまうと、日本茜の色が濁ってしまうのだそうです。70度前後になった状態をキープしながら、約1時間、煮出します。

平岩さん:「茜ちゃんの赤は『プルプリン』という成分です。プルプリンは頑固で中々出てきません。綺麗な茜の色を出してあげたいから、時間をかけてゆっくり煮るんです。焦ると濁ってしまいます。

※プルプリン(Purpurin)とは、主にアカネ科の植物の根から抽出される、赤色〜橙色の天然染料に含まれる色素成分の一つ。

平岩さん:「草木染の場合、煮る時間は大事かもしれないですけれど、顔料を作るとき、私たちは煮出した色を見て判断します。その時の季節や天気など、その環境によって出てくる色が変わるので、それを見ながら、その色を出してあげる。きょうは寒くて雨が降っていますけど、その色を最大限に出せたらいいなと思っています。」

日本茜は、血の巡りを良くする漢方にもなるそうで、みんなで少しずつ試飲させてもらいました。根っこらしく、土っぽい味がしましたが、ちょっぴり甘みもありました。

いい色に仕上がったので、染液だけになるよう、漉していきます。この道具(写真下)は、昔、お米を移すために使っていたものだそうです。これを作れる人は、今はもういないそうで、補修をしながら大切に使っているというお話でした。

平岩さん:「藍染の場合は甕(かめ)の適温があるから夏がいいですけど、日本の草木染の場合は、基本的に冬が一番きれいな色が出ます。体感ですけど、冬の水の冷たさや気候で変わると思うんです。」

いよいよ顔料化です。最初は「化繊の布地」で染液を漉します。シルクや木綿では、それ自体が染まってしまうため、この場合は化繊がいいそうです。漉した染液を媒染(ばいせん)します。媒染とは、染色において色止めや発色を良くするための重要な工程です。普通、染液で染める場合、染液を直接媒染することはありません。染液がもったいないので、染める布地の方を媒染液に浸すからです。顔料化する際の媒染は、ぬるま湯で解いた酢酸アルミニウムを直接染液に入れ、媒染します。酢酸アルミニウムの代わりに椿の灰を使ってもいいそうです。

木の棒でかき回しながらpH(ピーエイチ)の値を3まで下げます。pHを3まで下げ、酸性にすることで、色の発色が良くなるのだそうです。ちなみに、pHとは、液体が酸性やアルカリ性かを表す数値のこと。0から14までの数値で表され、真ん中のpH7が中性、7より小さいと酸性、7より大きいとアルカリ性と判定されます。このpH、かつては「ペーハー」と言いましたが、今は「ピーエイチ」と言うのが主流です。

次に、石灰石をぬるま湯で解き、キッチンペーパーで漉したものを少しずつ加えます。今度はpH8のアルカリ性にします。こうすることで色素が沈殿します。

pHが8以上になってしまうと色が変わってしまい、型染した際にも色が定着しません。そのため、pHは8以上にならないよう、慎重に石灰石を加える必要があります。60度ぐらいの温度を保ちながら作業を行うことも大切です。そうすることで、赤の色素と石灰石が結びつき、その沈殿物が顔料になるのです。

リトマス紙を使い、pHが8になったら、「木綿の生地」で染液を漉します。色々な生地を試したそうですが、顔料が布地の上に一番多く残るのが木綿生地だったそうです。この布地の上に残るトロっとした沈殿物が、日本茜から抽出した天然の顔料です。

乾燥させた粉末の顔料ではなく、とろみのある液体に仕上げるのは、型染めの際、赤色の透明感を失わないため。粉末にしてしまうと、染料としては使えるものの透明感が失われてしまうのだそうです。染料としての植物の顔料化に関するマニュアルはないため、こういったことも、ひとつひとつ、実際に試しながら、その結果を蓄積して得た答えなのだと伺い、努力の賜物だと思いました。

平岩さん:「日本茜の顔料化は、その時に膨大な量の日本茜が必要なので、これを実現できる人はなかなかいません。茜の根っこは1キロ1万円です。6キロだったら6万円。それを顔料にしても、ほんのちょっとしか取れません。それなら染液にした方が、広い範囲で染められます。でも、それだと真っ赤にはなりません。日本茜の顔料化は、本当にすごく貴重なものなんです。みなさんがやっているのは、日本人から見ても凄いことなんですよ。」

日本人の美意識!フランス人と日本人が求める色の違い

平岩さんから説明を受けた後、参加者が実際に行う形で、2染目、3染目と煮出していきました。平岩さんが一番美しいと思うのは、実は、4染目、5染目の色なんだそうです。

杉浦さん:「私はフランスで染色しているからわかるんですけど、フランス人はパワーがある色を求めます。『日本人は求めている色が違うから、色素を抽出するやり方も違うよね』っていうことをフランス人たちが感じています。」

