産地を訪ねて

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2025.04

台湾の観光工場とは? 制度の評価項目と現場の事例で探る

ものづくり新聞では、2022年から日本全国の数々のオープンファクトリーやワークショップなど、ものづくりの工程を知り、職人と出会い、産地の魅力を感じられるイベントを取材してきました。

そのような取り組みにおいて、体験付加価値や満足度をさらに上げ、事業者にとっても持続可能な、安定して利益を生み出すイベントにするには何が必要なのか?を考えた編集部が今回注目したのは、台湾の観光工場です。

観光工場とは、台湾の産業政策の策定と推進を担う政府機関である経済部産業発展署が2003年から推進している取り組みによって生まれた、製造業のエンターテイメント施設です。観光工場には年間2000-3000万人の来場者が訪問しており、台湾の製造業のブランド価値や認知度を高める場となっています。

編集部がこの台湾の観光工場に注目したのは、その認定を得るための評価項目の多さからです。

数々の条件を満たして初めて、観光工場の認証を得ることができます。また、全体の21%の観光工場は優良観光工場または国際観光工場の認証を得ており、日本語や英語で対応ができるスタッフや施設内の表示も準備しているそうです。

(観光工場の認証を得るための申請手続きや、条件を満たしているかを確認する現地視察などを担当している経済部産業発展署の建物)

この記事では、経済部産業発展署と釣具メーカー、スーツケースメーカー、化粧品・スキンケアメーカーの3社の観光工場へオンライン取材、現地取材を行った内容をまとめました。日本の自治体やオープンファクトリー運営者の皆さんにとって参考になればと思います。


観光工場の概要と制度が生まれた経緯

経済部産業発展署 ビジネスカウンセリングセンター所長の雲 瑞龍(ウン ズイリュウ)さんにお話を伺いました。

ーー本日はよろしくお願いします。まず、観光工場の取り組みが始まった経緯を教えてください。

雲さん:「観光工場の政策は2003年頃に導入されました。当時、台湾では産業の海外移転や工業団地の工場の遊休化が進んでいたため、工場の活性化を図るべく、観光要素を取り入れました。」

(2025年時点で観光工場の認証を得た企業がまとめられたパンフレット)

ーー観光工場を作るのに十分な土地や、改装して生まれ変わらせることができる施設がすでにあったのですね。次に、経済部産業発展署に申請書類を送り観光工場の認証を得るために必要な条件について教えてください。

雲さん:「評価項目は主に企業テーマ、工場エリアの計画およびサービス施設、展示施設、顧客サービス、経営管理の5つに項目が分かれています。評価基準には、企業イメージの確立、工場内の空間と動線設計の最適化、円滑なガイドツアー運営、専門的な体験サービスの提供などが含まれます。」

観光工場の認証を得るために必要な26の評価項目 (観光工場公式サイト内資料を日本語に翻訳したもの)※一部抜粋

1.企業テーマ
・明確な産業観光教育テーマを持っているか
・工場のデザインスタイルが特色を持ち、観光工場のテーマに合っているか


2. 工場エリアの計画およびサービス施設
・異臭や粉塵、高温、騒音など訪問者に不快感を与える要因がないか
・休憩施設(休憩用椅子や飲料水設備など)、環境景観および緑化の度合いが整っているか
・観覧の動線がスムーズで、製品の生産過程を1〜2時間以内に完全に示すことができるか


3. 展示施設
・良好な観光サービスウェブサイトの構築、ビデオ制作、および観光ガイドパンフレットの印刷があるか
・観光客とのインタラクティブな体験設備や文物があるか


4. 顧客サービス ・サービススタッフ(受付、ガイド、販売など)に親切さ、反応性、専門性があり清潔であるか


5. 経営管理
・健全な自主管理機構を持つ経営組織があるか
・政府部門および地域組織と良好な関係を保ち、地元産業と異業種連携があるか

ーー項目の中には、『製品の生産過程を1〜2時間以内に完全に示すことができるか』という項目があり、評価項目の詳細さに驚きました。他にも、飲食・休憩スペースの設置や、騒音対策、安全の確保、統一感のあるブランドロゴやパッケージなどの項目もあります。多方面からのアプローチによって、製造業から観光業への転換の初期段階において必要となる条件を網羅されている印象を受けました。

ーー今後観光工場をどういった場所にしていきたいですか?

雲さん:「観光工場を単なる生産拠点ではなく、産業文化・体験・持続可能性を融合した拠点へと進化させることが目標です。

経済部産業発展署は、事業者が産業の知識を伝えながら五感で体験できる場を創出し、工場や設備の有効活用を支援することで、製造業の観光サービスへの転換を促進しています。今後も、産業のスマート化・デジタル化・低炭素での持続可能な経営を推進し、産業教育の強化、文化の継承、サービス品質の向上を図ることで、観光工場のブランド価値を高めていきます。」

ーー雲さん、本日はありがとうございました!

