産地を訪ねて
25
2025.07
日本工芸産地博覧会レポート②南部鉄器「及源鋳造」・木のおもちゃ「こまむぐ」・ガラス「菅原工芸硝子」

2025年7月25日 公開
日本工芸産地博覧会2025が、6月16日(月)~18日(水)までの三日間、大阪・関西万博内のEXPOメッセ「WASSE」で行われました。このイベントは「工芸産地へ行くことが旅の目的になって欲しい」と願って、日本工芸産地協会と読売新聞の共催で行われたものです。

全国各地から手仕事の工芸に関連した20社が参加し、大阪弁で「どや」と自慢できる商品の展示や販売を始め、職人による実演や体験なども行われました。3日間の来場者は約4万人!ものづくり新聞では、取材してきた内容を4回にわたってレポートします。
今回はその第2回目。ご紹介するのは、こちらの3社です。

■及源鋳造株式会社(岩手県奥州市)南部鉄器
■株式会社こまむぐ(埼玉県川口市)木のおもちゃ
■菅原工芸硝子株式会社(千葉県九十九里町)ガラス
南部鉄器「鉄鍋」を作り続けた170年/及源鋳造株式会社
東北の岩手県奥州市水沢から出展していたのは、南部鉄器の「及源鋳造(おいげんちゅうぞう)」です。創業は1852年。約170年にわたり、伝統工芸「南部鉄器」の技を受け継ぎ、急須や鍋、風鈴など、鉄を素材とした暮らしの道具を作り続けてきました。

南部鉄器というと、私は下の写真のような鉄瓶急須の印象が強いのですが…。

及源鋳造の一押しは「鉄鍋」!鉄鍋は蓄熱力が高いので、短時間で一気にご飯を炊くことが出来ます。そのため、お米がふっくらして、それだけでご飯がご馳走になるそうで、当日は、鉄鍋を使ったご飯の炊き方の実演が行われていました。しかも、この鉄鍋、IH対応なんです!

自社の歴史を振り返り、次世代への継承を考える機会に
及源鋳造株式会社 代表取締役社長 及川久仁子(おいかわ くにこ)さんです。1984年に入社し、2007年に及源鋳造5代目の社長に就任。商品開発やブランディングに力を入れ、「民芸品」や「お年寄りが使うもの」のイメージが強かった南部鉄器のイメージ払拭に取り組んできました。

及川さんが手にしているのは(写真上)、1975年に発表された鉄製のすきやき鍋。GOOD DESIGN AWARDのグッドデザイン賞を受賞し、その後、ロングライフデザイン賞を受賞しました。50年にわたり、及源のデザインを担当しているデザイナー廣瀬愼(ひろせ まこと)さんの初期の作品で、CADでは作れない柔らかな鋳肌(いはだ)が「鋳物」の原点を教えてくれる作品だそうです。及川さんに、博覧会に参加した目的とこれからどう成長していきたいかなど、お話を伺いました。
ーー今回、このイベントに参加した目的は何だったのでしょうか?
及川さん:「『「産業」としての工芸』という本によると、工芸は明治時代に誕生し、160年ぐらいの歴史があるそうなんです。うちの会社は創業して約170年。そう考えると、私たちって東北の工芸そのものだなと。それを1回振り返って、見直してみるというのが、私たちにとっての万博だったんです。何か物を売るというよりも、自分たちでどういう風に次の時代に持っていくかを『振り返る』、そういう機会にしようと思いました。」
デザインが活かされた鉄鍋の50年
1960年からの50年間は、暮らしも価値観もめまぐるしく変化した激動の時代。及源鋳造は、その50年間に焦点を当て、「鉄で暮らしをカタチづくる 覚悟の50年史」と題し、このイベントのために、自社製品の鉄鍋の移り変わりを展示しました。

及川さん:「1960年には日本昔話の囲炉裏にぶら下がっているような鉄鍋(写真下・奥)でした。南部鉄器を代表するすき焼き鍋と言えば、松竹梅や菊の模様が主流でしたが、それが1975年になると、デザイナーが入って、当時のライフスタイルに合わせたデザイン性のある鉄鍋を作るようになったんです。それ以降も、例えば、ガスがIHになるとか、核家族になっていくとか、お母さんが壁に向かって料理していた台所がアイランドキッチンになっていくとか、いろんな暮らしの変化がある中に、私達の調理道具がありました。」