フランスでは、ブレンダーなどの機械を使い材料を攪拌するそうです。例え、濁ったとしても強いパワーのある赤を求める傾向にあるのだとか。

平岩さん:「日本人というより、この『濁らない』というやり方は、京都のやり方です。京都は歴史が古く、都に住むとても高貴な人に沿ったやり方だから、濁りのない『透明感のある赤』が好まれます。しかし、東北の寒い地域はやり方が異なります。東北の日本茜は、臼と杵でついて、ガツンと濁った濃い赤を出します。東北の方の茜染めは、生地を光に透かした時、光を通しにくい性質があるんですけど、京都、都の茜染めは、色が濃く染まった後も光を通します。京都、つまり都のカラーは、いかにクリアに赤を濃くするかを追求しているから、すごく難しいんです。」

その赤はどんな色なのか、草木舎の顔料を使って染めた作品が紹介されました。

平岩さん:「日本茜は何百年、何千年の時を超えても真っ赤です。そんな植物はないですよ。でも、その真っ赤を作るのは本当に難しいです。いい赤を出すには何回も染める。何回も媒染する。あとは時期ですね。秋から冬にかけて採れる生根(なまね)が一番いいと思います。乾燥させると色味がちょっと変わります。それはそれで綺麗ですけどね。京都の職人さんは、何よりも透明感がある濃い赤を求めます。その色を出すには、やっぱり生根が一番いいです。」

参加者の話によると、フランスで染色する際、水は市販のものを買っているのだとか。フランスの水道水では、いい色が出ないからだそうです。それだけ日本は水に恵まれた国であることを実感しました。

草木舎では、植物から抽出した顔料で、型染に使う色の3原色を制作しています。赤は日本茜から、青は藍から、黄色はコブナグサからです。

ーー2日間のワークショップを終えて、いかがでしたか?

平岩さん:「楽しかったです。みなさん、アーティスト畑なので、見るところが全然違いますし、日本の伝統や文化に対してのリスペクトが素晴らしいと思いました。その場を楽しむ力や学ぶ意欲も本当に素晴らしくて、質問の嵐でした!普段、私たち日本人に対してワークショップをやっていますけど、こんなに質問を頂かないんですよ。それに、普段は『媒染とは?』というところから始まりますが、みなさん知識があるから、もう媒染は知っています。私たちも勉強になったし、やりがいもありました。」

フランスからの参加者の声

フランスの参加者の中から3名の方にお話を伺うことができました。

1人目は、フランスで舞台衣装を手掛け、東京のオペラと一緒に仕事をしたこともあるというマリー=ピエール・ベサックさん(写真下)です。去年、タンクトリアが企画した徳島の藍染の研修に参加していて、今回2回目の参加だそうです。

ーータンクトリアの研修はいかがですか?

マリー=ピエールさん:「素晴らしいです。貴重な職人の方々に出会えるので、とても豊かな経験ができます。普通の研修旅行では体験できない、かなり特殊な体験です。参加者たちは、草木染めに熱い情熱のある方ばかりなので、そういった皆さんとの交流も毎回楽しみにしています。」

マリー=ピエールさんが普段制作している作品を見せていただきました。タンクトリアが企画した徳島の藍染研修に参加した後、教わった藍染の方法で舞台衣装を制作したそうです。

ーー日本に来て学びたいと思ったのはどうしてですか?

マリー=ピエールさん:「日本の植物は特殊で、フランスにはない植物があるのが一つです。それから、フランスと日本の共通点として、伝統の技術や工芸を大事にするというのがあります。フランスだと、伝統的な技術を持ちながら革新的なこともやっている企業に「無形文化遺産企業」という認証が与えられます。私は今、その認証がある企業に勤めているので、日本が伝統技術を大切にしているところに尊敬の念があります。そういう日本の伝統的な技法を学べることに、とても価値があると思うし、興味があるから日本に来ました。」

ーー植物の顔料化ワークショップを体験して、どんなことを学びましたか?

マリー=ピエールさん:「顔料化という方法で色素を抽出したことがなかったので、フランスに帰ってから、それを自分でやってみたいです。また、草木舎では、古い道具を大事に修理しながら使っていることを知って、日本の『物を大事にする哲学』を学びました。」

こちらは初参加のエリーズ・アラブさんです(写真下)。普段、シルクスクリーンでプリントするアーティスト活動をしています。今回は、シルクスクリーンのルーツである型染めを学べることや、茜の顔料化にも興味があり、フランス国の助成金制度を利用して参加したそうです。

ーー染色の技術はフランスでも学べると思いますが、日本に来て学ぶ意味はなんでしょう?

