産地を訪ねて
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2025.07
日本工芸産地博覧会レポート③輪島塗「田谷漆器店」・木製品「Hacoa」・陶器「育陶園」

2025年7月30日 公開
日本工芸産地博覧会2025が、6月16日(月)~18日(水)までの三日間、大阪・関西万博内のEXPOメッセ「WASSE」で行われました。このイベントは「工芸産地へ行くことが旅の目的になって欲しい」と願って、日本工芸産地協会と読売新聞の共催で行われたものです。

全国各地から手仕事の工芸に関連した20社が参加し、大阪弁で「どや」と自慢できる商品の展示や販売を始め、職人による実演や体験なども行われました。3日間の来場者は約4万人!ものづくり新聞では、取材してきた内容を4回にわたってレポートします。
今回はその3回目。ご紹介するのは、下記の3社です。

■株式会社田谷漆器店(石川県輪島市)輪島塗
■株式会社Hacoa(福井県鯖江市)木製品
■有限会社育陶園(沖縄県那覇市)陶器
輪島塗で能登の復興に貢献したい/田谷漆器店

最初にご紹介するのは、石川県から参加していた輪島塗の田谷漆器店(たやしっきてん)です。岸田前総理大臣が、アメリカのバイデン前大統領に贈ったコーヒーカップ(写真下)といえば思い出す方も多いのではないでしょうか?そう!この美しい青い輪島塗を作ったのが田谷漆器店です。

写真提供:一般社団法人日本工芸産地協会
2024年の元日に起きた能登半島地震から1年半が過ぎました(取材時:2025年6月)。展示されていたのは、被害を免れた貴重な漆器や、壊れた漆器に金継ぎを施して修復した漆器たちでした。

輪島塗が世界に向かっていく姿を見せたい
田谷漆器店 代表 田谷昂大(たや たかひろ)さん、34歳(取材時:2025年6月)です。大学を卒業後、輪島に戻り、24歳で入社しました。祖父、父と一緒に経営に関わり、2024年、震災後に代表となり、田谷漆器店を取り仕切ってきました。田谷さんに、大変な状況にも関わらず出展を決めた思いや、これからの展望などを伺いました。

ーー被災されて大変な状況の中、出展しようって思われたきっかけは何だったのでしょうか?
田谷さん:「万博に1度も出たことがないので出てみたいというのと、日本の伝統工芸である輪島塗が世界に向かって行く姿を、僕らの会社で描いていきたいと思いました。それなりに経費はかかりますが、それよりも輪島塗を知っていただくきっかけになると思っています。」
ーー実際に万博会場のイベントに参加されて、いかがですか?
田谷さん:「お祭りみたいで面白いですね。学園祭を思い出しました。万博はそれを国単位でやっていて、いろんな人が来て、ここには伝統工芸を見に来てくれて。いつもは、輪島塗を買おうと思って来てくださる方が多いですけど、今回は『これが輪島塗なんですね』っておっしゃる方もいました。万博を目的に来ているので、輪島塗を見ようと思って来た方は、ほとんどいないと思うんですよね。そういう輪島塗に触れたことのない方に知ってもらう良いきっかけになったと思います。」

124の工程、決められた技法を守って作る輪島塗
輪島塗は「堅牢優美(けんろうゆうび)」と言われます。「堅牢」は丈夫であること、「優美」は美しくあること。この2つを兼ね備えた美しく丈夫な漆器が輪島塗です。その技法は江戸時代に確立されたと言われており、昭和52年、国の重要無形文化財に指定されています。

