産地を訪ねて
2025年10月3日公開
突然ですが、クイズです。「Q:美濃焼の産地はどこでしょうか?」

正解は「岐阜県」。美濃焼は、岐阜県の東濃(とうのう)地方の土岐(とき)市、多治見(たじみ)市、瑞浪(みずなみ)市、可児(かに)市で作られる焼き物の総称で、日本の陶磁器における生産量の約半分を占めています。岐阜県は、まさに日本最大の陶磁器の生産地です。
そんな美濃焼の窯元の中で、今年(取材時:2025年8月)の4月から、海外販路拡大を目指し、動き始めた人たちがいます。土岐市にある6つの窯元です。今回はその窯元の中から、創業当初より海外との取引が中心という窯元を訪ねました。
薄く透ける磁器「丸直製陶所」
こちらは、140年前からヨーロッパで愛されてきたカップ&ソーサーです。

フランスでは、祖父母の家や蚤の市で見かけることが多く、パリの人たちにとっては、身近な存在。このティーカップを日光にかざすと絵柄が透けて見えます。

なぜだかわかりますか?それだけ薄く作られているんです。厚さはわずか1~2mmほど。底には日本髪を結った女性が描かれています。そう!実は、製造元は、日本の窯元なんです。
この磁器を作っているのは、美濃焼の産地、岐阜県土岐市にある丸直製陶所(まるなおせいとうしょ)です。創業は1891年以前、明治初期まで遡ります。

あのカップ&ソーサーは、元々は別の窯元が発明したものでしたが、縁あって丸直製陶所も技法を受け継ぎ、以来140年にわたり製造を続けています。このような薄い磁器を作れるのは、全国でもわずか2軒だけだそうです。

丸直製陶所の6代目、奥田将高(おくだ まさたか)さん、57歳です(取材時:2025年8月)。創業当初からヨーロッパを主要な取引先にしてきた奥田さんは、仲間からも頼りにされています。

奥田さんは、工業高校で陶磁器について学び、短大を卒業後、陶芸家を目指す日本中の学生たちが憧れるという「多治見市陶磁器意匠研究所」に入学。卒業後は和洋食器を扱う地元の大手商社に入社。5年間の勤務を経て、27歳で家業へ。奥様と2人のお子さんがいらっしゃいます。
子どもの頃、家を継ぐのが嫌だったという奥田さん。今ではこの道30年(取材時2025年8月)。現在は妹さんと二人で丸直製陶所を営んでいます。そんな奥田さんに、海外へ販売するようになったいきさつや、課題、これからの展望などについてお話を伺いました。
日本の磁器がヨーロッパで愛される理由
ーーまずは、このカップ&ソーサーについて教えてください。
奥田さん:「今は昔ほど出回っていませんが、フランスの蚤の市には必ずあるそうです。東京のイベントに出店した時も、フランスの方やフランスに嫁いだ日本の女性から『これ、家にあるよ』『嫁ぎ先にあるわ』と声をかけられました。梅柄の他に、鳳凰と龍の柄もありますが、今でも梅柄が一番人気です。」
ーーそもそも、どうしてヨーロッパとの取引が始まったんですか?
奥田さん:「明治の初めに、ヨーロッパの商人さんがカップ&ソーサーを持って来られて『こういう薄いものを作れないか』と頼んだのが始まりだそうです。当時、土岐では、どんぶりやめし椀といった陶器しか作っていませんでしたから、その薄いカップ&ソーサーを見た職人さんがびっくりして『何とか作ってやる』と挑戦して、完成させたそうです。」

取っ手の付け方は、明治時代から伝わる技法。例え割れたとしても、この取っ手部分だけは本体から外れないというほど、強い付け方をしてあるそうです。
ーーヨーロッパの商人さんは、なぜそこまで薄さを求めたのでしょうか?
奥田さん:「飲み口が薄いと口当たりが良く、美味しさが全然違うんです。ヨーロッパには紅茶の文化がありますから、より薄い方が好まれるようです。日本のお客様は『割れそうで怖い』と不安がられますが、フランスでは100%の人が『素晴らしい!』と喜んでくださいます。文化の違いですね。」
ーー保温性はどうですか?
奥田さん:「意外と冷めにくいんですよ。放熱面積が少ない分、厚いカップより長持ちします。試しに、陶芸家の後輩に分厚いカップを作ってもらって、どっちが早く冷めるかを競争したことがあるんですけど、やっぱりうちの方が全然冷めなかったです。」