右:雲 瑞龍さん、左:ものづくり新聞記者 佐藤


観光工場への取材でわかったこと

(寶熊漁樂碼頭の観光工場内にあるレストラン。敷地内にカフェがある観光工場もありました。)

今回オンライン取材、現地取材にご協力いただいたのは、こちらの3つの観光工場の館長、副館長の皆さんです。3社とも国際観光工場の認証を得ています。

🐟 寶熊漁樂碼頭

1986年創業の台湾台中市にあるリール(釣具)メーカーOKUMA(オクマ)が2013年より運営している観光工場。(オンライン取材、現地取材を実施。)

寶熊漁樂碼頭の館長の呉 德利(ゴ トクリ)さん。

🧳 萬國通路創意觀光工廠

*萬國通路創意觀光工廠公式サイトより引用

1979年創業の台湾台南市にあるスーツケースブランドEminent(エミネント)が2019年より運営している観光工場。(オンライン取材を実施。)

💄台塑生醫健康悠活館

創業2003年の台湾彰化県彰化市にある化粧品・スキンケアメーカー台塑生医が2016年より運営している観光工場。(オンライン、現地取材を実施。)

台塑生醫健康悠活館の副館長、黃韋銘(コウ イメイ)さん。

観光工場3社に行ったインタビューのなかで明らかになったことを6つのトピックごとにまとめました。

🐟 寶熊漁樂碼頭

2005年に台湾本社を潭子(タンズー)に移転した際、社内の一部を釣り活動の拠点として活用しようと計画しました。さらに、経済部が観光工場の開発を奨励していることを知り、政府の支援を得て、伝統製造業からサービス業へと転換する絶好の機会だと考えたのです。

🧳 萬國通路創意觀光工廠

ブランディングとイメージアップの目的で投資しようと思いました。また、若者の雇用機会の創出にも繋がればと思いました。

💄台塑生醫健康悠活館

自社商品への思いや意欲をもっと知ってほしいという理由で、すでにあった化粧品工場の一部を観光工場にしました。一般の方や専門の方のモニターの意見を踏まえて計画を進めていきました。

一番の目的は、ブランドの認知度を高めることです。また、商品の製造プロセスや商品への思いを発信したいという理由もあります。広告予算として、観光工場設立のための費用を投資しました。

台塑生醫健康悠活館 館内にある企業の歴史やグループ会社についての説明の展示スペース。

🐟 寶熊漁樂碼頭

2011年に観光工場設立計画を開始し、翌年に初期整備を終えて評価を申請しました。2013年に観光工場認証を取得しました。約2年間で、第1段階として約1,000万台湾元(約4500万円)を投じて改造を行い、その後も部分的な改善を続け、2014年に優良観光工場に選出されました。

2015年に大型改築計画を開始し2017年から2019年に休業し、改修工事を実施しました。2019年に 再オープンし、総工費は1億台湾元(約4億5000万円)を超えます。2020年に国際的な観光スポットとしても認定されました。

寶熊漁樂碼頭 館内のレストラン。以前はカフェがあった場所に、2025年1月にリニューアルオープンしたのだそうです。子どもが遊べるキッズスペースもありました。

🧳 萬國通路創意觀光工廠

工場とは別の建物を新しく建てる必要があり、期間を要しました。企画が始まったのは2012年で、観光工場が完成したのは2020年です。

💄台塑生醫健康悠活館

2017年に申請資料を提出し同年に認証を取得しました。施設の改装を申請資料の提出前に1年半かけて行いました。かかった費用は約1.5億台湾ドル(約6億7700万円)です。

🐟 寶熊漁樂碼頭

年間12万から15万人くらいです。20万人を目標としています。

🧳 萬國通路創意觀光工廠

毎月10万人来場しており、年間来場者数は約100万人です。

💄台塑生醫健康悠活館

2024年は20万人くらいでした。そのうちの98%が台湾の方で、残りの2%が海外の方でした。今後は海外からの観光客がたくさん来てほしいと思います。

台塑生醫健康悠活館のレクチャーホールの入り口は商品パッケージのような見た目になっています。修学旅行生など、大人数の来場者も受け入れているようです。

🐟 寶熊漁樂碼頭

経営の方向性についての社内調整に時間を要しました。

🧳 萬國通路創意觀光工廠

スーツケースを作ることは得意ですが、製造業からサービス業への展開が大変でした。スーツケース販売もしているので、その部分はサービス業ではあるものの、観光工場は政府やほかの会社との交流も重要です。認定審査では政府が重視している点は安全に関する施設でした。防火対策や避難路、お手洗いの数、バリアフリー対応など、項目が多く大変でしたね。

💄台塑生醫健康悠活館

化粧品メーカー、製造業から観光業へのシフトが大変でした。また、元々ある工場を使って観光工場にした結果、安全面などの審査の基準がより厳しくなりました。社内、地域への貢献度の確保、地域の小学校との共同での活動が必須など、いろんなことが求められます。