エリーズさん:「型染めや茜染めなど、日本でしかできないことを学びたいと思ってきました。世界の端っこと端っこの人たちが草木染めを通して出会い、繋がっていくことに意味があると思います。私は日本の食べ物にも興味があります。」

ーー植物の顔料化では、どんなことが勉強になりましたか?

エリーズさん:「まずは、買いに行くのではなく、家の周りで採れる植物を使って、顔料を作るということが勉強になりました。それに、普通の研究施設みたいに、計量するやり方ではなく、経験と感覚で行うやり方も!感覚でやることは、自分に自信がないとできないから、自分を疑わずに自分を信じるというモノづくりの精神を学びました。」

最後は、同じく初参加のオディル・ブロンシャーさんです(写真下)。オディルさんはオペラやファッションショーなど、劇場の舞台デザインを手掛けていたそうですが、その後、ご自身のアトリエを持ち、5年前から天然素材の染色家として活動しているそうです。

ーーこの研修には、どうして参加しようと思ったのですか?

オディルさん:「草木で作った顔料で色を付けて、作品に仕上げるという今回の研修に興味があったので参加しました。私は主にウールとシルクを扱って、染液を作って染めるすべての工程を一人で行っています。日本のプロフェッショナルたちから学べることをとても楽しみにして来ました。」

ーー顔料作りはどうでしたか?

オディルさん:「フランスでは、全く違う方法でやったことがあります。短時間で濃い色を抽出するやり方です。今回のやり方は初めてでした。フランスと日本では、色に求める感覚が違うので、こんなに時間をかけてじっくり丁寧に色を取るやり方が、とても勉強になりました。また、自分で材料を育てて、それをどうやって何に使うかというところを、ゼロからやっているところも勉強になりました。今回学んだように、草木を育てて、それを採取して、染料して創作するということをぜひフランスでも実践したいと思います。」

日本でしか味わえない体験は投資になる

タンクトリアの杉浦さんに、今回の研修の目的やタンクトリアが研修を企画する上で大切にしていることなどについてお話を伺いました。

杉浦晴美さん。フランス在住歴18年(取材時:2025年11月)。13年前から草木染めを始め、現在は南フランスの都市、マルセイユにて、ご自身のアトリエ「Harumi Textile(ハルミテキスタイル)」を運営。プリーツ(ひだ)加工をテキスタイルに施す「プリサージュ」という技法(写真上・右)で草木染めの作品を制作しています。また、ロリス村にある草木染めセンター「Couleur Garance(クロアー・ガロンス)」を共同で運営。クロアー・ガロンスはフランス語で茜色という意味。(提供:写真右 Harumi Textile)

ーー今回は、植物の顔料化、型染め、和裁と3か所を巡る研修内容と伺っていますが、どうしてこういう組み合わせになったんですか?

杉浦さん:「今回はすごい偶然が重なってできた回なんですよ。まず一つ目は、草木染の草木舎さんとの出会いです。土産物屋で発見した野草茶がきっかけですからね。草木舎の平岩歩海さんからは、顔料を使って型染をしている赤坂武敏(あかさか たけとし)さんという職人さんをご紹介いただきました。そういえば、私がコラボしているフランスのデザイナーが、今京都に住んで型染め職人とコラボしてたよな?と思って、『その赤坂さんって、フランス人とコラボしていますか?』って聞いたら、『してる!』ってなって、繋がりました!」

ーー凄いご縁ですね!

今回の研修では、日本茜だけではなく、コブナグサの顔料化も行いました。

草木舎では三原色の顔料化を行っていて、黄色はコブナグサから、青は藍からの抽出に成功しています。

ーー研修の最後は、和裁なんですよね。

杉浦さん:「京都には、顔料を使った型染め職人さんがいる、伝統的な絞り染めの職人さんもいる。なぜだろう?って考えたときに、やっぱり京都って着物の文化があるからなんですよね。そういう着物から派生しているテキスタイル文化を、何かつなげる形にできないかなと考えて、今回の研修の最後には、和裁を入れました。」

ーー研修先を選ぶときに共通にしていることは何かありますか?