ーー販売先は、今でも海外中心ですか?
奥田さん:「基本的には海外ですね。かつては地元の商社や貿易商を介して販売していましたが、今はヨーロッパで一番大きい卸会社と直接取引をしています。『今扱っている商品の中で、お宅のが一番大好きだよ』って言ってくれるので、凄く嬉しいです。」

陶器から磁器へ。産地に伝わる物語
ーー元々、土岐は陶器の産地だったんですよね?磁器の技術はどうやって学んだんですか?
奥田さん:「江戸時代、この辺は陶器しか作っていなかったんですけど、九州では磁器を作るようになっていました。なんとかその技術を盗んで自分でも作りたいと思った瀬戸の職人さんが、九州に行って、磁器の窯元の娘さんと結婚し、その窯元に入ったんです。子どもも生まれたんですけど、ある日、瀬戸にコソッと帰ってきちゃったんですよ。その技術だけを盗んで。」
ーー奥さんを置いてですか?
奥田さん:「はい。奥さんは、子どもを連れて追いかけて来たそうですが、瀬戸にしてみれば、窯元の街だから、その男が身に付けてきた技術は貴重な財産じゃないですか。だから、奥さんを受け入れなかったそうなんですよ。」
ーーひどい!
奥田さん:「しょうがないから、奥さんは泣いて子どもと一緒に九州に帰ったという話があって、今でも瀬戸の陶器祭りは、必ず1日は雨が降ると言われています。その雨は、奥さんの涙とも言われているんです。でも、その男性のおかげで、瀬戸でも磁器が作られるようになりました。瀬戸は山向こうにあり、ここから近いので、瀬戸の職人さんが流れてきて、この土岐でも磁器が作られるようになったと聞いています。」

ーー陶器と磁器の違いは何ですか?
奥田さん:「土ですね。粒子がすごく細かいものが磁器で、粗いものが陶器です。そもそも成分が違うんですけどね。うちは1320度の高温で焼くので、安い土だと、ぐにゃってなってしまいます。ある程度、品質の良い土でないと、こういった薄い形には焼けないんです。」
ーー陶器と磁器では焼く温度も違うんですか?
奥田さん:「はい。一般的に、陶器は高くて1200度前後ですが、磁器は1300度以上の高温で焼きます。だから硬いんです。磁器を棒で叩いてやると、澄んだ金属音がします。これは高温で焼いているからなんです。高温で焼いている分、生地自体が良く溶けますし、釉薬も良く溶けるので、水も沁みません。そのため、茶渋もつきにく、洗ったらすぐにしまえる利点があります。」
進化するデザインとこだわり
ーー今、一番人気の商品はどれですか?
奥田さん:「こちらの白のカップが今一番の売れ筋です。」

奥田さん:「こんな風に光が入ると柄が透けますし、飲み物を注ぐと、中の飲み物が外にうっすら透けるんです。」

奥田さん:「こちらは(写真下)、フランスのソムリエがデザインした日本酒カップです。」

奥田さん:「フランスは、今、日本酒ブームで、ソムリエがこぞって日本酒を飲むようになったそうです。そのソムリエがデザインしたものを、ヨーロッパでは形にすることが出来なくて、うちに依頼が来て作りました。カップの中の厚みが違うんです。底は厚いところで5mm、薄い部分は0.8mm。ヨーロッパの技術ではできないそうです。」
ーーえー!?0.8mm?薄いところは1mmもないんですか?
奥田さん:「はい。薄い部分は0.6~0.8mmにもできます。基本、うちの商品は0.8mmで作っていましたが、国内に直売するようになって、少し分厚くしました。ここまで薄くない方が日本のお客様には喜ばれるかなと思いまして、今は1~2mmで作るものが多いです。」
ーーそれでも薄いですよね!
奥田さん:「マグカップで一番厚いのは底の部分です。実は、今までは底を一番薄くしていました。なぜなら、底を薄くすると、持った時の軽さが全然違うからです。でも、お客様の中に『薄いのが好きだけど、氷を入れても大丈夫?』と心配される方がいらっしゃったので、『そうか!持った時の軽さよりも割れにくい方がいいんだ』と気づいて、底を厚くしました。」