及川さん「このお鍋(写真上・手前)は50年ぐらい前(1972年発表)に作ったんですけど、これができたときは、南部鉄器はこれでしょ(写真上・奥)と言われていたので、この鉄鍋自体が全く市場に相手にされませんでした。でも、当時『私の部屋』というショップのバイヤーさんに見つけてもらって、雑誌に載ってからはバーッと売れました。」

及川さん:「1975年の鉄鍋と、1976年の鉄鍋(写真上)は両方ともグッドデザイン賞を取りました。南部鉄器はデザインでも認められるんだってことをデザイナーが証明していって、自社のデザイナーを育てていったという歴史がありました。でも、デザイナーが要求するクオリティに仕上げていくのって、やっぱり現場は大変なんですよ。そういったことも合わせてやってきたなと思います。」
海外進出へのハードルは国ごとに違う食品摂取物質の規制
ーー海外展開も視野に入れていらっしゃいますか?
及川さん:「海外はすでに取り組んでいます。鉄瓶急須は日本のものなので、フランス、パリの人たちは大好きです。でも私達は鉄鍋を売りたいと思っています。海外にも鉄鍋はいっぱいあるんですよ。ただ、鉄鍋は国ごとに食品接触物質の規制が違うので難しいんです。アジアの国に関してはすでに調べてもらっていて、韓国や台湾はOKでした。中国はまだちょっとわからないですね。これからEUがさらに厳しくなりますしね。」
ーーやはり、海外にも売り出していきたいんですね。
及川さん:「そうですね。でもうちは、それほど生産量がある会社ではないので、例えばドイツやオーストラリアなど、まずそこのパートナーさんと一緒にやっていければいいなって思っています。海外の方から学ぶこともすごく多いので、情報交流の場としても、行き来は必要だと思います。」
目指せ「工芸観光」
ーー今後、会社としてどういう成長や変化をしていきたいと思われますか?
及川さん:「岩手は北の国で、首都圏や関西からも遠いところですが、工芸観光として、ぜひ、直接岩手のショップにお越しいただきたいです。また、公式のweb サイトからお買い物をしていただくことで、会社も成長していくことにつながると思っています。そのためにOIGENは、魅力的な商品をつくり、しっかりとご説明をしてお客様に寄り添っていきたいと思います。」
職人さんは45名。26歳が一番若く、70~80代と年配の方も多いそうです。力が必要な職場なので、若手の人材を募集中とのことでした。

工場見学や、鉄鍋を使ってパンを焼いたり、ご飯を炊いたりするワークショップなども開催しています。夏は鉄の風鈴に絵を描くワークショップが子どもたちに人気だそうです。鉄のフライパンや鍋の扱い方についても伺ったので、ぜひ参考になさってください。
豆知識💡鉄のフライパンや鍋の扱い方
1)使用する際は、必ず温めて表面の湿気を飛ばしてから油を入れて調理すること。こうすることで鉄器に油が良くなじみ、食材がくっつくことを防げる。2)洗剤で洗いすぎないこと。たわし(金属不可)を使い、温水で洗うくらいが良い。
3)洗った後は、温めて表面の湿気を飛ばし保管すること。
■及源鋳造 オフシャルサイト https://oigen.jp/
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
子どもが遊びたくなる木のおもちゃを/株式会社こまむぐ
続いては、埼玉県川口市に工房を構え、木のおもちゃを製造している「株式会社こまむぐ」です。どんぐりをモチーフにした可愛らしいおもちゃが展示されていました。おもちゃの下にビー玉が入っていて、坂をコロコロ転げ落ちる姿がユニークです。今回、万博に合わせて、青と赤の万博カラーでコロコロ動くおもちゃの限定商品を約80個作ったそうですが、2日目が始まって早々に午前中で売り切れてしまったそうです。