杉浦さん:「私たちは草木染めに絞った研修を行っていますが、共通していることは『これは日本じゃなきゃ学べないよね』っていうことですね。プラス、その技法を扱う職人さんがレアなことです。日本茜はめちゃめちゃレアですけど、今回の型染め職人の赤坂さんも、天然染色で型染めをしている職人さんなので、とても珍しいです。化学染料を使って型染めをする職人さんはたくさんいらっしゃいますが、天然染色はなかなかいません。あとは、その職人さんが持っているフィロソフィー(哲学)が私たちの団体と合うかどうかっていうことで選んでいます。」

ーーそれはどういう哲学、考え方なのでしょうか?

杉浦さん:「フランスからの参加者は、この研修を自分たちの事業に活かしたいと思っている人たちなので、受け入れ側である研修先も、その活動を自分たちのライフワークやミッションとしている意気込みがある方、また、その知見を後継していきたいという意志のある方にお願いしています。今回の草木舎さんは、自然の力を感じ取りながら学び続ける姿勢があり、その継続的な探究心こそがこのプロジェクトを支えていると感じましたし、型染め職人の赤坂さんとも仲が良く、すでにコラボされていたという点でも、進めやすかったです。」

助成金で研修費が実質無料になる人も!

ーーこの研修の運営費用は、どうしているんですか?

杉浦さん:「タンクトリア自体は非営利団体なので、団体としてお金を稼ぐことが目的ではありません。ですが、もちろん運営資金がないと運営ができないですし、草木舎さん、型染め、和裁職人さんなど、先生方に費用をお支払いするわけで、そのお金は必要です。今のところは、参加者さんから頂いていますが、フランスには助成金という制度があるので、参加者の皆さんは、その助成金を利用して参加している人が多いです。プロの事業形態として成り立っている方は、この研修代がゼロになっている人もいます。今回は5人ぐらいいらっしゃいますよ。」

ーーえー!タダですか!ちなみに、今回の研修費はトータルでおいくらでしょうか?

杉浦さん:「研修費、飛行機代、宿代全部合わせて5800ユーロです。利益を取ろうとしたらこの2倍ぐらいの金額になりますね。」

ーー日本円にして986,000円!(1ユーロ約170円、取材時:2025年11月)この中で研修費に対する助成金が出る人もいるというのは、さすが芸術大国フランスですね!フランスでは、長い休みも取りやすいんでしょうか?

杉浦さん:「休みという感覚で来ている人もいるかもしれないですけど、『投資』と思って来ている人もいると思いますよ。自分の事業の一環、研修として来ているわけですからね。趣味で草木染めをする人もいますけど、私たちがプロフェッショナルと呼んでいるのは、その仕事で税金を払っているかどうか。そういう人は研修で教わったことを自分の作品に生かしたり、自分のこれからの活動に生かそうという人なので、助成金をもらえる場合が多いんです。研修先として、日本はすごい人気なんですよ。日本の美学や歴史、文化は、フランス人の考え方や哲学に合っている部分があるし、刺激を与える部分もあるのかなと思います。」

ーー今後、タンクトリアとして目指していることは何ですか?

杉浦さん:「今後は、例えば日本でお世話になった先生方をフランスに呼んで、フランスでもワークショップをしていただいたり、その参加者が研修後、どう事業に活かしているかを発表できる場を作ったり、研修の結果みたいなものを形にできたらいいかなと思っています。」

フランスの「アーティスト」は単なる芸術家ではなく、フランス独自の文化政策と芸術家に対する特別な社会保障制度により、その創作活動が続けられるよう設計されています。2018年にフランスで施行された「プロフェッショナル未来法」により、職業訓練の質を保証する国家認証「Qualiopi(カリオピ)」が誕生。2022年からは、公的資金による研修を受けるにはカリオピ認証が必須になりました。タンクトリアのパートナーである草木染めの研究施設「Coileur・Garance(クロアー・ガロンス)」がカリオピ認証を受けているため、タンクトリアが企画する研修を利用する人は、申請をすれば、その研修費の一部、あるいは全額をフランス国に負担してもらうことが可能だそうです。

草木染で豊かな国際交流を

今回の研修には、タンクトリアの代表、マリアンヌ・オブリーさんも同行していらっしゃいました。マリアンヌさんに、タンクトリアを立ち上げた目的や思いを伺いました。

マリアンヌさんは、フランスのブルターニュ地方にアトリエを構え、草木染めとフェルト制作をするアーティスト。草木染めの中でも絞り染めが得意で、エコプリントの技法を中心にしたワークショップの講師も務めています。

ーータンクトリアを立ち上げることになったきっかけはどんなことだったんですか?