奥田さん:「底は角の部分だけ薄く作っているんです。氷を入れた時にちょっと振動するので、割れるのを防ぐ役割も持たせています。」

厚みの変化がわかるようマグカップを縦に割った見本。丸みを帯びている角は薄くなっているのに対して、底の中心部分は盛り上がり、分厚くなっているのがわかります。
奥田さん:「あと、ちょっと分かりにくいんですが、飲み口を少し反らせてあります。焼いた時に、飲み口が少し外に開くような肉の付け方をしているんです。反らせた方がより飲み物を美味しく飲めるからです。」

ーー色々こだわって作っていらっしゃるんですね!
奥田さん:「先代の職人は、すべてを同じ厚みに作るのが好きでした。焼いたときに全体がふわっと丸くなる作り方だったんです。でも、私は、まっすぐな部分、開いた部分、厚めな部分と、部分ごとに変化を付けるのが楽しいです。『お客様が知らない自分だけの楽しみ』というか、これでお客様が喜んでくれればいいなと思います。」

奥田さん:「これ(写真上)は、見学に来た方に楽しんでもらおうと思って作っている『割り見本』なんですが、ちょっと持ってみてください。少し力を入れていただくと、簡単に割れると思うので、やってみてください。」

ーーうわ!こんなに脆いんですか?ちょっと指に力を込めたらすぐに割れちゃいました。繊細なんですね!
奥田さん:「成型して乾燥させただけの生地なので、この薄さだから簡単に割れます。生の時はもっと柔らかいです。ですので、絵付けをするときは、生のものを乾燥させてから、素焼きの窯で一度700度で焼くんです。そうすると強度が増すので、先程のように、もろくなくなります。うちのは薄すぎて、釉薬もドボンと一緒に塗れないんです。中だけ先に釉薬を塗って、その状態でもう一度乾燥させてから外側に釉薬を塗ります。分厚いものを作るより、何倍も手間がかかるんです。」
ーー薄く作るためのコツはありますか?
奥田さん:「土を柔らかく練ることです。ただ、外気に触れた瞬間に土が固まっていくので、夏は固まるのが早くて難しく思います。夏に作ると、冬に作るよりも数ミクロンの違いで、分厚くなる感じがします。」
ーー作業をしながら一番気をつけていることはどんなことですか?
奥田さん:「それは、製造過程で割れないように作ることですね。ロクロを回す作業の中で、表面を滑らかにさせるために水を打ってツルツルにするんですが、その時に水を入れ過ぎてしまうと、乾き具合が違ってくるので、ヒビが入ってしまうんです。あとは形状によって厚みを変えているので、それによって土の柔らかさも変えています。薄いものはより柔らかく練らないといけないし、分厚いものはそんなに柔らかくしない方がいいというのがあるので、そういったところにも、すごく気をつけています。」
和紙を使った絵付け「銅版転写」
丸直製陶所では、和紙に絵柄を印刷して貼る「銅版転写」という技法で絵付けをします。

奥田さん:「これが銅版です(写真下)。模様が薄っすら彫ってあって、表面には硬質メッキが施されています。銅は柔らかくて、すぐに減ってしまうので、数万枚印刷してもすり減らないようにするためです。ここに絵の具をのせて、和紙で版画したものを使って貼っていきます。」

奥田さん:「和紙に版画したものがこちらです。模様は1000種類くらいあります。」

ーーこれを1枚1枚、手で切るんですか?
奥田さん:「そうなんですよ。以前は印刷も全部自社でやっていたんですけど、今は銅版屋さんにお願いして印刷してもらっています。ちょっと貼ってみますね。」

ーー水を付けた刷毛で和紙を張っていくんですね。コツはありますか?
奥田さん:「大事なのはカーブを合わせることですね。上のカーブと印刷された模様のカーブを合わせて、親指の指サックで和紙を押さえながら、なるべく刷毛の近くを持ち、水もあまりつけ過ぎずに貼ってやるのがいいです。」

ーーどんなところが難しいですか?
奥田さん:「和紙なので必ずつなぎ目ができます。それをいかに上手に合わせるかが難しいですね。あとは、やっぱり和紙だから、必ずシワが寄るところです。大事なのは空気が入らないように上も下も全部刷毛で押してつけること。色が付いたかどうかは、和紙の色の変化でわかります。色がついていないところは黒っぽいんです。」

