その「日本製」、どこまで日本製?――覚悟店の16社に教わった、ラベルの向こう側【編集長ニュース解説】

2026年10月6日公開
2026年夏、東京・有楽町で開かれた「日本製の覚悟店」には、2日間で約3,000人が詰めかけました。全国から集まった16社のブースには行列ができ、X(旧Twitter)では「国産製品」がトレンド入り。ものづくり新聞でも、イベントの舞台裏と出店企業の物語を5本の記事でお伝えしてきました。
その取材を通して、ずっと頭に残っていた問いがあります。ところで「日本製」とは、いったい何をもって日本製なのでしょうか。原料が日本産であること? 工場が日本にあること? それとも、日本人が作っていること?
先に結論を書きます。法律上の「日本製」は、品質とは関係のない「地理」の概念です。「日本製」というラベルは、品質を何ひとつ保証していません。それでも私たちが日本製に惹かれる理由――その答えは、覚悟店の作り手たちの言葉の中にありました。
「日本製」は誰がどう決めているのか
まず、ルールの話から始めます。原産国の表示ルールを定めているのは、景品表示法にもとづく告示「商品の原産国に関する不当な表示」(昭和48年公正取引委員会告示第34号)です。この告示は、原産国を次のように定義しています。
原産国とは、その商品の内容について「実質的な変更をもたらす行為」が行われた国。
少しかたい言葉ですが、要するに「その商品の本質を最後に作り込んだ工程が、どの国で行われたか」で決まる、ということです。
衣料品を例にすると分かりやすいと思います。衣料品(靴下を除く)の原産国は「縫製を行った国」と定められています。ですから、イタリアの生地を中国で縫製し、日本でラベルを付けた場合、この服の原産国は中国です。逆に、海外製の生地であっても日本国内で縫製すれば、「日本製」と表示できます。ラベル付けや箱詰め、小分けといった作業は「実質的な変更」にあたらないため、いくら日本で行っても原産国は変わりません。
あわせて、2つ補足しておきます。1つ目は、この法律は原産国の表示を義務づけているわけではない、という点です。景品表示法の建て付けは「消費者に誤認させる表示の禁止」です。2つ目は、食品には食品表示法という別のルールがあり、輸入加工食品の原産国名や、国内製造品の主な原材料の産地(原料原産地)の表示が義務づけられている、という点です。
「原料はどこ産?」に、布団職人はこう答えた
ここで最初の素朴な疑問です。原料・加工・流通のうち、どの段階が国内なら「国産」なのでしょうか。法律の答えは明快で、見るのは「最後に本質を変えた工程」の場所だけ。原料の産地は問われません。
このことを、覚悟店で一番わかりやすく教えてくれたのが、香川県の寝具メーカー「お布団本舗」(岡崎正義商店)の4代目、岡崎翼さんでした。岡崎さんは取材でこう明かしています。綿は国内ではほとんど作られておらず、基本的に外国産。そのうえで、インドの綿は繊維が太くコシがあるから敷布団向き、メキシコの綿は繊維が長くやわらかいから掛け布団向きと、産地ごとの特性を見極めて使い分けている、と。
そして、こう続けました。「どこの国の綿かよりも、布団屋である僕たちが、その布団に合った綿を責任を持って選んでいることが大切」。だからあえて産地を前面に出さず「綿100%」と表記しているそうです。輸入綿を使った布団は、まぎれもない日本製です。そしてその価値は、綿の国籍ではなく、綿を見極める100年の技術に宿っている――原料の問いへの、これ以上ない答えだと思います。
もちろん、対極もあります。岐阜県高山市の「さわたく工房」(大沢建築)は、飛騨産の丸太を1本仕入れ、製材から仕上げまですべて自分たちで行っています。原料から工程まで徹底して地元に根ざすものづくりです。美濃焼の「カネ忠」の須藤真一郎さんも「土の原材料の一部を除き、製造工程はすべて日本国内」と語っていました。原料へのこだわり方は一様ではなく、各社がそれぞれの答えを持っている。それでいいのだ、ということです。
「作る人の国籍は?」に、覚悟店はすでに答えを出していた
2つ目の疑問。日本の工場で、外国出身のスタッフが作った製品は「日本製」でしょうか。法律の答えは、日本製です。作る人の国籍は、原産国の判定に一切関係ありません。
実は覚悟店には、この問いを体現する出店者がいました。着物服ブランド「keniamarilia」を手がけるAjudaの座波ケニアさんは、ブラジル生まれ。参加を申し出るとき、「国籍が違うけれども、コンセプトに合うなら参加させてほしい」と発起人の笏本達宏さん(笏本縫製)に伝えたそうです。笏本さんの返事はこうでした。「ケニアさんはもう日本製をしっかり守っている仲間だから、そんなこと言わないで大丈夫ですよ」。
その座波さんは、取材で印象的な言葉を残しています。日本のものづくりは「使いやすいか」「困ることはないか」「どうしたら喜んでもらえるか」まで考える。その姿勢そのものが、使う人への愛情なのだ、と。日本製の本質を、国籍ではなく「ものづくりに向き合う姿勢」で語る。この言葉は、ブラジル生まれの座波さんが着物文化の担い手であるという事実とあわせて、「日本製=日本人が作るもの」という思い込みを静かに解いてくれます。
なお3つ目の疑問、日本企業が海外の自社工場で作った製品はどうかというと、こちらは法律上「外国産」です。資本の国籍も関係ありません。まとめると、「日本製」を決めているのは工程の地理だけであり、原料も、作る人も、資本も見ていないのです。
