産地を訪ねて
2025年3月19日 公開
大阪・関西万博の開催(2025年4月13日)まで、いよいよ一か月を切りました。(記事公開時点) ものづくり新聞編集部は、奈良県大和高田市にある靴下メーカー、西垣靴下株式会社の靴下が、「2025年大阪・関西万博会場スタッフの公式ユニホーム」に採用され、2025年2月21日、1万足の靴下が大阪・関西万博の会場スタッフへ無償提供されました。

宇宙一靴下大好き社長 西垣和俊さん
万博でも使われる靴下とは一体どんな靴下なのか、製造元である西垣靴下株式会社と販売元である株式会社エコノレッグ、両社の代表取締役社長である西垣和俊(にしがき かずとし)さんにお話を伺いました。
西垣さんは、自ら「宇宙一靴下大好き社長」と名乗り、地元のFM局や自社の公式YouTubeチャンネルに出演していらっしゃいます。

ーー宇宙一靴下大好き社長の公式YouTubeチャンネル、拝見させていただきました。フリーアナウンサーの方と二人で、番組風に靴下の紹介をしていらっしゃって驚きました。
西垣さん:「奈良の大和高田市にFMヤマトというコミュニティラジオ局が2021年に開局しましてね。『靴下ワールド』という靴下の番組を1時間やっているんですよ。番組に出演している二人でYouTube配信もやっています。」
ーーなぜYouTube番組をやろうと思ったんですか?
西垣さん:「うちの靴下は機能性のある靴下なんです。機能性が高いことをちゃんと説明し、お客様が納得した上で靴下を買ってもらいたいんです。例えば、外反母趾(がいはんぼし)に適した靴下は薄地と厚手の2種類あるんですが、お手に取っていただければ、必ず良さに気づいてもらえると思うんです。靴下は1日履くでしょ。だから快適に履いてもらいたい。YouTubeだったら何回も見てもらえますので、メインの商品からどんどん説明していこうと始めました。」
※外反母趾の靴下が気になる方は下記の公式YouTubeチャンネルをチェック!
工場で働く人と一緒に作った「疲れしらずのくつした」が進化

ーー今回、大阪・関西万博のサプライヤーとして、会場スタッフの公式ユニフォーム用に1万足の靴下を寄付されたと伺いました。こちら(写真上)が、その靴下でしょうか?
西垣さん:「はい、これが万博に寄付した靴下です。東大阪の18社の工場と一緒に作った『疲れしらずのくつした』が元になっています。当時(2016年)、業種や地域を超えた連携で新しいものづくりをしようというセミナーが行われたんですが、そこに参加したうちの社員が『うちは疲れにくい靴下を目指して作っています。』って挨拶したんですよ。そしたら、そこに参加していた会社の社長さんが『従業員に疲れにくい靴下を履かせてやれるんだったら作りたい』っていう話になりましてね。2016年から2年かけて作りました。」
ーー2年かかったんですか!
西垣さん:「せっかく作るんだから納得がいく良いものが欲しいでしょ。試作品をみなさんに履いてもらって、2、3か月、日常で洗濯しながら使ってもらって感想をいただく。それを元に作り直して、また履いていただいて、感想をもらって……。それを3回ほどやったらめちゃくちゃ良いものができると思いませんか?その人が満足する靴下はどういう靴下なのかというのは、その人に教えてもらうのが一番なんです。それが共同開発です。大体うちの場合は、長くて2年、短くて1年ぐらいかけて商品開発しています。それが欲しいという人と一緒に開発するから、高機能性の靴下になっていくんです。」

特徴1)特許技術の編み方で、高い強度とクッション性を実現!
ーーこの靴下にはどんな特徴があるんでしょうか?
西垣さん:「素材と編み方に特徴があります。工場で働く人の中には、安全靴を履いて仕事をする人もいます。安全靴というのは、ものを落とした時に怪我をしないように、靴の中に金属が入っているんです。金属自体がめちゃくちゃ強いから、普通の靴下だと破れやすいんですよ。安全靴でも破れない靴下にするためにはどうすればいいか。そのためには靴下を強くすればいいんです。」
ーー『靴下を強くする』。それはどういうことですか?
西垣さん:「破れないように強くするということです。基本的に、靴下は体重がかかって一番摩擦力を受けるところが破れやすいですよね。例えば爪があたる『つま先』や『かかと』。そこを破れないようにすると、靴下は強くなって長持ちするんですよ。」

ーー破れないようにするためにはどうするんですか?
西垣さん:「それは簡単です。合成繊維の『ナイロン』を使います。一般的な靴下には綿が使われています。コストメリットを含めたら『綿』が一番履き心地がいいですし、滑りにくいです。ただ、綿だけだと、繊維が弱いから破れてしまうんです。だから裏糸に合成繊維のナイロンを使います。ナイロンの糸を入れたら強度が一気に上がります。あとは編み方ですね。」
ーーどんな編み方でしょうか?
西垣さん:「『パイル』という編み方です。タオルと同じ編み方ですね。ここ、ループになってるでしょ(写真下)。これ押したらふわふわしますよ。触ってみてください。」