ーー奥田さんは、この技術を何年ぐらいかけて習得されたんですか?
奥田さん:「銅版転写の絵付けは、母が日本で一番うまいと思っていたんです。その母を超えたと思ったのは、15年くらいやってからですね。」

和紙をはがすとこの通り!湯呑に絵柄が転写されました。
奥田さん:「以前、車のメーカーさんから、うちの商品を仕入れたいっていう依頼があったんです。販売店の待合室に、日本中のいいものを集めてお客様に販売するコーナーがあるそうで、そこに置きたいとのことでした。『うちは銅版印刷なので、こういう風にシワになったように見えるんですけど、それでも大丈夫ですか?』って話をしたところ、『今の時代、クレームになると困るから仕入れるのをやめます』ということになりました。」
ーー残念でしたね…。
奥田さん:「でも、すごくよく分かりますよ。昔は、シワも手作りの味わいとして理解してくださるお客様が多かったですが、今はもうクレームになってしまいますからね。」

湯呑の底の部分をご覧いただくと、和紙が折り畳むようにして絵付けされています。そういう技法ですが、印刷がずれているとクレームになりかねないという懸念も…。
6000個の製造と20時間の窯焚き
ーー1つの商品を作るのに、どのくらい期間がかかるものですか?
奥田さん:「昔、従業員さんが何十人もいた頃は、1週間でできていたんです。でも今は妹と2人で作っているものですから、大体3、4ヶ月かかります。長いものだと1年くらいお待たせしている商品もあります。窯が大きいので、窯をいっぱいにするには、6000個の素焼き生地が必要なんですよ。2人で6000個を作らないといけないので、結構な時間がかかっちゃいます。」
ーー6000個作ってから焼くんですか?
奥田さん:「そうです。でも最近は1年以上待たせているヨーロッパのお客様に『どうなってるんだ?』って怒られるようになっちゃったので、窯の3分の1ぐらい商品を入れて、あとは空の炉材を入れて焼いてます。」

ーー6000個入れないと、同じような品質には焼けないということでしょうか?
奥田さん:「品質というか、うちの窯の火の回りをきちんとさせるためには6000個必要なんです。なので、足りない分は炉材を詰めてしまえば、火の回りは同じようにできます。窯で焼いているとき、私はずっと起きているんです。20時間ぐらいはずっと見守り続けています。」
ーーえー?20時間もですか?
奥田さん:「はい、火をつけてから大体20時間ですね。火を止めた時は1300度ぐらいあるので、500度か400度ぐらいにならないと、蓋を開けられないんです。急冷だと、割れちゃったりもするのでね。ですので、窯で焼いた次の日は、400度まで下がったら、やっと窯の蓋を開けられます。順番に開けていって、その日の気温にもよりますが、半日かけて蓋を開けて中を冷やして、台車を引きずり出して、やっと商品を取り出せる感じです。」
ーー時間がかかるんですね。
奥田さん:「いえいえ、備前焼はもっと長くて、1週間焼き続けますよ。土物なのに、強度は磁器と変わらないくらい強いです。土物でも、熱を加えた方が、硬く丈夫になります。」

奥田さん:「私が意匠研究所で学んでいた頃は、作るのに3年分ぐらいの注文が来ていて、その頃は従業員さんも20人ぐらいいました。でも、27歳で家業に戻ったタイミングで、ヨーロッパの市場が、中国に全部取られてしまった状態だったんです。注文が、一気に100分の1から1000分の1ぐらいに減っちゃったんです。」
ーーそれは大変でしたね…。
奥田さん:「家を継ぐことを決めたときから覚悟はしていました。現在2社しか残っていないということは、裏を返せば、国内では特に需要がないということなんですよ。ヨーロッパでは、王様が磁器の窯を持つことや、磁器の食器のセットを持つことがステータスだった時代があって、磁器の文化が根付いています。『磁気の器をここまで薄くできる日本の技術はすごい』と評価してくださるんですが、日本にはそういった文化がないので、『薄く作ることの何がいいんだ』となるわけです。」
ーー日本人が良さを知らないだけということはないですか?
奥田さん:「そうですね。基本的にうちの商品はヨーロッパにしか出していないので、国内では知らない人も多いとは思います。」
女子に好まれる「可愛い」を追及