では、品質は誰が保証しているのか
「日本製=高品質」というイメージは広く共有されています。しかし原産国表示そのものは、品質について何も語っていません。品質を担保しているのは、規格・検査・データと、各社の技術です。
覚悟店の取材には、その実例がいくつもありました。墨田区のズームは、生地の段階で洗濯・乾燥による縮率を測定し、その数値を型紙に反映したうえで、縫製後に洗いをかけて狙いのサイズに仕上げる「製品洗い」にこだわっています。買った後に洗濯しても大きく縮まないのは、偶然ではなく測定と工程管理の成果です。カネ忠の器づくりを支えているのは、陶磁器試験場に蓄積された強度データや検査体制でした。長野のTOSCOMは、国内に2社しか保有していないという靴下専用インクジェットプリンターで、360度つなぎめのないプリント靴下を実現しています。
つまり品質の正体は、測る、記録する、管理する、という地道な営みです。そしてそれは、理屈のうえでは場所を選びません。ここで、ひとつの論理的な帰結にたどり着きます。もし私たちが「品質」だけを目的に商品を選ぶのなら、突き詰めれば「日本製」である必要はないはずなのです。それなのに、私たちはなぜ「日本製」に手が伸びるのでしょうか。
「知られなければ、存在しないのと同じ」
ここからは筆者の見立てです。
第一の理由は、「確かめられないものの目印」としての役割です。消費者は、店頭やECで個々の商品の縮率データや検査体制を確認することはできません。だから「日本製なら大丈夫だろう」という経験則を、検証の手間を省く目印として使っています。私たちが買っているのは品質そのものではなく、「品質への信頼」という記号。この意味で「日本製」は、品質表示ではなくブランドとして機能しています。
しかし覚悟店の熱狂は、それだけでは説明できません。2日間で3,000人を集めた原動力は、笏本さんの言葉を借りれば「わざわざ」の積み重ねでした。SNSで情報を見つけ、わざわざ予定を調整し、わざわざ会場の12階まで足を運ぶ。会場では「会いに来ました」「応援しています」と伝えに来るお客様が絶えなかったといいます。専務の中村啓吾さんも「弊社は『人』から入るお客様が多い」と話していました。
笏本さんには「知られなければ、存在しないのと同じ」という信条があります。国内のアパレル生産率は今やわずか1.1%(笏本さん・座波さんの取材時の言及による)。だからこそ11年間、一日も休まず発信を続けてきた。座波さんが日本製を「国防」とまで表現したのも、毎月のように縫製工場廃業の知らせが届く現場の実感からでした。来場者が買っていたのは「日本製」というラベルではなく、消えゆくかもしれない技術と、その担い手の顔が見える物語、そして「なくしたくない」という気持ちへの参加だった――取材を通じた筆者の解釈です。
「日本製だから」ではなく、「これが一番いい」へ
最後に、ひとつだけ気をつけたいことを書いておきます。「国産応援」の気持ちは尊いものですが、それが「作る人の国籍」の話にすり替わってしまうと、当の作り手たちの実像から離れてしまいます。岡崎さんの布団はインドやメキシコの綿でできていますし、笏本さん自身「ナフサや綿花など、日本だけでは賄えないものは海外との協力が欠かせませんし、日本製以外を否定したいわけではありません」と明言しています。覚悟店は排他の場ではなく、笏本さんの言葉では「僕たちがここにいる」という存在証明の場でした。
その笏本さんが掲げる目標があります。「私たちが目指しているのは『日本製だから』ではなく、『これが一番いい』と選ばれるものづくりです」。
「日本製」の2文字は、品質の証明書ではありません。けれど、そのラベルの向こうには、綿を見極める布団職人の目利きがあり、縮率を測り続ける縫製工場のデータがあり、8人9人の分業をつなぐ産地の連携があります。ラベルで判断を終えるのではなく、一歩踏み込んで作り手を知り、「この会社だから買う」「これが一番いいから買う」に変わったとき、その一回の買い物は、残したいものづくりを残す、いちばん確かな一票になるのではないでしょうか。
関連記事(日本製の覚悟店シリーズ)
行ってきました!話題の「日本製の覚悟店」その舞台裏
(https://makingthingsnews.com/notes/jp_kakugoten)作っただけでは、届かない。知ってもらって未来が動く/笏本縫製・TOSCOM
「裏方で終わりたくない」「着物が着物以外になる道を」未来へつなぐ2社の挑戦/ヌノニシタイ・Ajuda【②】
畳むはずだった仕事を継ぐ。異業種から来た二人の覚悟/さわたく工房・お布団本舗【③】(https://makingthingsnews.com/notes/jp_kakugoten3)
まだ知られていない価値を、新しいブランドで届ける/ズーム・カネ忠【④】
出典・参考
消費者庁「商品の原産国に関する不当な表示」(昭和48年公正取引委員会告示第34号)解説ページ(2026年9月3日参照)
公正取引委員会「『商品の原産国に関する不当な表示』の運用基準」(昭和48年事務局長通達第12号)
消費者庁 食品表示基準関連資料(加工食品の原産国名・原料原産地表示)
各社の発言はすべて、上記「日本製の覚悟店」シリーズ(2026年7月取材)より