木型屋から木のおもちゃ屋へ
代表取締役の小松和人(こまつ かずと)さんです。創業は2016年。「子どものよりよい笑顔のために」をスローガンに掲げ、子どもの暮らしの中で遊びを育てるツールとなる「木のおもちゃ」作りに励んできました。現在(取材時:2025年6月)、職人さんは9名。全員女性だそうです。小松さんに、木のおもちゃづくりにかける思いと、将来への展望などを伺いました。

ーー私、10年ほど前ですが、以前、ネットでこのおもちゃを見つけて、可愛くて、出産祝いに送ったことがあるんです。コロコロ転がるおもちゃを赤ちゃんが嬉しそうに見ていると友人も喜んでくれました。
小松さん:「そうだったんですか!ありがとうございます。嬉しいです。その頃は個人でやっていた頃かもしれませんね。うちは、父が川口で、鋳物に使う木型を作る木型屋をやっていました。小さな町工場だったので、職人は僕を入れて2、3人。僕は3代目だったんですけど、50年続いていた父の会社は2002年に潰れちゃったんです。でも、機械と場所を残してくれたので、自分の子どもが生まれたことをきっかけに、木のおもちゃを作ってみようと思って、2003年、23歳の時に個人で始めました。」

ーー個人でスタートさせた事業が、今や会社になって従業員もいるなんてすごいですね。
小松さん:「でも、創業するまでに13年あったので、結構時間はかかりました。個人でやっていた頃は、もっと色気のない、赤ちゃん用のガラガラなど、素人が作ったような木のおもちゃを作っていたんです。1日中、作って、車に積み込んで、日本全国、車中泊しながら1軒1軒飛び込み営業する、そんなことをやっていました。そのご縁で徐々に事業が広がっていった感じです。今では百貨店を含め、全国250店舗のお店に直接、商品を置いてもらえるようになりました。」
万博へ挑む経験とそこで出会う職人たちとの交流への期待
ーー万博に出展にしようと思ったきっかけは何だったんですか?
小松さん:「2年前(2023年)に、日本工芸産地協会さんが大阪府吹田市の万博公園でやったイベントに声をかけていただいて、出展させてもらったんです。その時に、いろんな職人さんたちにお会いできて面白かったんです。ここに集まっている人たちは、日本の伝統工芸の先端を走ってらっしゃるクリエイターの方たちばかりなので、色々勉強になりますし、交流を深めたいと思って参加しました。そもそも、前回の大阪万博って50年前ですし、万博に出られる機会って中々ないじゃないですか。その経験はすごく大きいと思うんです。今回出展するにあたって、ワークショップの有料禁止とか、いろいろ条件があったんですが、どう工夫して売り上げを上げるか、社員に経験して欲しいというのもありました。」

帽子を接着剤でくっつけたり、ビー玉を入れたりして、木のおもちゃを作る実演。
子どもが遊びたくなる木のおもちゃ作り

ーー先ほどから、子どもたちが目をキラキラさせて、小松さんの糸鋸(いとのこ)作業に見入っていましたが、下書きもなく一筆書きのように糸鋸で作品を作れちゃうんですね!
小松さん:「最初は糸鋸を使って、木で何か製品を作ろうと思っていたんですけど、しゃべりながらできることを…と初日にひらめいたのが、このスタイルでした。子どもたちに話を聞いたら、今、学校で糸鋸ってやらないそうなんです。だから、間近に見てもらって、あの時、おっちゃんが作っていたの面白かったなって思ってもらえるといいなと思いました。ものづくりをやってみたい子が1人でも増えたらいいですね。」

ーー頭の中に、絵のイメージがあるんですか?
小松さん:「スタートは見切り発車です。ブレーメンの音楽隊(写真下)は、最初からイメージして切っていますが、なんとなく切っているうちに着地点が決まるみたいな感じです。普段、僕はもう製造にはあまり関わっていないので、こういう作業をするのは久しぶりです。」