奥田さん:「うちは、主にターゲットが女子なもんですから、女子好みのものを作っています。これは(写真下・下段)、元々パリにカフェオレボウルとして出したものなんですが、取っ手をつけて、スープカップ風にしています。私はこれで、味噌汁を飲んだり、うどんを食べたりします。結構使い勝手が良いんですよ。」

奥田さん:「こちらは(写真下)最近作っているマット系の器です。ちょっと厚めなんです。最初は薄く作っていたんですが、焼くと窯の中で、自分の重みで潰れちゃうんですよ。焼いても潰れないようにするためには、ある程度、厚めにしないとダメだったんです。」

ーー奥田さんが可愛いもの路線を作るようになったのは、どういうきっかけなんですか?
奥田さん:「国内で売るためです。国内のイベントで販売して気づいたのが、宝石や洋服と一緒で、器は女子の嗜好品なんですよね。買ってくださる方の9割9分は女子なので、女子目線の可愛い商品を作るようになりました。それまでは、自分の思いだけで作って売っていたんですけど、デザイナーを挟むようにしたら、売れるようになりました。」
ーーデザインを相談できるデザイナーさんがいらっしゃるんですね。
奥田さん:「土岐市が陶器の街なもんですから、『セラテクノ土岐』という焼き物の研究所のようなところがあるんです。市の職員としてデザイナーも雇っているので、そこに持って行って見てもらっています。」

新商品は直系21cmの大皿。料理を乗せても軽いです!
奥田さん:「うちのピンクは上品と言われて、結構売れるんです。このカップシリーズ(写真下)は、皿が取り皿にもなるんですよ。『可愛いいし、使い勝手もいいし、サイズ感もいい』と気に入ってくださるお客さんも多くて、このお皿だけを買う人も多くいらっしゃいます。ちなみに、うちの小皿は水に浮くんですよ。」
ーーえー!?それは凄い!水に浮くほど軽いんですね!

ーー事業を継承している方は、受け継いだものに自分なりの面白さを見いだして、それ以上の何かをやろうとしていらっしゃる方が多い印象があります。
奥田さん:「もちろんです。そうでないと生き残っていけないですよ。私も家を継いだ時は、あのカップ&ソーサーしか作っていなかったわけですから。父親の反対を押し切って、私が良いと思うものを作り出して、なんとか今、食べていくことができています。」
ーーこの仕事のどんなところに一番魅力を感じていらっしゃいますか?
奥田さん:「一番は、お客様が喜んでくれることですね。家業を継いで、嫌々作っていたんですけど、自分の作ったもので、お客様がこんなに喜んでくださるなら『また喜んでもらえるといいな』と思って、思いを込めて作るようになりました。それが生きがいになってきました。」
ーー今までで一番嬉しかったエピソードがあれば教えてください。
奥田さん:「いっぱいあるんですが…、10年以上前かな。初めて東北のイベントに出店した時、結婚式の引き出物を探していた若いご夫婦が、うちの商品に決めてくれたんです。そのご夫婦は、今でも毎年買いに来てくださいます。去年お子さんが生まれて、今年(取材時2025年8月)は1歳になったお子さんも一緒に来てくれました。そういうお付き合いが本当に嬉しくて、感謝しかないです。」
海外市場は日本の陶磁器の未来を救うのか
ーー今、土岐市にある美濃焼の6つの窯元が集まって、海外展開を相談をしていると伺いました。
奥田さん:「はい。2023年まで東京ドームで行われていたテーブルウェア・フェスティバルが、プリズムホールで行われるようになって、規模が縮小されたので出られなくなっちゃたんです。今後どうしようかとなった時に、『日本は人口も減っているし、消費も減ってくるから、海外に向けて発信したらどうやろう』ということになりました。今は、まだ手探りの状態ですが、チームで方向性を決めて、市や県とも連携を取りながら、一緒にやれることはないか話し合っているところです。」