ーー輪島塗の特徴を教えてください。
田谷さん:「特徴は、非常に堅牢な下地と、工程数が多いことですね。お客様に長く美しい状態で使っていただくための最低限の工程数で、124工程あります。」
ーー124工程!?え?そんなにあるんですか!
田谷さん:「だいたい、6~7人くらいの職人が関わって、一つの製品ができあがります。大きく工程を分けると、木地作り、下地、中塗り、上塗り、加飾の5つです。」
ーー期間はどのくらいかかるんですか?
田谷さん:「下地から塗りだけで半年ぐらいかかります。でも塗りは、乾かすという工程があるので、ずっと触っているわけではないです。もう一つの特徴は、技法が決められていることですね。その技法を守って作らなければいけないのが輪島塗なので、それが他の産地との違いだと思います。」
ーーそれは、どんな技法なんですか?
田谷さん:「輪島塗は最初に布を張って作るんです。お椀の底の部分に布があるでしょ(写真下)。落としても割れないように、強度を高めるためです。糊のついた漆で布を張っていって、その上から珪藻土(けいそうど)を3回塗って、それで下地が終わります。強度を高めるというのと、断熱効果があります。熱伝導率を悪くするので、冷たいものは冷たく、熱いものは熱いままで保つことが出来ます。」

お椀の縁や底など、壊れやすい部分に布を張る作業のことを「布着せ(ぬのきせ)」という。輪島塗の下地が堅牢と言われるのは、この布着せによるもの。
田谷さん:「輪島塗は下地がすごくしっかりしているので、2、3年時間が経つと輪島塗だってわかります。僕らは『ヤセ』って言うんですけど、下地がちゃんとしていないと、漆の表面に木目が出てくるんです。痩せていくから。あと、輪島塗は、全て天然の漆を使っています。今は、ほとんど化学塗料ばっかりで、化学塗料の上に、天然の漆を上塗りするものもあるんですよ。塗りたてだと見分けるのは難しいかもしれませんね。」
変化する若者の価値観「良いものを長く使いたい」

田谷さん:「これが沈金(ちんきん)です(写真上)。「沈める金」と書きます。のみで掘って、掘ったところに金を沈めていくんです。なので、沈める金で沈金です。」

田谷さん:「これが『蒔絵(まきえ)』です(写真上)。蒔絵は、色の付いた漆で絵を描いていって、上から金粉を撒いていきます。こういう模様のつけ方は、輪島独特ですね。」
ーー豪華ですね!このクラスはお値段も凄い!どんな方が買って行かれますか?
田谷さん:「輪島塗の場合、50万以上のクラスになると、お金があるだけではなくて、日本の文化に造詣(ぞうけい)が深い方が買って行かれますね。みなさんにお話を伺ってみると『ブランド品はもういいや、海外旅行も行ったしな、あとは家でゆっくり過ごしたいな』っていう、家の中で調度品として楽しみたい方が多いですね。」
ーーやっぱり、そういう富裕層の方が購入されるんですね。
田谷さん:「でも、昔と変わってきたと思うのは、『いいものを使いたい』っていう若い子も結構買ってくれるところですね。昔みたいに大量消費で大量購入の時代でもない。『自分の気に入った器を長く使いたい』ってなると、3万円のお椀って別に高くないんです。若い子だって3万円のコートは普通に買うじゃないですか。とはいえ、3万円のお椀は、なかなか高いとは言われますけど、買う力がないわけではなくて、興味があって、好きだったら買ってくださるんですよ。最近そういう若い子が増えてきたと思います。」
輪島塗を目的に輪島に来てもらい、輪島の活性化につなげたい

ーー海外に進出もしていらっしゃるんですか?
田谷さん:「僕らは海外ばっかりです。逆に、ここで日本人に向けて輪島塗を見せられるっていうのはすごくいいですね。」
ーーそうですか!逆なんですね。今後の展開として、何か考えていらっしゃることはありますか?
田谷さん:「そうですね。いろいろ取り組んではいるんですが、輪島の復興に、僕らは貢献しなければいけないと思っているので、こうやって売りに出ることも大事なんですけど、輪島塗を買いに、輪島に来てもらえるようなことをやっていきたいです。輪島に来てもらえれば、輪島塗だけではなくて、能登全体の活性化につながりますから。」
取材をした日の前日(2025年6月17日)は、輪島では、仮設の新しい工場の建物3棟(下地工場、上塗り工場、加飾)が完成した記念すべき日でもありました。先日、その上塗り工場の今の様子(2025年7月)を写真で送っていただきました。いよいよ8月から稼働できそうだということです。一日も早い復興をお祈りいたします。