ーー久しぶりでこれですか!凄いですね~。普段、どんな風にものづくりをしていらっしゃるんですか?
小松さん:「うちは、今、木のおもちゃに特化したものづくりをしていますが、元々木型屋なので、結構技術が細かいんです。木型って、お客さんに合わせて物を作るので、糸鋸とか、旋盤とか、いろんな機械を使って仕事をするんですが、その『木型の技術を生かしたものづくりをしていこう』というのがまず一つあります。もう一つは『子どもがしっかりと遊べる遊びやすいおもちゃを作ろう』というのはすごく大事にしています。コンセプトの中で、『子どものうちに木に触れて欲しい』というのがあるので、ただ単に飾っておくのではなく、『子どもが手に取って遊びたくなる欲求を引き出せるものづくり』をしたいと思っています。」

糸鋸を使い、一筆書きのように作るので、完成すると下の写真のように分かれます。どちらを飾っても素敵ですね。

遊びの価値観を高め「衣食住遊」へ

ーーこの万博から次の目標などは考えていらっしゃいますか?
小松さん:「2016年創業なので、ものづくりとして、僕らはかなり若い会社です。ちょっと大げさかもしれないですけど、しっかりと次世代に残せるようなものづくりをしたいと思いますね。そのためには、社員教育や職人の育成もしたいですし、ただものを作るだけじゃなくて、工芸と呼ばれるような、美しくて技術が洗練された川口のものづくりを僕らは目指していきたいと思っています。あとは、子どもは起きている間、ほとんど遊んでいるので、衣食住ってよく言いますが、そこに遊びも入れて『衣食住遊』になるように、遊びの価値観を高めていけるような会社にしていくことが目標ですね。」

ーー海外進出は考えていらっしゃいますか?
小松さん:「もちろん海外に持って行って、展示会をやりたいなと思うんですけど、まだまだ全然海外展開はできていないですね。だから、万博でいろいろ関わらせていただいて、どう海外に売っていくか勉強したいと思っています。」
こまむぐでは、毎週土曜日に予約制で工場見学を行っています。毎回ほぼ予約で埋まるそうなので希望する方はお早めにどうぞ。どんぐりコロコロおもちゃの絵付け体験や小さな手作りおもちゃを作る体験なども行っているそうです。
■こまむぐ 公式サイト: https://comomg.co.jp
■こまむぐ 公式通販サイト: https://shop.comomg.jp/
■こまむぐ 越境ECサイト : https://comomg.com
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ガラス素材に新たな価値を/菅原工芸硝子株式会社
次にご紹介するのは、1932年創業、千葉県九十九里町に工房を構え、90年以上に渡り、手作業でガラス製品を製造している「菅原工芸硝子株式会社」です。

ガラス職人は約30名。年齢は20代から70代と幅広く、3分の1が女性職人だそうです。ガラス作りは、ガラスが冷めてから固まるまでのわずかな時間で複数の職人が連携して一つの製品を作るので、短時間で精度の高い作業をするため高度な技術が必要なうえ、体力勝負なところもあります。手作りのメーカーの工房で女性が活躍しているところは珍しく、よく驚かれるそうです。

代表取締役社長、菅原裕輔(すがはら ゆうすけ)さんと、その奥様で、取締役、広報担当の菅原加代子(すがはら かよこ)さんです。加代子さんは、2003年に入社。2015年、取締役に就任。現在は、直営店の担当取締役として、直営店の運営やイベントなどの企画・運営、製品開発などに携わっていらっしゃいます。加代子さんに、普段の工房の様子や、最近取り組んでいるSDGsを意識した新製品について、お話を伺いました。
10年間燃やし続ける溶解炉

ーー今回この万博にはどんな思いで参加されたんですか?
加代子さん:「ガラスは、世界的に見ると、ヨーロッパの方が本場ですが、万博という舞台で、たくさんの方に、千葉にこんな面白いガラスを作ってる会社があるんだということを、ちょっとでも伝えたいと思いました。ガラスって涼し気じゃないですか。それに素材としての面白さもあると思うんです。最初は白い砂なのに、煮溶かして固まると透明になるんです。光が差し込むとキラキラして、影の模様まで綺麗じゃないですか。そんなガラスの魅力をもっともっとたくさんの方に知っていただけたら嬉しいです。」
ーー普段、職人さんはどんな風にお仕事していらっしゃるんですか?
加代子さん:「珪砂(けいしゃ)という海の白い砂が主原料なんですけれども、溶解炉で16時間、1400度ぐらいの温度で一晩かけて煮溶かすと、マグマのように赤い水あめ状に変化します。翌朝8時から夕方5時まで製造して、次の日の原料を入れて、また一晩煮溶かすを繰り返します。溶解炉は基本、大体10年間ぐらい、火は途切れずに燃やし続けます。夜も原料の煮え具合を調整しながら火を守る番人がいるんですよ。」
ーーえー!10年間もずっとですか!?
加代子さん:「はい。それならば24時間稼働できるんですねってよく言われるんですが、溶かす時間が必要なので、製造自体は8時間しかできないです。」