ーー本当だ!ふわふわしてますね。
西垣さん:「この『パイル』という編み方は、クッション効果があるんです。なぜクッションが必要なのかというと、足は体重を全て受けます。1歩足を踏み下ろすごとに、毎回体重の重さが足の筋肉にかかるんです。それが1日1万歩になると、疲れない人はいないと思います。それをクッションで緩和させるんです。
ただ、パイルの靴下は普通の靴下と比べてすごく破れやすいんです。これを安全靴に使ったら、すぐ破れてしまう。この問題を解決するのが一番難しかったです。そこで、強度と高いクッション性を両立させた新しいクッション効果のある編み方を考えました。これは発明特許になりました。」

西垣さん:「ここ触ってみてください(写真上)。これね、パイル編みの2倍、一般靴下の4倍の反発力があるんですよ。毎回足を下ろすごとに筋肉に対しての衝撃を4倍も緩和するわけです。この効果で1日の疲れがかなり変わります。100m歩いただけじゃわからないけど、1万歩歩いたら良くわかりますよ。疲労はだんだん足に溜まっていきますから。」
ーーちょうど土踏まずのところにあるんですね。
西垣さん:「はい、これで足底全体の疲れが緩和されます。ただ、疲れの原因っていうのは、それだけじゃないんです。例えば、長靴を履いたときって足が疲れませんか?」
ーーそうですね。普段の時より疲れますね。
西垣さん:「長靴で疲れる理由は、靴の中で足が動いてしまうからなんです。長靴は、靴の中で足に余裕を持たせるように作ってあるから、その分、足が動いてしまいます。それだけ疲れるんです。そういうことが靴下にも言えるんです。やっぱりちゃんと靴下に足がフィットして、その上、どんなときにも靴の中で動かない方が、少なくとも靴下が原因では疲れないんです。」

*カラーの靴下で見ると発明特許である「強度と高いクッション性を兼ね備えた編み方」がより鮮明にわかります。
特徴2)靴と足にフィット!靴下が滑らない「滑り止め効果」
ーーどうすれば滑らなくなるでしょうか?
西垣さん:「『編み込み滑り止め』という技術を使います。これもうちの特許です。わかりやすくこちらの靴下で説明すると、この(写真下)白い部分、これ合成ゴムなんです。それも、被覆(ひふく)されていない裸の合成ゴムです。繊維に入っているゴムは普通は全部被覆されているんですよ。」

ーー『被覆』ですか?
西垣さん:「被覆というのは、周りを滑る繊維で覆うことです。そうすることで、機械が通りやすくなります。裸のゴムは滑らないので機械が止まってしまうんです。ところが、うちは、この裸のゴムを滑り止めとして使うために、被覆されていない合成ゴムをここに編み込んでいます。ここを触ってみてください。動かないでしょ。」
ーーあ、本当だ!全然違いますね。動かない。
西垣さん:「体重の力で抑えられたらもっと動かないです。これがゴムの力です。このゴムの力は、蹴るときに使うんですね。白っぽいゴムがまばらに入っている理由は、靴下の裏側にもあるんです(写真下)。靴下の裏にゴムがあったら、靴下と足も滑りません。靴下の中で足がほとんど動かない上に、靴の中でも止まるんです。こんな風に両方から滑らないようにしたら、足はすごく楽なんですよ。だから『クッション』と『滑らない』という2つの効果は、疲れにくいということにつながるんです。」

特徴3)かかとに靴下を固定させて脱げにくく!
西垣さん:「それと、もう一つ。脱げやすい靴下ってどう思いますか?」
ーー脱げやすいのは嫌ですね。
西垣さん:「すごく嫌だと思います。靴下が脱げやすかったら、せっかくのここまでの疲れにくさが台無しになってしまうんですよ。万博用の靴下は、スニーカーソックスを希望されたので、丈が短い分、脱げにくくするためにすごく工夫したんですよ。」
ーーどんな工夫ですか?
西垣さん:「ここ(写真下)を見てください。普通の靴下は、このかかと部分がまっすぐになっているんです。ここに角度を増やすとどうなるか。かかとが深く入るんです。深く入ったら脱げにくくなりますよね。」

西垣さん:「そして、ここ(写真下)。かかとの上部と口ゴムの辺り。」

西垣さん:「裏側はこんな縫い方をしているんです(写真下)。これは伸びないから、ここでキュッと止めます。これは『W(ダブル)ヒールロック』という特許なんです。短い靴下で脱げなくするために、ランナーの靴下を参考に作りました。」

西垣さん:「つまり、この万博の靴下には、特許が三つ使われているんです。『クッションの特許』、『滑り止めの特許』、『脱げにくい特許』。奈良の靴下メーカーが初めて取った発明の技術が活かされた靴下なんです。安く作ることが目的じゃないんです。『いいものを履いていただくことで、皆さんに認知してもらおう。奈良の靴下、日本の技術を認知してもらおう。』というのが今回のうちの試みなんです。」
奈良の靴下を世界に!