写真提供:株式会社田谷漆器店
田谷漆器店 オフィシャルサイト https://www.wajimanuri.co.jp/
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デジタルとアナログが融合した木製雑貨/株式会社Hacoa
次にご紹介するのは、福井県鯖江市(さばえし)で木製デザイン雑貨を作る株式会社Hacoa(はこあ)です。「Hacoa」は、木の良さを前面に出したブランドとして、2001年に誕生しました。

創業は1962年。元々は、越前漆器のお盆や重箱などの漆を塗る前の木地づくりをしていた山口木工所という名の工房だったそうです。ライフスタイルの変化から、漆器の需要が減っていく中、木地づくりの伝統技術を生かしつつ、革新的なものづくりをする企業へ転換しました。
圧密の国産杉を使った木製品で環境保全を!
Hacoaの執行役員で、ブランド戦略室の室長を務める前田元紀(まえだ もとき)さんです。前田さんは、2013年に入社。2年前、ブランド戦略室長に任命され、広報・企画を中心に、ブランド価値を高める取り組みに力を注いできました。前田さんの仕事は一言で表すと『未来づくり』。ブランドの魅力を届けるため、地道に、そして丁寧に伝え続け、100年先にも魅力が伝わるモノ・コトづくりを心がけているそうです。前田さんに、最近、製造を始めたという環境に配慮した木製品と、今後に期待することなどのお話を伺いました。

ーー今回のここに展示してある商品の特徴を教えてください。
前田さん:「せっかくの万博ということで、新しい取り組みとして、SDGs的な環境に配慮したものを展示しました。ちょうど万博の前から『Gywood®(ぎゅっど) 』という素材を使った商品作りを始めていて、万博で初めてお披露目しようということで、今回準備しました。」
ーー「Gywood®」という素材名なんですね。
前田さん:「はい。ナイス株式会社さんの技術で、国産の杉材をギュッと圧縮した『圧密杉(あつみつすぎ)』というものを使用しています。」

ーーこんなに薄くなるんですね!
前田さん:「そうなんですよ。私たちは、普段、広葉樹と呼ばれる硬い木材を使っているんです。弊社の技術は伝統の木地づくりが元になっているので、すごく繊細な加工、緻密な加工をするんですけど、国産のスギとかヒノキっていう針葉樹の木材は、柔らかくて、どうしても加工に耐えられなかったり、耐久性がクリアできなかったりという課題があって、なかなか商品化に至らなかったんです。なんとかして国産材を使いたいと思って取り組んでいた中、『Gywood®』のお話をいただいて、製品化が始まりました。」

「Gywood®」の商品。木材に圧力をかけて圧縮した「圧密杉」を材料に商品化にしたもの。
前田さん:「国産材を活用することは、日本の森林環境の保全にも繋がると思うんですが、今、山の中にある木って、すごく高齢化して大きくなり過ぎているんです。そうなると、木の価値が下がっちゃって、赤字にしかならないから、山の人たちも切りたがらないんです。なので、その材料の価値を上げるために『Gywood®』が生まれたんです。『Gywood®』を使った木製品を作って、どんどん活用の場を広げていくことで、環境保全につながるという取り組みを多くの方に知ってもらいたいという思いがあります。」
デジタルグッズに木製品で癒しを
ーー普段作っていらっしゃる商品には、どんな商品がありますか?
前田さん:「お店で扱っているのは、時計や文房具など、身の回りのあらゆる木製のアイテムです。特徴的なのは、デジタルグッズに木を取り入れているところですね。『Hacoa』というブランドを最初に方向性付けたのがこのキーボードです。」