高熱を使う作業は会場の中ではできないため、九十九里の工房と万博の会場をオンラインで繋ぎ、職人さんの作業をライブ配信していました。職人さんに直接その場で質問することができ、立ち見が出る回もあるほど、にぎわっていました。
ガラス職人はデザイナーでもあり、年間4000種類をキープ
ーー御社のものづくりには、どんな特徴がありますか?
加代子さん:「結構皆さんに驚かれるんですけど、デザイン部とかデザイナーが社内に1人もいないことですね。外部のデザイナーさんとコラボした製品を作ることもありますが、基本的には、職人たちがデザインも考えています。…というのも、実はガラス工芸ってすごく制約が大きくて、手工芸ではあるんですけど、溶かしたガラスは1400度と熱いので、自分の手では扱えないんですよ。直接、手で触れることはできないので、竿から息を吹き入れたり、道具を使って伸ばしたりして自分の意図する形にします。日々ガラスに接している職人だからこそ見出すことができるガラスの特性や、美しさを生かしたデザインを考えられると思うのです。そこが他の手工芸とはだいぶ違うところだと思います。」

見本として展示されていた溶けたガラスを入れるルツボと、その溶けたガラスを巻き取る竿。竿は、息を吹き入れられるように空洞になった鉄パイプ。
加代子さん:「今は、新作を年間で大体80種類ぐらいは発表していて、カタログに載せている総製品数は4000種類ぐらいとなっています。」
ーー4000種類!そんなにあるんですか!?
加代子さん:「結構な多品種、少量生産なので、製造の管理もすごく大変です。職人は、ガラスに無理がなく、ガラスならではの面白い表現ができないかなと日々考えながら作っています。ガラスって、ルツボから取り出してから、あっという間に固まってしまうので、成形する時間は正味1分ほどしかないんです。原料を竿に巻き取る職人がいて、ガラスを吹く職人がいて、切り離す職人がいて…という感じで、だいたい2人から5人ぐらいで連携してガラス作りをしています。」
ーー体力勝負なところもありそうですね。夏場は特に大変そう…。
加代子さん:「夏は本当に大変です。休憩も多く取ってもらい、熱中症には充分気をつけています。入社試験を受けていただく方には、必ず夏場に工房見学に来ていただいています。実際に暑さを体験していただいて、それでもやりたいと思ったら応募していただくようお願いしているんです。」
SDGsに特化!ガラスの廃棄物を極力減らす取り組み
菅原工芸硝子では、8年ほど前からSDGsに関する取り組みに力を入れてきました。
加代子さん:「まず、2017年、検品を通らなかった製品に後加工を施して価値を加える『リワーク』という取り組みを始めました。検品の際、照明を当て、厳しくチェックするんですが、ガラスに気泡や筋が見つかると、割れたり欠けたりしていなくても検品を通らないんです。検品を通らなかったものは私共の会員制度を利用して、メンバー会員様向けにお求めやすい価格で提供しているのですが、『価値を下げるのではなく、逆にそれを活かすような加工を施して、違った見せ方を楽しんでもらおう』と考えました。」

パール状の塗料をコーティングして焼き付ける「ラスター加工」を施したリワークのグラス。メタリックっぽい不思議な光沢感が出るのが特徴。元々難あり商品を加工するので、正規品に加工品した製品に比べると安く提供できる利点もある。
加代子さん:「次に、2020年から始めたのが、色や不純物の混ざった端材も使う『リサイクル』です。実は、ガラスって、また溶かして原料として使うことが出来るので、元々再利用性には優れているんです。端材に関しては、色別に分けて、これまでも再利用する取り組みを行ってきました。ですが、竿に密着した部分の端材には、竿の成分である鉄が不純物として含まれたり、複数の色を使用する製品は、端材を色別に分別できないため再利用はできず、回収業者さんに回収していただいて廃棄していました。それらを使って製品を作ると、発色に影響を与えてしまうからなんです。でも、色合いの問題なら、それを特徴として楽しんでもらおうと考えました。」