台塑生醫健康悠活館 館内のショップでは、有名キャラクターとのコラボレーションパッケージで商品が販売されていました。

🐟 寶熊漁樂碼頭

政府からの支援と信頼を得られることです。工場長が台中市で観光協会の理事長を務めていることもあり、他の観光工場とのコラボレーションの機会もあります。

また、観光工場があることでグループブランドが向上していると感じます。会社はマーケティング予算を確保しており、観光工場に投資しています。

寶熊漁樂碼頭の館内のいたるところにオリジナルキャラクター宝(ポウ)がいます。

🧳 萬國通路創意觀光工廠

お客様にとっては、認定を受けていることを見るとより安心して観光できると思います。私たちは一般、優秀、国際、の3段階がある認証を全て取得しています。国際認証を得るためには英語だけではなく日本語も必須です。そのため、英語と日本語が話せるスタッフがいて、工場内の表示も両方あります。

💄台塑生醫健康悠活館

協会が主催する交流会を通して、会社全体の競争力が上がったと感じています。国内、海外の展覧会への出展のきっかけにもなり、一般の方からの信頼感も高まったと思います。

🐟 寶熊漁樂碼頭

日本人をはじめとして、海外観光客にもっと足を運んでほしいと思います。台北に比べ、我々の観光工場がある台中は観光スポットとしてまだ選ばれにくいので、他の観光工場とも連携しながら、台中の魅力も発信していきたいと思います。

🧳 萬國通路創意觀光工廠

今後はもっと海外への知名度を上げたいです。台湾から日本に行く人は多く、弊社のスーツケースを買って日本に行く人も多いです。ですが、日本での認知度はそれほど高くないので、日本での認知度を高めていきたいと思います。

💄台塑生醫健康悠活館

観光工場の経営能力を進化させたいです。海外の観光客に台湾の観光工場や台湾にもっと来てほしいと思います。また、そのことによって製造産業を知ってもらいたいです。


観光工場の認証を得るためには期間と予算を要するようでしたが、観光工場は企業にとって認知度向上や、信頼の獲得に繋がる場所となっているようでした。一方で、台湾の方以外の観光客への集客について課題を感じている企業が多かったです。

オンライン取材を実施した後、実際にこのような経緯で完成した観光工場がどういった場所なのかを明らかにすべく、台湾を訪れ観光工場に取材に行きました。

釣具メーカーの観光工場を見学した際の記事も公開しました。こちらもぜひご覧ください。

台湾で見つけた、釣具メーカーの遊びと学びの体験型施設 “観光工場”を訪ねて
https://makingthingsnews.com/notes/okumacenter

参考資料:観光工場の認証を得るために必要な26の評価項目

観光工場公式サイト内資料を日本語に翻訳したもの)

1. 企業テーマ ・明確な産業観光教育テーマを持っているか
・入り口のイメージが観光工場のテーマに合致しているか
・工場のデザインスタイルが特色を持ち、観光工場のテーマに合っているか
・美的概念に基づいた識別システムがあり、互いに調和しているか(例:ブランドロゴ、マスコット、製品パッケージ、周辺商品など)
・鮮明な企業イメージと企業の社会的責任(例:企業の歴史、企業文化、ストーリーマーケティング、環境保護の概念、社会への貢献など)

2. 工場エリアの計画およびサービス施設
・異臭や粉塵、高温、騒音など訪問者に不快感を与える要因がない、または排除されているか、そして適切な消防安全、緊急救護、避難指標などの設備があるか
・トイレ、駐車場、観覧エリアが適切な質と量を備えているか
・休憩施設(休憩用椅子や飲料水設備など)、環境景観および緑化の度合いが整っているか ・プレゼンテーションルーム、DIY教室、製品展示または販売エリアがあるか
・観覧の動線がスムーズで、製品の生産過程を1〜2時間以内に完全に示すことができるか ・観光エリア内にバリアフリーとジェンダー平等施設が備わっているか、新築または増築された建物には、建築法に基づいたバリアフリー施設が設置されているか

3. 展示施設 ・全工場敷地の概略図、エリア標識および案内設備が設置されているか(バリアフリー設計と多言語対応を含む)
・完備された産業知識、文化ガイド解説システムがあるか(バリアフリー設計と多言語対応を含む)
・良好な観光サービスウェブサイトの構築、ビデオ制作、および観光ガイドパンフレットの印刷があるか
・製品品質管理システム、製程の開放度および観光価値の提示があるか
・観光客とのインタラクティブな体験設備や文物があるか

4. 顧客サービス
・サービススタッフ(受付、ガイド、販売など)の親切さ、反応性があるか
・サービススタッフ(受付、ガイド、販売および語学など)の専門性があるか
・サービススタッフの装備が整っており、清潔であるか(例:服装、マイクなど)
・良好な消費者トラブル、危機管理の仕組みおよび顧客対応サービスがあるか

5. 経営管理
・体験プログラムのデザインが異なる顧客層のニーズに適合し、工場の製造コアバリューに合致しているか ・健全な自主管理機構を持つ経営組織があるか
・完備された観覧情報、連絡先、料金方式および価格の合理性があるか
・公共事故責任保険を提供しているか
・政府部門および地域組織と良好な関係を保ち、地元産業と異業種連携があるか
・製品情報が公開されており、関連の履歴証明を提供しているか

 

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