ーーかっこいいですね!
前田さん:「普段プラスチックで作っているものに木を取り入れて、ビジネスの中でも、ちょっとした木の癒しを感じてもらいたいなと思っています。漆器って、ライフスタイルの変化で、中々使わなくなってきていますが、技術を継承していくためには、現代のものを作っていかないといけないと思うんです。デジタルグッズだったり、仕事で使える名刺入れだったり。そういったものを作り始めたのがHacoaです。ブランド自体は2001年にスタートしました。」
アナログの職人の凄さを知ってもらいたい

ーー万博のイベントに参加しようって思われたのは、どんな目的がありましたか?
前田さん:「元々日本工芸産地協会が発足した当初から私たちも参画していまして、ずっと『万博に出たい』っていう話をしてきたんです。日本工芸産地協会のイベントも5年前からスタートして、みんなで一緒に運営を考えながらやってきました。過去の万博に関わったことがなかったので、万博はやっぱり憧れます。ここで出られなかったら次いつになるかわかりませんしね。最終的にはここに来た方が産地を訪れることが目標なので、ここがスタートでもあります。」
ーーお客さんの反応はいかがですか?
前田さん:「すごくいいです。日本の工芸自体、まだまだ知らない方もたくさんいらっしゃいましたし、産地に興味を持っていただいた方が多いと思いました。本物というか、職人が作ったものが放つ魅力は段違いですからね。手前味噌ですけど、感動いただけているのが本当に嬉しいです。」
ーーやはり、海外展開も意識していらっしゃるんですか?
前田さん:「はい、もちろんです。海外に向けて絶好の機会かなと思います。ネットショップをオープンしているので、海外でも買えますっていう配信も含めてアピールをしっかりやりたいと思います。」
ーーこの万博でのイベントを踏まえて、今後に期待することは何ですか?
前田さん:「これからの時代、AIも出てくると思うんですけど、改めてアナログでやっている職人の凄さを皆さんに知ってもらって、若い人がどんどん職人になって、これからも日本のものづくりの技術が長く続けばいいなって思います。ここに出展されている方は、みなさんブランディングをしっかりされているので、若い方にもキチンと届いているんじゃないかと思います。」

ミャクミャクをモチーフにして作ったフォトスタンドと卓上時計です(写真上)。万博会場に建設された大屋根リングの端材が使われています。見事、あっという間に売り切れてしまったとのことでした。©Expo 2025
株式会社Hacoa オフィシャルサイト https://hacoa.com/
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沖縄の赤土が生んだ技法「線彫り」/有限会社育陶園
最後は、沖縄県から参加していた有限会社育陶園(いくとうえん)です。沖縄で代々300年にわたり壺屋焼(つぼややき)を作り続けてきた窯元です。壺屋焼は、沖縄県那覇市壺屋地区で生産されている陶器のことで、沖縄を代表する焼物の一つです。焼物のことを沖縄の方言で「やむちん」といいます。

1998年、6代目の高江洲忠(たかえす ただし)さんが跡を継いでから、那覇市に店舗を構え「育陶園」となりました。法人化したのは2006年。線彫り(せんぼり)という技法を用いた日用品のお皿やカップなどの陶器を中心に、ひとつひとつ、職人の手作業で製造しています。

会場では、職人さんが獅子(シーサー)を手彫りする実演や、ろくろで小さな花瓶を作る実演なども披露され、たくさんの人で賑わっていました。

獅子作りは、現代の名工でもあった5代目、高江洲育男(たかえす いくお)さんの獅子(シーサー)の型を受け継いだもの。ちなみ、この日、実演をしていたのは、そのお孫さんの高江洲勇志(たかえす としゆき)さんで、「どや」コーナーに展示されていたこの獅子(シーサー)も勇志さんの作品だそうです。