マリアンヌさん:「私たちには、日本の草木染めを学べる旅行をしたいというアイデアがあって、2018年に晴美さんと一緒に有松絞りの旅行に出かけました。そのとき、フランスの5人の染色家も一緒に行ったんです。とても素晴らしい体験だったので、フランスに戻ったとき、もっと多くの人に提案した方がいいと思いました。晴美さんには、もともと『草木染研修旅行』というアイデアがあったので、一緒にやろうということになりました。」

マリアンヌさん:「タンクトリアの目的は、草木染に関する人と人とのつながりを構築することです。毎回違う草木染めの職人さんと出会い、交流を作り、つなげるという熱い思いで開催して来ました。参加者のみなさんも、教えてくださる先生方も毎回違いますし、毎回学ぶことがあります。」

日本茜の実。これを植えて発芽させます。

マリアンヌさん:「以前、西表島の研修旅行に参加したプロのテキスタイルアーティストが、自分のアートプロジェクトのために、もう一度、西表島に行って、自分の作品を作り、フランスで発表するということをやりました。まさにそれがこのタンクトリアでやりたいことでもあるので、これからもそういう人たちが増えて欲しいと思っています。」

マリアンヌさん:「農家さんがいて、染める人がいて、デザインするアーティストがいる。元々、そういう自然と人が中心になったものづくりの仕方がありましたが、科学的に便利になったことで、今は、いろんなことが短縮化されてしまい、自然や人に必ずしも良い方向ではなくなってしまいました。自然の様々な条件があって、一つの色ができていることをみなさんに知って欲しいと思っています。人は植物から色をいただいているのです。草木染めは世界中に共通していて、世界の端と端で、同じ思いを持った人が繋がれるということをとても嬉しく思います。草木染めを通して、国を超えて、みんなが豊かに共存していくことをシェア出来たらいいな思います。」

日本茜で染めたテキスタイル。茜はとても繊細ですが、虫に強く、日光や洗濯にも強いそうで、一度染めると色落ちや色移りがほとんどないそうです。

タンクトリア https://tinctoriavoyage.com

タンクトリアInstagram https://www.instagram.com/tinctoria.voyage/

美し山の草木舎 https://soumokutya.jimdofree.com/

日本茜伝承プロジェクト https://project.nippon-akane.com/

日本茜伝承プロジェクトでは、茜や藍などの草木染めの作品を募集しています。締め切りは2026年1月31日(土)まで。ご興味のある方は、日本茜伝承プロジェクトのHPをご確認ください。

【今回の研修旅行のスケジュール】

 11月11日(火) 日本到着

 12日(水)~14日(金) 京都の型染め作家 赤坂武敏さんのアトリエで型染め

 15日(土) 燈織屋(ひおりや)の和裁師、森島清香(もりしま さやか)さんの着物マップ講座(折り紙)。国の登録有形文化財、中野家住宅にて。

 16日(日) 京都府南丹市美山で大前直子(おおまえ なおこ)さんの藍染工房と新道弘之(しんどう ひろゆき)さんの小さな藍美術館(インディゴミュージアム)を訪問

 17日(月)~18日(火) 美し山の草木舎にて日本茜ワークショップ

 18日(火)は鵜養慶太(うかい けいた)さんによる金継ぎワークショップも

 19日(水)~21日(金)まで 草木舎で作った顔料を使い赤坂さんのアトリエにて型染めの続き

 22日(土) 上賀茂神社で鎧の儀に参加(鎧が美山の茜で染められている)

 23日(日) 自由行動

 24日(月)~25日(火) 燈織屋にて羽織の片袖を縫い付ける和裁ワークショップ

 26日(水) フランスへ帰国

【2026年タンクトリア日本研修旅行決定!】

2026年6月末から7月初めまで、沖縄にて草木染の日本研修旅行の開催を決定。詳細はタンクトリアのHPをご確認ください。

【編集後記】

タンクトリアは旅行代理店ではないため、基本的には現地集合。日本国内では主に公共交通機関を使い、友人を案内するようなスタンスで行っているそうです。また、研修中のお昼ご飯は、研修先のつながりから、その地域で食堂や仕出しをしている地元の方にケータリングをお願いしています。そこには少しでもその地域に貢献し、交流を深めたいという思いがあります。食べ終わった後、フランスの方が率先してお皿を洗っている姿も印象的でした。研修では日本の礼儀、感謝の気持ちを持つといった日本人らしい精神面も伝えているそうです。最近、ものづくり新聞では、海外での販路拡大に取り組む企業の取材も多かったのですが、海外の方が、日本人よりも日本の文化や伝統に興味を持ち、認めてくれる方が多いように思います。インバウンドが単なる観光だけではなく、日本のものづくりというビジネスシーンにも浸透している現実を目の当たりにしました。

ものづくり新聞 小柴寿美子

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