加代子さん:「リサイクルに使用する端材の配合によって製品の発色も濃淡も様々で、こちらではコントロールできません。でも、逆に『一期一会』として、その時にできた色をお客様が気に入ってくださったら買っていただこうということで発表しまして、大変ご好評いただいています。」

「はさんで はさんで」というガラスプレート。ガラスが熱いうちに、トングのような道具でガラスを挟みながら引っ張って作る。凹凸が生れ、より一層輝きが増す。左側はリサイクルカラー。
加代子さん:「3つ目は、今年(取材時:2025年)から始めた『インパーフェクト』です。『完全ではない』という意味で、従来使用して来なかった、天然由来の不純物が含まれる原料を使用する取り組みです。」

加代子さん:「実は、通常の製品は、溶かしたガラスの綺麗な上澄みのようなところだけを使って作るんですけれど、天然の原料にはどうしても不純物が含まれていて、溶け残ったものを使うと、筋みたいなものが出来てしまうんです。これだと、通常の検品は通りません。でも、もしかしたら、これも味わいとして楽しんでくださる方がいるかもしれない。今まで使ってこなかった不純物が含まれた原料部分を、あえて使った製品を作ることで、さまざまな物質が生み出す偶然の表情を楽しんでもらおうと考えました。この原料も元を辿れば珪砂という地球の大切な資源ですから。」

不純物が含まれた原料で作ると、筋が出来てしまう。これを味わいとして提案したインパーフェクトのコップ。完ぺきではない美しさが魅力。
職人の思いや手間を伝えて価値を高めたい

ーー海外にも進出されているんですか?
加代子さん:「店舗はないんですが、主要な国は、今、代理人さんに現地での販売をお願いしています。」
ーー今後、手仕事のものづくりに必要なことは何だと思いますか?
加代子さん:「今、日本はものに対しての価値が過渡期にあると思っているんです。紙コップや100円ショップのグラスでも飲めればいいと思われたら、何千円する私どもの手作りのガラスのコップはいらないって思う人もいるかもしれません。でも、どういう思いで職人たちが作り、手間をかけて作っているかを知って使ってもらえたら、ただのお水さえも美味しく感じていただけるようになるかもしれません。これが欲しいって思っていただけるような活動をしていくためには、ものづくりの思いを伝えることがすごく大事だと思います。」
千葉県九十九里にあるガラス工房では、土日だけオンラインで30分程度、工房見学を行っています。予約が必要ですのでサイトからお申し込みください。また、敷地内にはショップやカフェが併設されていて、お買い物を楽しんだり、ランチや季節のスーツ、ドリンクなども楽しむことが出来ます。
■菅原工芸硝子株式会社 オフィシャルサイト https://www.sugahara.com/
■菅原工芸硝子オンライン工房見学 https://www.sugahara.com/story/online/
■Sghr cafe kujukuri エスジーエイチアールカフェ 九十九里
http://sghrcafe.com/kujukuri/
【編集後記】
昔に比べると、原料も燃料も値上げが激しく、海外に持って行くとなると、輸送コストもかかるので、日本の何倍かの値段になってしまうというお話もありました。それでも、出展していた企業の皆さんは、すでに海外進出をしていたり、海外進出を視野に入れていたり、世界を見据えたものづくりをしている企業が多いように思いました。お話を伺えば伺うほど、購入意欲をそそられる商品ばかりで、それぞれの工房にもぜひ足を運んでみたくなりました。
ものづくり新聞 小柴寿美子
<日本工芸産地博覧会2025 関連記事>
大阪・関西万博で日本の工芸と産地に出会う~日本工芸産地博覧会
レポート② 南部鉄器/及源鋳造・木のおもちゃ/こまむぐ・ガラス/菅原工芸硝子(本記事)