こちら(写真下)は定番商品の「ミニミニシーサー」。高さ7cm、幅6cm、奥行きは5cmです。

一方、こちらはそれより小さい「ミクロシーサー」(写真下)。今年出したばかりで、初めての挑戦だったそうです。ミニミニシーサーと比較すると、奥行きは同じものの、高さは2cm低い5cm、幅は半分で3cmという小ささです。お守り代わりにバッグに入れて持ち歩くことも出来そうなサイズ感でした。

白い器への憧れから生まれた『線彫り』
育陶園の工房長、砂川良美(すながわ よしみ)さんです。砂川さんは、焼き物を作る職人に憧れ、21歳でこの道に入りました。最初は女性だからという理由で絵付けを担当することになったそうですが、閉店後の時間を使い、腕を磨いて、ろくろを担当させてもらえるようになりました。窯元の特徴や、どんなところに憧れたのか、職人として今後に期待する思いなどを伺いました。

ーー砂川さんの窯元は、どんな特徴がありますか?
砂川さん:「沖縄の土は、元々『赤土(あかつち)』で、綺麗な白い色の土は取れないんです。だから、この赤土を白くコーティングして、それを彫り込むという技法が生れました。『線彫り(せんぼり)』という技法です。」

線彫りは、線のみで彫刻を施す技法。細かい曲線や細い線などを彫刻する。
砂川さん:「昔の人たちが、白い器にあこがれて、この沖縄にある赤土を使って、いかに器を白く見せるかっていうことを考えたんですね。沖縄に綺麗な白い土がなかったからこそ生まれた技法です。」
ーーこれは伝統的な柄なんですか?
砂川さん:「唐草模様っていうんですけど、沖縄ではいろんな唐草を書く人がいます。この唐草は、育陶園のオリジナルの唐草です、今までは職人1人1人の唐草があったんですよ。『これが俺の唐草だ』という自分の唐草が。だけど、この唐草模様が一番売れるとなって、綺麗で美しいし、みんなでこれを引き継ごうとなって、この唐草模様になりました。」

ーー下書きなしで書くんですか?
砂川さん:「はい。下書きなしの一発勝負です。この柄を彫れるようになるまでは、7、8年くらいかかります。」
ーー模様を描くときのコツはありますか?
砂川さん:「コツは、バランスですね。いろんな大きさのお皿に書くので、その器に合わせ、今回は唐草模様を4つ描くとか5つ描くとか、お皿の大きさによって、唐草が綺麗に見えるように描きます。慣れるまでは大変でした。長さが足りなかったり、1本だけ長くなっちゃったりするんですよね。唐草模様は難しくて、私もしょっちゅう練習しています。」

線彫りに使う道具は手作り。昔の古い時計の中にあったゼンマイのようなネジの部分を切って、火で炙って作ったもの。先端が三角の方も、丸い方も両方使って彫る。
砂川さん:「昔は、唐草模様を引き継ぐのは、タブーだったんです。職人が自分で考えて作ったものですから。でも、この唐草模様をみんなで引き継いで行こうってなってからは、その職人さんに教えてもらえるようになりました。今は4人のスタッフが同じ唐草模様を描けます。」
ーーそれでも描ける人は4人しかいないんですね。
砂川さん:「長く居てくれる人に引き継ぎたいという思いがあるので、3、4年はしっかり働いてもらって、技術が身についてきて、向いてそうだなっていう人に少しずつ教えていきます。個人の癖が出ないように、もう少し角度を付けた方がいいとか、割とまめにチェックしています。」

彫った後は、乾燥させ、800度ぐらいの低温で1回素焼きをします。その方が、釉薬(ゆうやく)の艶が出て綺麗に仕上がるそうです。
まるで魔法のよう!ろくろ職人への憧れ
育陶園の従業員は全部で37名(取材時:2025年6月)。20名の職人さんが日々腕を磨いています。