*大阪・関西万博会場スタッフ用の靴下は、近畿経済産業局長賞を受賞した特許技術を活用。
ーー靴下に特許が3つも!凄いですね。しかも、この万博の靴下は寄付なんですよね?
西垣さん:「はい、そうです。寄付に関しては、募集がありました。うちは、奈良の靴下、日本の技術を認知してもらおうと思って、この募集を受けたんです。機能性の靴下をわかってもらうために、うちで一番機能性の高いもの、一番喜ばれているものを出しました。」
ーーでも、1万足なんて、凄い金額になるんじゃないですか?
西垣さん:「そうですね。最低でも1700万円ぐらいはしますね。でも、金額の問題じゃないんです。私は日本の良いもの、奈良の良いものを世界に出したいんです。奈良の高機能な技術は誰にも真似できません。国も認めてくださったこの高機能な靴下を、万博の会場案内係の人が履くんですけど、1日立ち仕事じゃないですか。土踏まずをこんな風にふわっと上げる靴下はあんまりないので、履いたら何?何?ってみんなが思うと思うんです。1日履いていただいたら効果が生まれます。疲れ具合が全然違いますから、スタッフさんにすごく喜んでもらえると思うんですよ。
そしたら『日本の靴下の技術はすごいね、奈良の靴下はすごいね』ってなるじゃないですか。これは、うちだけじゃなく、奈良の靴下全体の印象になるから、産地の靴下を代表してやっていこうじゃないかと考えたんです。」
ーーこの靴下は一般の方も購入できますか?
西垣さん:「これそのものは購入できませんけど、同じような機能を付けた靴下を一般の方用に準備しています。それが、この赤と青の靴下です(写真下)。」

ーー色からすでに万博っぽいですね。
西垣さん:「これは許認可を別に取って作っています。やっぱり、この大阪・関西万博という機会に、一般のみなさんにも機能性の靴下を知ってもらいたいですからね。」

ーー靴下にかける熱い思いを聞かせていただきありがとうございました。お話を伺えば伺うほど実際に履いてみたくなりました。
西垣さん:「靴下は靴を履くのに気持ち悪いから履いている人がすごく多いんです。あとは、寒いからという下着的な要素ね。ところが、そういう靴下は、海外製品に太刀打ちできません。今は、下着も入れて繊維全般の99%が海外製品なんです。でもね、靴下は、まだ約10%が国内で生産されていて、そのうちの6割が奈良で生産されているんです。奈良は靴下生産日本一なんですよ。靴下はファッションの要素もあるけれど、もう一つ、『疲れしらずのくつした』のように機能を補う要素っていうのがあるんです。ところが、機能を補う要素は、みなさんほとんど意識していないと思います。靴下は履いていて快適でなければなりません。機能性の靴下を履いていただいたら、感じが違うというのがすごく良くわかってもらえると思います。」
西垣靴下株式会社 公式サイト
西垣靴下株式会社
大阪・関西万博にて販売予定の靴下(赤と青) 購入ページ
疲れしらずのくつしたスニーカー丈
工場見学 案内
工場見学~西垣靴下㈱・エコノレッグ ファクトリーツアー
■編集後記

西垣靴下の社長室に案内され、驚いたのは、所狭しと飾られた賞状やトロフィーの数々。西垣靴下が、1953年(昭和28年)に創業以来、72年に渡り(取材時点)、機能性の靴下に特化したオリジナルの製品開発を行ってきた努力の証です。履き心地を追求する中で、様々な新しい技術が生れ、これまでに特許9件、意匠21件、商標28件を取得したそうです(取材時点)。靴下の履き心地を細部まで追求するものづくりの姿勢には、尊敬の念を抱かずにはいられません。その地道な努力のお話を伺ううちに、ふと「雨(あま)だれ石を穿つ(うがつ)」という言葉が浮かんできました。「雨粒ほどの小さなしずくでも長時間かければ石に穴が開く」ということの例えですが、日々、足に加わる蓄積された疲労のようにも思いますし、「小さなことでも根気よく続ければやがて成功する」という意味からは、靴下の履き心地を追求してきた結果につながっているようにも思います。大阪・関西万博が、日本の製造業の素晴らしい技術を世界に発信する機会になる事を心から願っています。(ものづくり新聞 小柴寿美子)
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