東京ドームで行われていた「テーブルウェア・フェスティバル」にて、土岐市の美濃焼の窯元が集って出展していた「どんぶり百撰」の様子。このうち6つの窯元が集まり、今年(取材時:2025年8月)4月から、毎月1回、海外展開に向けた会議を重ねています。(写真提供:丸直製陶所)
奥田さん:「海外なら、私はヨーロッパがいいんじゃないかと思っています。日本のことをリスペクトしてくれていますし、日本のことをすごく好きでいてくれるので。アジアは中国と近いですからね。中国は技術力もすごくて、同じものを簡単にマネして作っちゃうんです。アジアに出して、結局中国がマネして同じものを作ってしまえば、そこで終わっちゃいますからね。」
ーー海外へ販売する際の課題はどんなところにありますか?
奥田さん:「全てが課題です。基本、船で出すんですが、最低でも半年はかかります。関税のこともあるし、支払いについても、向こうがちゃんと支払ってくれるのか、そういった交渉もきちんとしていかなければなりません。ヨーロッパだとうちのお客様もいるし、間に入ってくれているコーディネーターのツテもあるので安心です。ある程度、信頼できるところとやり取りしたいので、そこを見極めるのがすごく難しいです。」

ーー海外のバイヤーさんに気に入ってもらうためにはどうすればいいと思いますか?
奥田さん:「海外の8割以上は磁器です。ヨーロッパのバイヤーさんに見てもらうにしても、陶器そのままでは受け入れられないと思うので、その辺をそれぞれで考えてもらって…。ただ、今、日本酒ブームがあるので、ぐい飲みからスタートして、そのセットを和食器にする方向で持っていけば、陶器でも割といけるんじゃないかなとは思います。あとは、向こうのショーに引っかかるようになればいいですね。私自身も今のバイヤーさんと取引をするようになったのは『Maison&Objet (メゾン・エ・オブジェ)』というショーに出展したのがきっかけでしたから。」

世界最大級の見本市『Maison&Objet (メゾン・エ・オブジェ)』は、フランス・パリで毎年2回、1月と9月に開催されています。家具などのインテリアを始め、暮らしを彩るデザイン関連の商品が集まり、最新技術やトレンドが紹介されています。この写真は、奥田さんが出展した時の様子です。飛田高山で家具を作っている日進木工(にっしんもっこう)さんからのお誘いで出展することができたそうで、日進木工さんの家具と一緒に展示されています。(写真提供:丸直製陶所)
ーー今後、将来に向けて奥田さんが考えていらっしゃることはありますか?
奥田さん:「将来が一番難しいですね。でも『みんなでやっている海外向けの事業がうまくいくといいな』『ヨーロッパへの道筋が少しでもできるといいな』とすごく思います。今まで日本のお客様に喜んでいただくものを作ってきた皆さんが、今度は新たに海外に向けた商品づくりをすることになります。テイストが違うので、また新しく品質の良いものを、今まで培ってきた技術を使って生み出さないといけないんです。でも、そういうのって、ワクワクするじゃないですか。明るいし、より楽しみが増えます。未来があると思うんです。」
■丸直製陶所 http://marunaoseitosho.com/

2025年10月11日(土)~13日(月・祝) 東京 代官山T-SITE MINOYAKIMARKET
2025年10月22日(水)~26日(日) 東京 上野恩賜公園竹の台広場「錦秋展」物販会場
【編集後記】
毎年1月末から2月初めに東京ドームで開催されていた「テーブルウェア・フェスティバル」は、2023年から開催時期と場所を変え、秋に東京ドームシティのプリズムホールで行われるようになりました。今年は2025年11月27日(木)~12月3日(水)の日程で行われるようです。私はこのイベントが大好きで、コロナ禍になる前は、7年ほど、毎年のように出かけていました。日本中の焼き物の産地から器が集まり、展示・販売されるほか、テーブルウェアのコンテストや著名人のトークショーなどもあり、1日いても足りないくらい楽しかったです。「どんぶり百撰」のコーナーで美濃焼を購入したこともあります。もしかしたら、奥田さんから商品説明を受けていたかもしれません。

2015年に東京ドームで開催されたテーブルウェア・フェスティバルの様子。歩きながらのスマホ撮影のため手振れがひどいですが、たくさんのブースが出店され、賑わっていました。
長年海外と取引をしてきた奥田さんの経験を踏まえると、海外での販売を成功させるためには『いかにその国の好みを理解するか』『信頼できる大手卸会社と出会えるか』が鍵になりそうですね。国内の企業の中には、『国内販売だけでは生き残れない』と、海外販売へ力を注ぐ企業が増えたように思います。技術やデザインを真似される不安要素もありますが、オリジナルの技術はそう簡単に真似ができるものではないはずです。日本の素晴らしい技術を残すためにも、海外を視野にいれたものづくりは、すでに当たり前なのだと実感しました。
ものづくり新聞 小柴寿美子
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