砂川さん:「職人は20人いて、ろくろが7人。絵付けが6人、シーサーを作る人が4人。そして、『タタラ』と言って、土を板状にして型を作るタタラ職人が3人。絵付けをする人はずっと絵付け。ろくろで作る人はずっとろくろ。私は絵付けとろくろの両方に興味がありましたが、最初はろくろを希望して入社したんです。でも、いざ始めてみたら、女の子だから絵付けねと言われてしまい、焼物を作る作業はできませんでした。その後、どうにか、ろくろをやらせてもらえるようになりました。昔は、夜10時まで練習できたので、お店を閉めた後の時間を、ろくろの腕を磨くために使っていましたね。」
ーー居残り練習をしていたんですね。この仕事を始めてどのぐらいになるんですか?
砂川さん:「22年ぐらいやっています。21歳のときにこの世界に入ったんですけど、あっという間でした。」

ーーどうして焼き物を仕事にしようと思ったんですか?
砂川さん:「職人さんがろくろを回してる姿を見て、『なんでこんな魔法みたいなことができるんだろう』って。『かっこいい!』って思いました。魔法みたいに土を扱って、形を生み出す。それを自分の手の中でいっぱいたくさん作れる。本当に魔法みたいでした。かっこいいなーって感動しちゃって。自分が頭にタオルを巻いて、ろくろをしている姿をイメージしたり、夢に見たりしていました。」
ものづくりを次世代へつなげ残していきたい
ーー今回、万博に出展しようと思ったきっかけや目的は何ですか?
砂川さん:「この日本工芸産地博覧会には、2019年からずっと参加してきました。今までは別のスタッフが来ていて、私は今回初めての参加です。沖縄の焼き物、手作りの伝統工芸を知ってもらうきっかけになったらいいなって思います。」
ーー実際に参加してみて、いかがですか?
砂川さん:「思ったより興味を持って来て下さる方が多かったので、とても嬉しかったですよ。」
ーーすごい人だかりでしたものね!今後目指していらっしゃることなどは何かありますか?
砂川さん:「自分の子ども世代には、焼き物を作る職人さんに『かっこいい』って憧れて欲しいし、この技術を受け継いで、繋いでいって欲しいと思います。今、いろんな仕事があるので、若い子が入っても、続かない人が多いです。シビアな話、給料面も、職人はそんなに多くありません。社長も努力してくださって、どんどん賃金は上がってきていますが、それでもまだ安いです。でも、他の所で仕事をして『やっぱり陶芸がやりたい』ってという30代も多いんです。一度他の仕事を経験して、この仕事を選んできた方は、日々技術の習得に励み、充実していると言っています。最後は本当にものづくりが好きな人だけが残るんだと思います。」

育陶園の工房では、陶芸体験も行っています。『線彫り』は、通常の体験では行っていないそうですが、年間1回、特別なワークショップとして開催することもあるそうです。
有限会社育陶園 オフィシャルサイト https://www.ikutouen.com/
【編集後記】
ろくろ職人の手仕事が「まるで魔法のようだった」と嬉しそうに話す砂川さんの笑顔が印象的でした。今回の取材を通して皆さんに共通していたことは、「ゼロからイチを作り上げる楽しさ」。また価格についても、職人さんに相応の報酬が支払われるよう、価格を見直したり、ブランディングをしたりして、それぞれが、その価値を伝える努力をしていらっしゃいます。ちなみに、育陶園のお皿は、20年ほど前までは、今の3分の1の値段で販売したと聞いて驚きました。当初、値段が上がると買わない人が増えるんじゃないかという不安もあったそうですが、「良いものを作っていることは伝わるはず」と信じて、適正価格での販売し始めた所、順調に売れているそうです。今回ご紹介した田谷漆器店の輪島塗や、Hacoaの木製品にも共通していますが、日本工芸産地博覧会に展示されていた商品は、職人さんが日々鍛錬し、腕を磨き、魂を込めて作った手仕事の作品ばかりです。末永く、大切に使いたいものだと思いました。皆さん、ぜひ産地へ行きましょう!
ものづくり新聞 小柴寿美子
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